ミドル3-5『第二幕:束の間の日常』

GM:そうして波乱のゲームを終えたキミたちだが……ふと、エイルの視線がある一点で止まる。


エイル:『あれは何かな』

 そう言って興味を示したのは、リズムゲーム。俗に言う音ゲーだ。


GM:最後の最後、この判定に挑戦して貰いたい。




▼判定『リズムゲーム』

〈芸術:音楽〉 5

※全員挑戦。1人でも成功すれば判定クリア。

※全員失敗時、配布経験点『エイルと日常を楽しんだ』の項目が1点減少する。

※エイルも判定に挑戦する。それぞれの達成値を比較し、スコアの順位を決定。




マリー:「……?」

 当然知らないマリーは、何だアレは、という視線で稀生を見上げる。

稀生:「音楽に合わせてボタンを推していくゲームだな。やってみるか?」

エイル:『じゃあ、1回だけ』

稀生:「わかった。決まりだな」

 財布から100円玉を取り出し、マリーとエイルに手渡す。

マリー:「……拠点に戻ったら、ちゃんと返すの」

稀生:「ああ、構わないさ。いつも世話になってるしな」

マリー:「そういう事なら、お言葉に甘えるの」


GM:では、稀生から順番にやって行こうか。


稀生:さて、どうなるか……。

 (ダイスころころ)達成値7、普通だね。

マリー:ここに来て日和ひよる稀生なの……マリーも振るの。【感覚】の能力値なら10あるの。

 (ダイスころころ)クリティカル、クリティカル、そしてクリティカル! 達成値、33なの……(どやぁ)


GM:スコアは高い方からマリー、稀生の順番だ。エイルの判定は……ちょっと後に回そうか。


稀生:「――とまあ、こんな感じで遊ぶんだ」

 ステージはクリアしたものの、至って平凡なスコアだ。音楽に乗っていたというより、ゲームの光に反応してボタンを押した感じ。

マリー:「なるほど、完璧に理解したの」

 筐体きょうたいに歩み寄るマリー。その姿は、今までよりも力強く感じられる。

 散財したコインゲームで無駄に鍛えられた、無駄のないスムーズなコイン投入。稀生が選んだ曲の最高難易度を迷わず選び、ゲームスタート。

 超高速で流れ落ちるバー。普通なら見逃してしまうだろうそれを、エンジェルハィロゥの超感覚で見切り、ボタンをほぼ誤りなく連打していく。

「目標をセンターに入れてスイッチ。目標をセンターに入れてスイッチ……」


 ボソボソとそんな言葉を呟きながらゲームは終わり。果たして結果は……。


マリー:「見るのっ! 遂にマリーは勝利を掴み取ったの! これがマリーの真の実力なの!」

 プレイ評価SSランク。全国ランキングのトップに躍り出る。

エイル『やったね!』

 駆け寄り、喜びを分かち合う女性陣。しかし、ふと真顔に戻り。

『ごめんね、マリー』


 そう書き足すと、エイルは稀生に貰ったコインを握って筐体の前へ。ゲーム機にコインをそっと入れて、プレイする楽曲を選んでいく。


エイル:真剣そのものの表情で画面を見つめ、選んだのは全曲中の最高難易度。

『見てて。今日のお礼の気持ちを込めた、私のステージ』

 細い指が、スタートボタンを軽やかに叩く。


エイル:それじゃあ最後にエイルも判定を。ごめんマリー。先に謝っておくね。

 素の技能値〈芸術:音楽〉20に加えて、更に《ウィンドブレス》と《援護の風》を宣言。達成値と判定ダイスを増加させるね。

 (ダイスころころ)達成値44でフィニッシュ。


 前奏が始まり、一拍遅れで画面上部から高速で降り注ぐ大量の音符マーク。一般人にはまず反応不可能な密度だ。

 しかしエイルは一切取り乱す事なく、正確にボタンを連打する。ジャストタイミングの表示が連続で流れ、凄まじい速度でスコアが伸びていく。

 稀生とマリーはその様子に驚愕きょうがくを覚えると同時に、思わず見惚れていた。

 エイルの、何と楽しそうにリズムを奏でる事だろうか!

 全身を揺らして旋律に乗り、笑顔を浮かべて音ゲーに臨む彼女の様子は、とても美しく、尊いものに感じられる。

 そうしてエイルのステージは終わった。パーフェクトフルコンボを叩き出し、全国ランキングのトップスコアを更新して。


エイル:やり遂げた表情で、キミたちの元へと舞い戻る。

『今日の感謝の気持ち、ちゃんと届いたかな』

マリー:「綺麗なタップだったの……ボタンを押す音も一緒の音楽みたいで、凄かったの……!」

 再び敗北した事実すら忘れ、エイルのステージに聴き入っていた。

稀生:「……ああ、凄かったな。店の中が静かに感じられるくらい、聴き惚れてた。何て表現したら良いのか、ちょっと言葉が思いつかないくらいだ」

エイル:『良かった。今日は本当にありがとう。私きっと、この日を一生忘れない』


 そう言って、はにかむような笑顔を浮かべるエイル。それを眩しそうに眺めながら、稀生は口を開いた。


稀生:「こっちこそ、ありがとう。楽しかったし、良いもの聴かせて貰った。けど、そうだな。

 エイルにはこの先、もっと楽しい事が待ってる筈だ。忘れないでくれるのは嬉しいけど、忘れるくらい楽しく生きてくれた方が、俺は嬉しいかな」

エイル:『そう、なのかな』

 どこか曖昧あいまいな表情で問う。

マリー:「……それは誰にもわからない。でも、選ぶのはエイルである事実は変わらないと思うの。

 マリーは望んでここにいるの。血なまぐさい世界だけど、確かにマリーの居場所がある。

 どんな世界に身を置くか。どんな『この先』を選ぶかは本人次第。だから……」

 そこで、ポケットに1枚だけ残っていたゲームのメダルを取り出し、エイルに握らせる。

「選ぶと良いと思うの。エイルの行きたい、生きたい世界を」


 そんな2人の言葉に、エイルは意外そうな表情を浮かべ、少し考え込んでから答えた。


エイル:『この先の世界。そんなの、今まで考えた事もなかったけど』

 そこで一度、ペンを止め。しかし勇気を振り絞るようにぐっと頷き、再び自身の思いを書き記していく。

『選んでも、いいのかな。だって私』


 そこまで書いた、その瞬間。


一般客:「キャアァァァアアア――ッ!」


 唐突に、少し離れた位置の一般客から悲鳴が上がった――。

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