贅沢も無駄になる

つくづく嫌になるこの体型。同い年の男子の平均身長程あり腰周りが広い。上半身は細く薄く、手首や足首はキュッと締まっている。寸胴に見えるワンピースや足首の見えないスカートを履くと太って見えるのだ。これは骨格なので幾ら贅肉を落としても意味が無い。だからこそ余分な肉が十分に付いている体型の人を見ると、時折無性にイライラする時があるのだ。

菜緒なお、次体育だよね?」

「うん、着替え行こ」

体育前後の着替えの時は特に思う。隣のクラスの亜沙美あさみ。小学校までは仲良くしていたが私が体型を気にし始めた頃から疎遠になっていた。亜沙美はよく食べる為運動している割に至る所にぷくぷくと肉が付いている。ふっくらした柔らかい手首足首にクリームパンの様な手、当然の様にくびれなどあるはずも無く、お腹の肉のみならず背中の肉も薄ら下着の線に乗る。その分胸にも丸々と肉が付いているが、アンダーバストに肉が付いている為ブラジャーの上も下もたゆたゆと揺れていた。

「ねぇ、亜沙美の太腿見てよ。セルライト凄過ぎ」

隣の女子がその隣の女子に囁きかける。高校生らしからぬその足を見て数人がくすくすと笑った。ボコボコなのは足だけじゃない。顎や頬のニキビ跡に、よく引っ掻いている項だって赤くボコボコ、ポツポツしている。皆がチラリと亜沙美を見る中、本人は学校指定スカートの下に体操着を履こうとしている。私にはその姿がヒグマの様に見えて、こうはなりたくない、と強く思った。櫛で梳かしているかも怪しいショートボブがワサワサと前に来て顔を隠す。体操着の上からジャージを羽織り思い返した。奥二重も知り合ってすぐは幅は狭いものの二重だった。唇の線からはみ出る程リップグロスを塗った口は厚かったけど鱈子唇ではない。でもグロスのせいで更に分厚くぼってりと重たく主張している風に見えるし、何よりベタベタしているのがすぐに分かる。クリーム色の肌に色濃く浮き出ているソバカスがシミに見えてしまう。高校生にもなって見た目に一切気を使わない亜沙美は同級生の中で一番と言って良い程老けて見えた。

「亜沙美彼氏出来たって噂だよ」

「え?まじ?」

私も思わず聞き返しそうになった。

「何か街中で大学生くらいの人と歩いてたんだって」

「兄弟じゃない?」

「亜沙美一人っ子だよ」

「じゃあ本当に彼氏?」

「詐欺じゃない?お金取るだけ取って逃げる系の」

「あー、それだ」

好き勝手言うだけ言って更衣室を出て行った女子の軍団を恨めしそうに睨む亜沙美。そんな人じゃない、と確信出来る人なのだろうか?それとも自分に自信があっての態度なのだろうか?どちらにしてももう少し考えた方が良いと思う。あの子苛められやすいし。太ってる。内気。人見知り。空気を読みすぎるせいで全く自分から手を打とうとしない。外見も内面も可哀想な子だ。

「菜緒行こう?」

「うん」

チラリとヒグマの様なその体型に目を向けて数人と更衣室から出ると中から、気にしないで、と慰める声が聞こえた。私達に目をつけられるとでも思っているのだろうか?それとも内心哀れんでいるのだろうか?どちらにしろ都合の良い八方美人達だ。私は舌打ちしたい衝動を抑え体育館に向かった。

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