わたしたちの穴
福田 吹太朗
わたしたちの穴
はじめに
この世界には、不思議なものがたくさんある。
例えば・・・例えばの話だが、あの、ドーナツの穴などは、誠に面白いではないか?
まん丸いパンというか、バンズの中央に、たった一つだけ、穴が空いただけで・・・それだけで、ドーナツという全く別の名前で呼ばれ、他のわりかし平凡なパンとの差別化を図る事が出来るのである。・・・考えようによっては、ただ単に、生地をケチっただけのようにも思えてしまうのだが、しかし、あの穴が・・・空いていなければ・・・当然の事ながら、ただの普通のパンになってしまうのである。
つまり・・・穴は、不必要だから開けたのではなく、必要だから開けたのである。
おそらくそう・・・きっとそうに違いないのだ。
1
ここはとある、都市の郊外にならどこにでも有りそうな、ショッピングモールの中にある、ちょっとした小洒落たカフェの店内である。
その一つのテーブルの上の、皿の上に・・・その、何の変哲も無いドーナツは置かれていた。
それを頼んだのは、一組のカップルの、男の方だったのだが、女の注文した物はなかなか来ないらしく・・・男は、女の物が来るまでは、自分の物には先に手をつけない主義だったので・・・実際は早いとこ食べたくて仕方がなかったのだが・・・ナイフとフォークを持ったまま、じっと待っていたのだった。
ふと、女の方が、
「・・・先に食べたら? ・・・私は一向に構わないわよ・・・?」
「ああ・・・けどね。・・・分かってるだろ?」
「ああ・・・まあ。」
女は、その男の性格というか、妙に几帳面な事はとうの前から知っていたので・・・そのくせ、彼の部屋は割と煩雑に散らかっていたりするのだった・・・なので、ただ自分も黙り込んで、注文した、パンケーキの上にパフェ状のクリームのようなものが載って、さらにその上にアイスが盛り付けてある・・・少なくともメニューの写真はそうなっていた・・・を、ただひたすら待っているのだった。もう少し、単純な物を頼めば良かったと、少しだけ後悔はしつつも。
やがて・・・ようやくその女の方が頼んだ物が運ばれてきて・・・それは確かに、そこそこの豪華なシロモノで、まあ、待った甲斐はあったかな?とでもいう物ではあったのである。
そして、男の方も、自分のドーナツを食べようと・・・ふと皿の上に置かれた、ソレ、を見ると・・・
「アレ・・・?」
「・・・どうしたの?」
女の方は、早くも食べ始めていて、口をモグモグとさせていた。
「・・・ドーナツの・・・穴が・・・」
皿の上の、ドーナツ、は、確かに男の言う通り、真ん中に堂々と空いている筈の、穴が無くなっていて、それはただの・・・丸くてツルツルとしただけの、パンになっていたのだった。
男はフォークとナイフを持ったまま、唖然としていたのだが、女の方はというと・・・そんな事はお構いなしに、自分の豪勢なデザートを頬張るのに精一杯な様子なのだった。
「おかしいなぁ・・・確かに僕が注文したのは、ドーナツだったよね? ・・・ここにさっきからあったのも。」
「・・・もしかして違っていたんじゃない・・・?」
女は、早くも、一番下のパンケーキにたどり着いていた。
「・・・こんな事って、あるものなのかねぇ・・・?」
「・・・お店の人に訊いてみたら・・・?」
男はしかし、そんな事で一々クレームとまではいかないまでも、指摘するのはバカらしかったので、大人しく、その、穴の空いていない、ドーナツ、を食べ始めたのだった。そしてそれは・・・当然の事ながら、ただのパン同然で、何か違和感というか、全く違う物を食している気がして・・・しかしふとテーブルの上の伝票を横目で見ると・・・確かに何たらパフェケーキと・・・◯◯ドーナツ、と書かれていたのである。
そして・・・女の方はというと・・・もうとうにその何ちゃらパフェケーキは食べ終わっていて・・・至極ご満悦な様子なのであった・・・。
2
その全く同じショッピングモールの、しかも真向かいの全く別のカフェのようなレストランのような店内に・・・休日などには割とどこにでもいそうな・・・別の若いカップルがテーブル席についていた。
そのカップルはかなりラブラブらしく・・・お互い熱い視線を交わしつつ、見つめ合ったりしていたのであった。
女の方が、少し照れたように、
「・・・ちょっと。何見てるの?」
男の方も、少し照れくさそうに、
「何・・・って。・・・キミに決まってるじゃないか。」
「恥ずかしいじゃない。」
と、女はしかし、嬉しそうに笑った。
「いやだって・・・キミをいつまでも見ていたいから。」
「ウフフ・・・」
はたから見たら、ブン殴るとまではいかないまでも、悪態の一つでもついてしまいそうなところだったろうが・・・しかし他人は他人、そもそも、ラブラブでいられるのも永遠とはいかないであろうし・・・だいいち、その一部始終を見ている者などいる筈もなかったのだった。
テーブルの上には、すでに何か温かい飲み物が運ばれていて・・・しかしそのカップから出ている湯気は、徐々に勢いが弱まってきているようにも見えた。
「・・・何をさっきから見てるの?」
女が、もどかしそうに、しかしながら、嬉しそうに照れくさそうに言った。
「・・・だから。キミのその、可愛い顔だよ。」
「もう・・・! ・・・そんなに見つめられたら・・・顔に穴が空いちゃうわ・・・?」
男は、その言葉通りというか・・・穴が空くほどに、女の顔をひたすら見つめていたのだった。
そして・・・それは起こったのだった。・・・いや。起こるべくして起こったのかもしれない。
女が、ようやく自分のカップに砂糖を入れて掻き回そうと、スプーンを手に取ろうとしたのだが・・・それが手に付かなかったのか床に落としてしまい・・・テーブルの下に屈んで、それを拾って、また顔を上げると・・・
「・・・!」
男が思わず、声にならない声を上げてしまったのだった。
女が怪訝そうな表情で訊いた。
「・・・何? ・・・どうしたの?」
男の体は微かにだが、プルプルと震えていた。
「その・・・顔・・・」
女がなおも理解出来ずにいると、
「鏡・・・鏡で・・・見てみて・・・?」
男の顔は明らかに青ざめていた。
女は言われるがままに、自分のバッグから、手鏡を取り出して、自分の顔を見た・・・。
そして・・・その手鏡を持つ手は・・・ワナワナと・・・震えていたのであった・・・。
女の顔・・・それは額の辺りに・・・それは文字通り、穴が空くほど見られたからなのか、直径4、5センチほどの丸くて黒い穴が・・・確かに、それは傷とか、ホクロなどではもちろんなく・・・確かに立体的に、奥行きのある、穴が・・・空いていて・・・。
二人はすぐに・・・まるで逃走中の犯罪者さながらに、そそくさと、その店を後にしたのであった。
女の方は・・・ハンカチで、額を押さえるフリで、その、なぜそのような事が起きたのかは皆目見当が付かなかったのだが、穴、を隠しながら、その店を、そしてショッピングモールを後にしたのであった。
3
ショッピングモールからまるで、ボニーとクライドだか、ルシアンとフロイドだかのように逃げ出した二人は、とりあえず駅に着いて、電車に乗りさえすれば、何とか二駅ほどで、自分達のアパートに帰り着けるのだった。
しかしながら・・・慌てて駅まで来たので、特に女の方がだが、二人とも息を切らしていたので、
「・・・ゴメン、私、ちょっとトイレに行ってくる・・・」
と、走って行ってしまった。もちろん、相変わらず額はハンカチで押さえながら。
男は心配だったのだが、まさかトイレにまで着いて行く訳にはいかないので・・・改札付近でしばらく待つ事にしたのだった。
女はすぐにトイレを見つけると・・・とりあえず一目散に駆け込んで行った。
その途中、女子トイレの手前で、反対側の男子トイレから出て来た一人の若い男と、出合頭にぶつかってしまった。しかしながら、女は焦っていたし、お互い特に謝る訳ではなく・・・ともかくも、女はトイレへと入ると、用事を済まし、そうして一息ついたのか、鏡の前で化粧の事など全く気にせず、顔を洗ったのだった。
そうして・・・バシャバシャと顔を洗い、顔を上げてふと、目の前の鏡を見ると・・・なんと先程までは確かにあった筈の、存在した筈の、額に空いた、穴、が無くなっていたのであった。
女は驚き、何度も実際手で額を触れて、確かめたのだが・・・確かに穴は無くなっていたようなのだった。
改札付近で、ジリジリと心配しながら待っている男の元へ、女がなぜか、先程までとは打って変わって、スキップの様な軽い足取りで戻って来たのであった。
「・・・どうしたんだい?・・・大丈夫かい・・・?・・・あ。」
男はすぐに、女の額、それもごく普通の、平常時に戻った事に気が付いたのであった。
「なんか良く分かんないけど・・・無くなっちゃったみたい。」
と、先程までの狼狽振りとは正反対に、女は上機嫌なのであった。
「・・・なんだ。良かったじゃないか。」
「なんか・・・勘違いだったのかも。大体、おデコに穴が空くなんて・・・」
「いやでも・・・」
と、あくまでも、男は自分の目を信じて疑いはしなかったのだが・・・女の方がまた以前の様に上機嫌に戻ったので、二人もまた、ラブラブのカップルに戻ると、腕を組んで、二人とも上機嫌で、家路へと着いたのであった。
4
ここは、とあるアパートの一室である。・・・なんだか中はまだ日中だというのに、薄暗く、ジメジメとしてさえいて、まあ、日当たりが悪かったせいもあるのだろうが・・・そうしてやがて、その家の主である、若い男が帰って来た。
その人物は・・・なんと先程、駅のトイレの前で前述の女とぶつかった、その人物なのであった。
その男も・・・歳は26、7で、決して老けているとか、見てくれが悪いとかでは無かったのだが・・・その部屋同様に表情は暗く、たった一人でこの都会で、孤独感と常に闘っている様な人物なのであった。
男は部屋に入るなり、特にやる事は無かったのだが、晩御飯にはまだ時間があったので、一人、PCに向かって黙々と、ただマウスを動かす手だけが、忙しげに動いていたのであった。
男はしばらくして、少し疲れてきたのか、ふと、手を止めて、一つ背伸びをした。そして・・・何気なく部屋の中を見渡すと・・・次の瞬間、ハッとなって、明らかに顔つきが変わったのであった。
男の視線の先には・・・薄汚れた黄土色の様な、ベージュの様な壁があったのだが・・・そこになんと、一つの、穴、が空いていたのであった。
男は素早くその穴に近付くと・・・それは直径2、3センチ程で・・・実はその壁の向こうの部屋というのは・・・。
男は、やはりその壁に空いた、穴、が気になるのだろう?・・・時折覗き込んでは・・・しかし、まだその、隣人、は部屋には戻っては来ていないらしく・・・ウロウロと歩き回りながらも・・・そしてなぜか一度ガムテープでその穴を塞いで・・・そうして自分は早々に食事を済ませると・・・しばらくの間は、その狭い暗い部屋で仰向けになっていたのであった。
・・・しばらくすると・・・ガシャリ、という音がして・・・どうやらその隣室の住人が、帰宅をした様なのであった。
男はそれを待ち受けていたかの様に・・・実際そうなのであったが・・・素早く、そして音も立てずに起き上がると・・・自分の部屋の電気はあらかじめ、消してあった・・・そうしてゆっくりとその、穴、へと近付いて・・・先程自分で貼り付けたガムテープを剥がして・・・おもむろにその穴から、隣室を覗き込んだのであった。
男の目に映ったものは・・・大体察しのつく事であろうが・・・若い女性の姿なのであった。
しかも、男はその女性のことが前々からとても気になってはいたのだが・・・元来内向的な性格であるのと、なぜか男の生活リズムは、その隣人のそれ、とは合わないらしく、滅多にアパートの通路でも顔を合わせた事は無かったのだった。しかも・・・顔を合わせた時には決まって、その若い女性、は、帽子を目深に被り、必ずと言っていいほど、サングラスをかけていたのだった。たとえ冬でも、夜であるにも関わらず、だ。
しかしそれが却って、男の好奇心、もっと突っ込んで言うならば、要するに欲望をより一層大きくして、妄想というか、そういったモヤモヤとしたものが、ムクムクと嫌が応にも際限なく膨らんでいったのである。
・・・そこへ、この、穴、が出現したから、男にとっては正に渡りに船、というより、導火線に火をつけたも同然なのであった。
男の心の中にはもはや、道徳心、やら、倫理観、などという言葉や概念などは存在していないも同然なのであった。
男は一晩中その穴をひたすら覗き込み、時が経つのも忘れ、しかしながら気が付かれては元も子もないので、なるべく気配は殺しつつ・・・そうして一体何時間が経過したであろうか・・・? 男の目に何が映ったのかは、彼のみぞ知る、ところなのであるが・・・どうしても彼には一つだけ気掛かりな事があった。それは・・・女の顔が一切見えなかった事なのである。他の部分は・・・まあ、それはひとまずは置いておく事として、男にはその若い女の顔だけがどうしても、どうやっても・・・そこは男なりにもいろいろと試みてはみたのだが・・・どの角度になっても、向きになっても、女の顔だけは・・・伺う事さえ出来なかったのである。それだけが・・・いや、むしろそれが一番重要な事と言っても決して言い過ぎではなかったであろうから、その心の内のモヤモヤはやはりどうやっても晴らす事が出来ず・・・しかしそうこうしているうちに・・・どうやら睡魔がついに襲って来て、男も、そして隣室の女性も、眠りについたようなのであった。
・・・そして男が次に気が付くと・・・スズメの鳴く声がしていて・・・もう朝になっていたのであった。
男は眠たい目をこすりながら目覚めると・・・すると何だか、股間の辺りが・・・モゾモゾとして違和感を感じて・・・しかも無性にかゆくもあったので・・・ふと手で触れると・・・
「・・・⁉︎」
・・・何と、男の股間の中央辺り・・・ちょうどパンツで言うと・・・ファスナーのある部分辺りが・・・何と空洞になっていて・・・要するにそこに、穴、が出来ていたのである。
そして驚いた事に・・・昨晩までは確実にあった筈の、壁に空いた穴が・・・綺麗サッパリ無くなっていたのであった。
つまりは・・・壁にあった穴が、男の股間に・・・移動したとしか・・・少なくとも男には、そうとしか考えられないのであった。
男はそれでも、隣室の事が相変わらず気になったのか、耳を壁にくっつけてみたのだが・・・どうやら隣人はもうすでに出かけた後のようなのであった。
男はその日はたまたま、仕事は休みの日で、ちょっと出かけてみたくもなったのだが・・・しかしながら、股間に、穴、が空いた状態では外出をする訳にもいくまい。仕方なく、その日はその日当たりの決して良くはない、狭い部屋で大人しく過ごすしかないのであった。
そうして恐ろしく退屈な時間は意外とあっという間に過ぎて行き・・・また夜になり・・・どうやら隣室の住人はご帰宅の様子なのであった。
しかしながら男が隣の部屋の様子を伺おうにも・・・もうすでに壁の、穴、は無く・・・そして男の股間には、ソレ、はまだ存在していたのであった。
・・・と、いうワケで、男にはもはや為す術は無く・・・ただひたすらジリジリとしながら、時折股間の穴を確認しつつ、時には中に手を突っ込んでみたりもしたのだが、それはまるで、ブラックホールのように、無限に奥まで続いているような気がしたので、怖くて奥の方までは手を入れられなかったのであるが・・・しかしながら、気が付くと・・・またしても睡魔という魔物に襲われて・・・いつの間にやら深い眠りについていたのであった。
そして・・・男が目を覚ますと・・・やはりスズメがチュンチュンと鳴いていて・・・その日は男は仕事の日だったので、慌てて飛び起きたのであった。
そしてまたまた驚いた事に・・・今度は男の股間に昨日の晩までは確かにあった筈の、穴、は、まるで跡形もなく消え去っていたのであった。
男が股間を念の為触ってみると・・・確かにそれは、男のよく触り慣れた、いつもの股間、に間違いはない様なのであった。
そして・・・ハッと気が付いて・・・前々日に、穴、が空いていた壁の辺りを見てみたのだが・・・そこにはやはり、穴は無く、ただの薄汚れた壁があるのみなのであった。
男は首を何度も傾げつつも・・・しかし仕事に遅れるのはまずいので、そそくさと支度をすると、とりあえず大急ぎで、その暗く狭い部屋を出て行ったのであった。
5
・・・一方、そんな事とは露知らず・・・もちろん、隣室の見知らぬ男に覗かれていたとは、全く気付かずに・・・その女性は、その日は仕事には行かずに・・・出勤しなければいけない日ではあったのだが、その女には・・・ある事情があって・・・彼女は実のところ、コンプレックスの塊のような人間なのであった。
特に・・・自分の見てくれ・・・さらに言うと、自分の容姿、特に顔には全く自信が持てないでいたのであった。
以前、精神科医だかカウンセラーだかには、「醜形恐怖症」などという、診断名を付けられたのだが、彼女にとってみれば、病名などは正直どうでもよく、要するに、日常生活をごく普通に営めるかどうかという事の方が、最重要の、最も気になる点なのであった。
ただでさえ彼女は、表を出歩く時は、サングラスと、ツバの広い帽子とマスクは必需品なのであった。もちろんのこと、仕事中には、それらは全て外さなければならなかったのだが、しかしそこは仕事だと割り切ってしまえば、意外と何とかこなせてはいたのであったが・・・やはりプライベートとなると、いつも自分がどう見られているのか?・・・あるいは、自分はまるで怪物か妖怪か何かのように、醜い生き物だと・・・そして、それは実際に・・・災い転じて更に災いが訪れたかの様に・・・現実の事として、彼女の身に遂に降りかかって来てしまったのであった。
それは・・・朝起きて、いつものように鏡に向かうと・・・実際、このルーティーンでさえも、ただでさえ彼女にとっては、苦痛を伴うものだったのだが、その日に限っては・・・更に追い討ちをかけるというか・・・やはり現実の世界というものは、無情というか、情け容赦無い、という事を改めて認識、再確認する羽目になってしまったのであった。
鏡に映ったその・・・彼女の顔は・・・おそらくごく普通の人間ならば、そこそこ、いや、例え贔屓目に見なかったとしても、平均以上、いや、それ以上の、可愛らしいルックスをしていたのだろうが、その、「醜形恐・・・何とか・・・」と診断されてしまった彼女にしてみれば、それでも、全く納得のいかない、というより・・・これは堂々巡りになってしまうので、先に進む事にするのだが、ともかく、その朝の鏡に映った彼女の顔は・・・何とその中央部分に、ポッカリと、大きな穴が空いていて・・・それは彼女にとってみれば、もしかしたら良い事なのかも知れないのだが・・・つまりは少なくとも、自信が全く持てない、顔のパーツ自体は総て無くなってしまっていたので・・・それともその「醜形・・・」の症状に余計に拍車がかかってしまうのか・・・ともかくも、そのままでは外に出られない事は明らかで、仕事などは以ての外なのであった。
・・・と、いう訳で、会社には体調が悪いと連絡を入れて・・・しかし一刻も早くこの、穴、を塞いでしまわねば、外出すらままならない事は、火を見るより明らかなのであった。
しかし・・・以前の事もあったので、精神科を受診する気にはなれず・・・と、言うより、今度は現実として彼女の思い込みなどでは決してなく・・・その証拠に、自分の手で顔をまさぐる様に何度も触ってみたのだが・・・確かにその大きな、穴、は実際に本当に空いていたのであった。最早これは精神科というよりは、整形外科だか形成外科だかに行く必要があるのではないか? ・・・しかし彼女にはその様な病院を、受診する為の現金の持ち合わせや、良く知っている医療機関は全く思い付かず・・・さらに不思議な事に、目は無いのに、きちんと目の前のものは見えていて、鼻と口は無い筈なのに、呼吸も出来ていたのであった。
つまり・・・ただ単に顔のパーツが穴によって無くなってしまったという訳ではないらしい・・・これはもしかしたら、何かしらの、超自然的な、神秘的な力が働いていて・・・彼女は意外とそういったジンクスやら、占いやらを、信じやすいタチではあったので・・・実はもうすでに、彼女自身、行くべき場所は、心に決めていたのであった。
そして・・・それからは行動は素早く・・・こういう時にまさか、いつものサングラスと帽子とマスクが役に立つとは、彼女自身驚きだったのだが・・・それらで、顔に空いた、穴、のほぼ全ては覆い隠せたのであった。
そして、なるべく人目につかないように気を遣いながら・・・アパートの自分の部屋を出て・・・とある場所へと向かったのであった・・・。
6
・・・そこは、町外れの、ちょっとした住宅街の中の、なんて事はないただのボロアパートだったのだが・・・その一室のドアを、ツバの広い帽子にサングラスにマスクの、一見するとかなり怪しそうな、女がノックをすると・・・中からは、一人の髪の長い女性・・・その人物も、雰囲気からしてかなり怪しかった・・・が、ひょっこり顔を出して、そうしてすぐに、顔の周りをいろいろな物で覆い尽くされた女性に、中に入るように仕草をしたのであった。
・・・女性が中に入ると・・・何らかのお香の匂いだろうか・・・?・・・部屋中に立ち込めていて、部屋の壁という壁、柱やら棚や窓にさえも何かのおまじないなのか、魔方陣やらお札やら、御守りやら、魔除けの飾りやら、おおよそ御利益の有りそうな物は全て、宗教宗派などはまるでゴチャ混ぜに、飾り付けられ、貼り付けてあるのだった。
顔全体を覆い隠したその‘依頼人’である女性は、部屋の主である、‘祈祷師’に言われるがままに、顔の周りを覆っている、仮面、を全て剥ぎ取ったのであった。
おそらくこの世の、いや、あの世の事も含まれるのかもしれないのだが、有りとあらゆる異様な物は見てきたであろうその女性も、さすがに、顔の中央部分全体に穴が空いた人間を見るのは、初めてだったのであろう・・・? 思わずほんの一瞬だけ、ギョッとした表情をしたのだが・・・そこはやはりプロの祈祷師である。
すぐにまた、冷たいほどの冷静で落ち着き払った表情に戻って・・・そうして一旦少しだけ奥の部屋に引っ込んで・・・すぐに良く占い師なんかが使うイメージのある、細い何本もの棒・・・依頼人である女性には、それが一体何と言うのかさえ分からなかったのだが・・・しかし、期待と不安の入り混じった表情で・・・実のところ、顔には穴が空いていたので、実際のところは表情は全く分からなかったのであるが・・・ともかくも、その、何か・・・が始まるのをじっと待っていたのである。
そして・・・およそ5分、いや、15分くらいは経っただろうか・・・? しかしながらその、祈祷師らしき女性は特に何をする訳ではなく、その、見ようによっては、さい箸の束にも見えなくはない、それらを胸の前に束ねて持って構えたまま・・・じっと身じろぎもせず・・・目だけは閉じていたのだが・・・そして、結局は何もしないまま、その祈りにも似た、儀式、は終わったようなのであった。
顔の中央に穴の空いた女性が、おそらく、キョトンとした表情をしていると・・・祈祷師が一言、ポツリと、
「・・・終わったよ。・・・いやぁ・・・今までのお祓いの中でも、一番手強かったねぇ・・・」
顔に穴が空いた女性は、ふと、自分の顔を触ってみた。
すると驚いた事に、先程までは確かにそこに存在していた筈の、穴、は無くなっていて・・・昨日までと同じく、目、鼻、口、眉毛等が、そこには復元されていたのであった。
まあ、彼女にとっては、それが良い事なのか、良くない事なのかは、また別の問題なのであったのだが。
ともかくも、彼女はひとまずはその極めて優秀な、祈祷師、に礼を述べて・・・そしてもちろんの事、謝礼もしっかりと支払って・・・そうしてその、お香臭いアパートを後にしたのであった。
そして・・・ほんのちょっとだけ、彼女はまるで自分の容姿に自信を取り戻したかの様に・・・彼女はそれまで、テレフォンオペレーターとか、事務職とか、あまり表には出て来ない、人目につかない様な仕事を主にしていたのだが・・・これでもしかしたら、接客業などの、実は念願だった職種に就く事も出来るのではないかと・・・少しだけ希望が湧いてきて・・・そのせいなのだろうか?・・・その表情からは伺えなくもなかったのだった。
7
・・・しばらく経った後の事。
例の、「醜形恐怖症」であった、女性は、今はもうすっかりそういった恐怖心は克服しつつあったのか、昼間は前と同じように、割と最近は頻繁に、仕事の休みの日になると、以前は自分のアパートの一室にこもっていることが多かったのであるが、昼間はショッピングや、映画を観に出掛けたり、夜になると・・・それこそ都会の片隅にありとあらゆる人びと、しかも皆オシャレに着飾った者ばかりだったのだが、クラブ、やら、ライブ会場やら、時にはまず以前では考えられなかった、ちょっと小洒落たバーのような所へ1人で行って、ごく普通に振舞いながら、以前はそれほど飲みもしなかった、何だかそれまでは知りもしなかった名前の、カクテルなんぞを、澄ました表情で1人飲み、楽しんでいたりしたのであった。
・・・と、そこへ、1人の、明らかにこういった場所に頻繁に出入りしているであろう、遊び人風だが、しかしとても物腰は柔らかく、しかも少々背は小柄ではあるが、イケメンの、若い男に声を掛けられたのであった。
その男は足繁くそのバーに、男だけで3人で来ているらしく、前にもその女性は何となく見掛けた事はあったのだが・・・しかしもちろん、女の方から声を掛ける事などはなく・・・しかし今回初めて、その男の方から声を掛けてきたのであった。
「・・・やあ。どうも。アレ? 前にも見掛けたっけかな・・・? ・・・良かったら、向こうで一緒に飲みませんか・・・? もちろん、好きなだけキミの好みのものを頼んでいいから。・・・何なら、この店で一番高いのを頼んじゃいましょうか・・・? ウン十万はするらしいケドね・・・」
・・・などと爽やかに笑ったその男は、ナンパをするにしては割と礼儀正しく、話し方も丁寧で、しかもアルコールが入っていたせいもあったのだろうか・・・? その女は、言われるがままに、その男について行ったのであった。
・・・そこは店の一番奥の、ちょっとした衝立のようなもので仕切られていて・・・一緒に現れた他の2人とは別に、先客がいたらしく、1人のアタッシュケースを持ち、シルバーグレーのスーツ姿の、ビジネスマン風の男が・・・しかしフチなし眼鏡に光るその目つきはヤケに鋭く・・・残りの2人の内、1人はナンパした男よりは背が高く、ヒョロヒョロとしてはいたが、同じくらいの年齢の、一見ごく普通のどこにでもいそうな男で、もう1人は・・・2人よりは年齢はかなり上で、片脚が不自由なようにも見えた。
背の低い男と女がその場に入って行くと・・・そこにいた3人は途端に黙ってしまったのだが、すぐにまた、まるでこういった場所には似つかわしくない様な、真剣な表情で、やや声量を落としながら、まるで商談でもしているかの様だった。
しかしあくまでも背の低い男は、女に向かってにこやかに、
「まあ・・・あんまり気にしないでね? ・・・今はたまたま、ビジネスの話の最中だったんだ。・・・いつもは陽気に飲んでるんだケドね。」
そして、2人は、その真剣に話す3人の男たちとは少しだけ離れた席に座り、男の方は、相変わらず陽気で饒舌なのであった。
「・・・あ、ホラ、もうグラスが空じゃぁないか? ・・・何か頼むかい? ・・・一番高いのを、頼んでみる・・・?」
女はそこで、急に警戒心が解けたのか、なぜだか吹き出してしまった。男もつられて笑った。
「・・・ジョークじゃないぜ?」
それから男は、ほんの少しだけ声を潜めて、商談、をしている3人の方を気にしながら、
「・・・実を言うとね、もうじき・・・大金が入って来る予定なんだ。もちろん真っ当なビジネスでだけどね。・・・今はその、打ち合わせ中ってワケ。」
女はいつもより飲み過ぎていたせいもあってか、さほどその件に関しては気にもせず、とりあえず、無難な値段の、いつもよく飲むカクテルを注文したのであった。
「・・・なんだい? ・・・そんなんでいいの・・・? ・・・あ、それから、今のカネの話は内緒だからね。・・・特にあの3人には。俺が喋ったってことは。」
と、男は、その時だけは真剣な表情で、念を押したのであった。
女はただ、ただ黙って頷いてみせたのであった。
・・・それから程なくの事である。
男と女は、そういった関係になった。
実のところ、女はそこそこの年齢ではあったし、見た目もかなりいい方の部類に入るのではないか?・・・というルックスをしていたのだが・・・例の、恐怖症のせいで、今まで特定の誰かと付き合った事など皆無なのであった。
しかしその件に関しては見栄を張り、というか決して言い出せはしなかったので、今まで4、5人の男性と付き合ったことがある、などと適当に誤魔化したのだが・・・元々遊び人らしい男の方は意外にも、そんな事はあまり気にはしていない様子なのであった。
そして・・・女がその男と出会ってから、3、4週間後にはもう、女は住んでいた安アパートの部屋は引き払って、男の住む高級マンションの一室へと、移って行ったのであった。
ふと、引越しの際に隣の部屋の前を通ると・・・その部屋の男は1、2週間前に同じ様に部屋を出て行った様で・・・女の印象では、見てくれはなかなか良かったのだが、妙に陰気臭い、そして隣人なのに一言も声を交わした記憶も、女には全く無いのであった・・・。
8
・・・それからおおよそ、1ヶ月程経ったある日のこと・・・とある事務所で・・・それは名前は訳あって公にする事は出来ないのだが・・・かなり名の知られた政治家が電話を取り、そして何事か話していたかと思うと・・・慌てふためくようにして、その事務所を後にして、お抱えの運転手の運転する高級車で、とある場所へと向かったのであった。
・・・そこは・・・とある銀行の、地下にある、貸金庫ばかりがある、しかしながらごく一部の人間のみに使用を許された、特別な部屋なのであったのだが・・・政治家と、後から駆け付けた彼の秘書とが、立ち尽くしていたのだった。
そしてその表情は・・・唖然としていて・・・彼らの視線の先には、その政治家の貸金庫が・・・実のところ、それはごくわずかな人間しか知らない、彼自身の裏金の保管用にわざわざ作られた、貸金庫だったのだが・・・なんとそこには・・・中央にポッカリと、真っ黒い、そしてどのようにして切断したのかは、そこにいた誰にも皆目見当はつかなかったのであるが・・・まん丸くまるで鋭利な刃物で切り取ったかのような鮮やかな切り口で、穴、が空いていたのであった。
政治家は、苦虫を噛み潰したような渋い表情で・・・それは今まで誰も見たことが無いような表情だったのだが・・・そして無論の事、中に保管されていた現金、株券、証券の類、小切手等は、すべて持ち去られていたのであった。
その政治家は、すぐ横にいたその銀行の支配人に尋ねた。
「・・・これは・・・一体どういう事だね・・・? 警備は厳重のはずでは・・・?」
政治家は怒りを懸命に押し堪えながら、しかしながら、その手の指先は小刻みに震えていたのだった。
「・・・誠に申し訳ありません・・・現金の方は・・・すぐに当方でなんとか都合致します・・・それから・・・」
「・・・ああ、それは当然の事だろうな。・・・しかしながら・・・このような事をやらかした連中には、きちんと落しま・・・責任を取ってもらわないとな。」
秘書の顔が、一層険しくなり、銀行の支配人の表情は、ますます曇っていったのであった。
その政治家はそんな事はお構い無しに、続けた。
「・・・カメラには、もちろん写っていたんだろう・・・?」
「ええ・・・それはもちろんです。・・・全部で3人いたようです。」
「なるほどな・・・」
「警察に、通報致しますか・・・?」
政治家は、目をまん丸くして、少し凄むように言ったのだった。
「・・・何だって・・・? ・・・この事は一切外部に漏れないように、内緒にしておいてくれたまえ。・・・後の事は、我々で何とかする。」
「・・・分かりました・・・誠に申し訳ありません・・・」
「・・・ま。キミが全責任を負う必要はない。・・・後の事は我々に任せ給え。」
そして・・・彼らはその貸金庫室を出ると・・・政治家は秘書の耳元でこっそりと、
「・・・するべき事は分かっているよな? ・・・キッチリ、片を付けるんだ。・・・しくじるんじゃないぞ? ・・・いいな?」
秘書は黙って、頷いた。
するとすぐに、その政治家と、外の高級車の前で待っていた、運転手とは、車に乗って走り去って行ってしまった。
・・・ただ一人残された秘書は・・・とても青ざめた顔となり・・・ながらも、直ちに携帯で、どこかのいずれかに電話を掛けたのであった。
そして、電話を掛け終わると・・・銀行の支配人を呼び、監視カメラの映像を見せるようにと、指示を出したのであった。
9
・・・そこは先程の銀行の支配人室。
政治家の秘書と、支配人、そして・・・先程はいなかったもう一人の人物が・・・その男は、鼠のような顔をしていた・・・目と眉とが異様に吊り上がり、頰はこけ、顔の色は灰色がかっていて・・・そしてただならぬ、一種近づき難い雰囲気を醸し出していたのであった。
3人は・・・監視ビデオの映像をじっと食い入るように見ていたのだが・・・やがてその、鼠のような顔の男が、納得したかのように、一、二度頷くと、
「・・・もう何か分かったのかね?」
と、秘書が少し怪訝そうに聞くと、その男は不敵な笑みを浮かべて、
「・・・ええ、まあ・・・。ところで・・・」
支配人がここで、空気を読んだのか、一旦部屋から出て行ったのだった。
「・・・報酬の方は・・・よろしく頼みますよ・・・? 何しろ・・・あまり割りに合わない仕事ですからね。あと、出来高でいいので、ボーナスの方も・・・」
男はニヤニヤとしていて・・・秘書はほんの少しだけ、やれやれという気分になったのだが・・・しかし、こういった仕事を他にやれる人間はいないとは分かっていたので、
「・・・ああ。分かっているとも。・・・ただし・・・ボーナスは、現金を全て回収するのが条件だからな・・・?」
その鼠顔の男・・・実はかなり腕の立つ・・・いわゆる‘殺し屋’のような事を稼業として請け負っている人物だったのだが・・・要するに、表の世界の人間が手を出せないような汚れた仕事を一手に引き受ける、この様な事態にはうってつけの、便利屋のような・・・そうしてもうかれこれ、20年近くは、この裏の世界でメシを食っている様な人間なのであった。
「本当に・・・目星は付いたのか・・・? あの映像だけで・・・」
と、秘書が重ねて訊くと、男は又しても、不敵な笑顔を作り、
「・・・ええ、まあ・・・心当たりは有るには有ります。・・・で、もう一度だけ確認しますが・・・いいんですね? ・・・最終的な解決手段を用いてしまっても・・・。」
秘書は、ほんの少しだけ、血の気が引いたような顔付きになりながらも、
「・・・ああ。先生も、それをお望みだそうだ。」
そしてその言葉を聞くと早速、その‘殺し屋’は、自ら運転してきた車で、いずこへと、素早く去って行ったのであった。
10
・・・鼠顔の男は、とあるバーへと来ていた。
つい1、2時間ほど前に見た監視カメラの、映像に写った強盗達の内の一人・・・彼らは全員、目出し帽を被ってはいたのだが・・・その内の一人が右脚にびっこを・・・それも独特の歩き方で・・・引いていたのを、男は決して見逃しはしなかった。
それは・・・彼もよく知る男で・・・裏の世界で生きている人間達の間では、割と良く名の通った男・・・中年の冴えない男なのだが、もうその世界では何十年も飯を食っている・・・様な人間なのであった。
・・・その、殺し屋、はバーの中へ入ると・・・そのびっこの男の居所を、数人の人間に尋ねて回った。そして・・・意外にもあっさりと、居場所は判明したのであった。
ここに辿り着くまでに、正味ほんの数時間程・・・やはりその鼠顔の男は・・・見かけ通りというか・・・かなり優秀らしかった。
そして・・・それからおおよそ2、30分後には、銀行の貸金庫を襲ったと思われる内の一人である、びっこの男を、路地裏の人目のつかぬ所へと追い詰めていたのであった。
殺し屋は拳銃をその中年の男に突きつけて・・・残りの2人の居所と、金の在り処を聞き出そうとしたのだが・・・びっこの男は、ただワナワナと震えるだけで・・・どうやら金の行方は、本当に知らない様なのであった。・・・しかし、残りの二人の素性だけは判明したので・・・そのサイレンサー付きの拳銃から放たれた弾丸は・・・確実に2発、その男目がけて撃ち込まれて・・・。
・・・そうして、その貸金庫を襲った3人の男達の内の一人・・・の顔の中心には・・・大きな、いわゆる風穴が・・・クッキリとまん丸い、穴、が、空いた状態で・・・死体が発見されたのは、その2日後の事なのであった・・・。
11
・・・例の政治家が乗る高級車は、後援会だか何だかに向かう為、海の近くの道路を、いつものお抱え運転手が颯爽と走らせていた。
政治家はその車中で、秘書からの報告を受けているところだった。
そして電話を切り、その表情はというと・・・半分は満足したような、半分は苦々しいような、これ又複雑な顔付きをしていたのであった。
「・・・私の金を奪った、盗っ人の内、一人は片付けたそうだ・・・まあ、まだまだこれからだな。完全に片が付くのは・・・」
と、運転手になのか、誰にともなくポツリと呟いていたのだった。
運転手の方はというと・・・そこは敢えて返事は返さずに、黙ってハンドルを握り続けていたのであった。
やがて車は速くもなく、かといってゆっくりでもなく・・・つまりは適度なスピードで、滑らかに海沿いの街道を進んで行ったのであった。
すぐ左側は海になっていて・・・おそらく清々しい風が吹いていたのであろうが・・・あいにく、車は窓を完全に閉め切って、エアコンを少し寒いぐらいにつけていたのだった。
・・・ふと、道の遠くの方から、一つのトンネルが徐々に・・・近付いて来て・・・それは見ようによっては、山肌に空いた真っ暗い、穴、のようにも見えなくはなかったのだが・・・やがてその高級車は、その、穴、にまるで吸い込まれるかのように、ゆっくりと、スムーズに進入して行ったのであった。
車内には奇妙な沈黙が流れ、そしてなぜかは一向に分からぬのであるが・・・トンネルの中だというのに、妙に静かで、確かに車の走る音ぐらいはこだましていたのであろうが、それ以外は、不気味なぐらいに、静かなのであった。
そして・・・そのトンネルは意外と長く・・・車はいつ終わるとも分からぬ薄暗い空間の中を、他に車も無く、たった一台のみで進んで行ったのであった。
そして・・・その車はやがて、ようやくトンネルの出口へと・・・又しても出口にあたる、が、今度は対照的に眩しいほどに真っ白の、穴、が段々と近付いて来て・・・まるでそこに吸い込まれるかのように、表の世界へと・・・しかし後部座席で踏ん反り返る政治家は、スマホをしきりにいじくっていて・・・トンネルを出る事さえ、気が付いていない様子なのであった。
12
・・・そこは、薄暗い、陽の光もあまり届かないような、森の中で・・・なぜか年代物のラジオの音声のような音が僅かに響いていた・・・。
「・・・戦況は、我が軍に非常に不利ではありますが・・・しかしながら、司令本部並びに、総参謀本部は、反攻に転ずる為の・・・新たな戦略を・・・もうまもなく、敵軍に多大な・・・ダメージを与える為の・・・作戦に・・・着手する・・・模様であり・・・勝利は目前であります・・・!」
そして・・・その古ぼけたラジオの音を掻き消すぐらいの音量で・・・数名の男達のがなる声と、何かを削っているかのような・・・金属とそれ以外の、何か、が激しくぶつかり合う音とが・・・周囲にこだましていたのであった・・・。
・・・と、そこへ、例の高級車に乗った、政治家と運転手とが・・・まるでその森に紛れ込んでしまったかのように、突然現われ、その高級車は、音も無く、スゥーッと来て停車したのであった。
先程からスマホの画面に没頭していた大物政治家も、さすがに周りの様子がおかしい事に気が付いたのか・・・運転手に向かって、
「・・・おい、ここは一体どこだ・・・? こんな森などあったか・・・?」
運転手の方も、かなり戸惑っている様子で、
「・・・それがその・・・トンネルを抜けると・・・そこは・・・いつもの幹線道路ではありませんでして・・・いきなり木が鬱蒼と茂っておりまして・・・わたくしにも・・・一体何がどうなっているのか・・・さっぱり・・・?」
政治家はたちまち眉間に皺を寄せて、険しい顔付きになったのであった。
「・・・何か妙だな・・・? ・・・お前、とりあえず辺りの様子を見てくるんだ。」
運転手は、主人の命令は絶対であったので・・・車を降りると・・・森の中へと消えて行ったのであった・・・。
13
・・・その森の、奥まった場所では、2人の兵士と、2人の囚人服を着た男とが・・・囚人服の男達は、スコップで一生懸命に、穴、を掘っていた。
そして・・・兵士の方は、それをまるで鼓舞するというか、寧ろ励ますというよりは、首から下げたマシンガンで脅すかのように早く、穴、を掘るようにとせっついているのであった。
兵士の内の1人、袖に付いている星の数からして、もう1人よりは格は下で、痩せて背がひょろひょろと高く・・・囚人2人に機関銃をやたらと突き付けて、
「・・・オイ、早くしないか・・・! さっさと掘るんだ・・・!」
もう1人の・・・おそらく上官の方の、やや太り気味の男は・・・やはり機関銃を首からぶら下げていたのだが、木の切り株に腰掛けて、その様子をまるで他人事のように見物していたのであった。
そして・・・2人の囚人服の男は・・・必死に額に汗をかきながら、スコップを動かす手は止めず・・・というより、その状況からして、決して止めることは出来ない模様で、小休止すら許されないような状況なのは、明らかなのであった。
・・・と、そこへ、なんとあの、様子を探る為に森に放たれた、政治家の運転手がキョロキョロとしながら現われたのであった。
運転手は、目をパチクリさせながら、その4人の元へと現われ・・・2人の兵士達は思わず、マシンガンを構え、運転手の方へと向けたのだが・・・実は、運転手の方も、護身用にいつも身につけている拳銃を咄嗟に構えたのだった。それは己の身を守るというよりは・・・以前何度か自分の主人である政治家が、暴漢に実際に襲われたこともあったし、脅迫状やらそういったメールの類いは、毎日のように届くので・・・止むに止まれず所持しているのであった。
その2人の兵士達は、突然の闖入者に驚き、互いに顔を見合わせたのだが・・・この秘書の事を、役に立つ人物だとでも考えたのであろう・・・? ・・・それからほんの30分程経つと、すっかり3人は意気投合して、仲間となっていたのであった・・・。
そして・・・援軍が加わって、自分の負担が少し減ったからなのか、背の高い方の兵士が、用を足すと言って、しばらくの間、その場から離れたのだった。
・・・しかしながら、相変わらず2人の囚人達は殆ど休む事は許されず・・・穴、を掘っていたのだが・・・やはり体力の限界が段々と迫って来ていたのか、スコップを動かすペースが、次第に落ちてきていたのであった。
「・・・オイ! ・・・サボるんじゃないぞ・・・? ・・・マッタク、これだからなぁ・・・劣等民族は・・・」
と、その太り気味の上官はボヤいていた。
「・・・全くです。・・・生まれついての・・・サボり屋、って奴はどこにでもいるモンですよねぇ・・・分かります、分かります・・・」
・・・などと、秘書は日頃からおべっかを使う事には慣れきっていたので、調子を合わせる事など、他愛もない事なのであった。
二人の囚人服の男達は・・・明らかに弱りかけていて・・・しかしながら、気力を振り絞って、穴、を懸命に掘っているのであった。
・・・と、そこへ、もう一人の、ヒョロヒョロとした下士官が戻って来た。・・・さらに、もう一人、捕虜だろうか・・・?・・・を連れて・・・。
「・・・上官どの! ・・・怪しい奴を見付けました・・・! ・・・何やら、意味不明な事を、喚いていますが・・・」
その捕虜というのは・・・何とあの、政治家なのであった。
政治家は上官の隣に座る、秘書をすぐに見付けて、
「・・・おい! ・・・私は怪しいモンじゃないぞ・・・? あ、ホラ、あそこにいる・・・」
「知りません。」
秘書は、全くの他人かの様に、あくまでもトボけたのであった。
「・・・おい! ・・・お前・・・! この私の・・・恩を忘れたのか・・・!?」
上官の方が、少し怪訝そうな顔つきになり、
「・・・キミと知り合いなのかね・・・?」
と、訊いたのだが、
「・・・いえ。知りません。・・・あんな人は・・・わたくしは全く知りません。・・・おそらく、反逆者か何かでしょう・・・」
「お、オイ・・・! この・・・裏切り者め・・・!」
政治家は、突然の日頃の部下の手の平返しに、ただただ喚き散らすしかないのであった。
「あ、ほら、裏切り者って・・・自分でも言っちゃってますよ・・・?」
その一言がまるでダメ押しか何かのように、二人の兵士は、マシンガンをその、政治家の鼻先へと向けて・・・そうして・・・、
「・・・オイ! ・・・お前も、穴、を掘るんだ・・・! この・・・劣等民族めが・・・!」
機関銃を突き付けられては、いくら権力者であっても、逆らう事は出来ず・・・ただそこいら辺に投げ捨てられていた、スコップを拾うと・・・他の二人の囚人達と同じように、穴、を掘り始めるのであった。
彼の秘書・・・であるはずの男は、やはり、いくらぞんざいな扱いを受けていたとはいえ、長い事苦楽を共にした人物が、こき使われているのを見るのが耐えられなくなったのか・・・しばらくすると立ち上がって、あさっての方向をただ眺めていたのであった。・・・やや物哀しいメロディーの・・・口笛などを吹きながら・・・。
14
・・・ここは全く別の場所。
政治家の地下の貸金庫から現金やら何やらを、たんまりとくすねた強盗達は・・・しかしながら、仲間の一人が早くも消されたと聴いて・・・とりあえず、大量の金品を持ち歩いているのはとても危険であったので・・・それらを隠す場所と、自分達がしばらくの間、身を隠す場所とを、探しているところなのであった・・・。
・・・一方、彼らを追い駆けている筈の・・・鼠顔の殺し屋はというと・・・手がかりは掴んだ事は掴んだのだが・・・依頼人である、政治家の秘書に電話をすると・・・秘書にさえなぜなのかは全く不明だったのだが、携帯が一向に繋がらず、連絡が取れなくなってしまっていて・・・次の指示を仰ごうにも・・・どうにもこうにも身動きが取れずにいたのであった。
殺し屋の方は実は・・・残りの二人の素性やら身元は早くも探り当てていたのであるが・・・追加の報酬が彼の口座には振り込まれなかった為に・・・彼は、彼なりのポリシーとして、前金を受け取ってからでないと、動かないことにしているのであった。それは決して・・・彼が金に執着しているからとかでは・・・少なくとも彼自身はそう考えていたのであった・・・要するに、この世界では、裏切りなどはごく日常的に当たり前の事であったので・・・特に彼自身の長年の経験と、情報等で、政治家という‘人種’を一番信頼してはいなかったのだった。
そして・・・どこから聞き付けたのか、何と彼の元に、獲物、である筈の強盗犯達から・・・無論の事、間に人を介在しての事なのだが・・・連絡が入り・・・取引を持ち掛けて来たのであった。
その内容はというと・・・その殺し屋に消された、びっこの男、の分の取り分はそっくり全額渡すので、手を引いては貰えぬかと・・・いうものなのであった。その経験豊富な、その風貌の如く、鼠のように狡猾な人物は・・・敢えてすぐには返答はせず・・・とりあえずあと3日だけ待ってみて・・・政治家の秘書から何も連絡が来なければ・・・そちらに鞍替えした方が得策であると・・・そう彼の頭の中では、算段していたのであった。
15
・・・一方、森の中では・・・辺りは段々と暗くなっていって・・・そうして、穴、は、かなりの大きさ、深さになっていたのであった。
すると、太った上官の方が、
「・・・もういい。穴掘りは・・・そこまでだ。」
3人は、ヘタリ込むように、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまったのであるが・・・。
・・・突然、機関銃の、タタタタ・・・という、少し乾いた音が、森の中に響き渡り・・・その音が鳴り響いた途端、カラスの大群が一斉に鳴き喚きながら、飛び立ったのであった。
そして・・・その銃声は、全部で・・・3回鳴り響いて・・・しばらくすると、パタリと静かになって・・・そうしてまた森の中は、奇妙な静寂に包まれたのであった・・・。
16
・・・数日後の正午近くの頃・・・例の強盗2人は・・・ようやく身を隠す場所を見付けて・・・それは、山の中の、古ぼけた丸太小屋なのであった。
実は前日の晩に、仲介者を通して、例の殺し屋との取引が成立し・・・彼らは指定された口座に、盗んだ金額の三分の一を振り込んだばかりなのであった。
その金額だけでもかなりのものだったのだが・・・しかしながら、残りの現金やら、証券やら、株券やら・・・金の延べ棒はさすがに持ち運ぶ事は困難であったので、どこかの小川に捨てたのであった・・・そうして、その山小屋にたどり着いたのであるが・・・彼らは、ほんの僅かな現金だけを身に付けると、その山小屋の中の床板を取り外して・・・そうしてすぐ側にあったスコップで、床下に、穴、を掘って・・・現金の類一切を隠したのであるが・・・。
・・・2人のうちの1人が・・・穴、の深さが足りず、別の箇所も掘り起こすと・・・何と、その土の中から、3体の、白骨化した死体が・・・出て来たのであった。それらは明らかに数年、いや、おそらく数十年は経過していて、衣服などはとうに朽ちて無くなっていて・・・骨もほとんど原形をとどめてはいないのであった。
そして・・・そのうちの1体の手の指の骨、には、彼らにとっても見覚えのある、大きな真紅の宝石をはめ込んだ指輪が・・・それは彼らが貸金庫を襲う前の、下見の段階で、その金庫の持ち主が身に付けていた、ソレ、とそっくりなのであった。
しかしながら・・・その白骨化した遺体は、どう見積もっても50年以上は経っていそうだったので、おそらく良く似たような違う物に違いない、と納得し、そして・・・片一方のアイデアで、こういったものが出て来るという事は、この近辺を掘り返す者などは存在はしない、という結論に至り・・・結局、少し気味は悪かったのではあるが、ほとぼりが冷めるまで、そこへ盗んだ現金類を、埋めておく事にしたのであった。
・・・2人は土を埋め直し、床板も元通りにしてはめると、その山小屋からそれぞれが、別々の方向へと、後にしたのであった。
その山小屋の周りは、普段はおそらく誰も近付かないような場所で・・・鬱蒼と、木々が茂って、薄暗い森になっているのであった。
気が付くと辺りには西陽が斜めに差し込んでいて・・•ただ遠くの方で、カラスの群れの鳴き声だけが・・・響いていたのであった・・・。
・・・そしてその森はというと・・・上空から見ると真っ黒い色をしていて・・・まるで、荒野にポツンと空いた、穴、の様にも見えない事もなくはなかったのであった・・・。
17
・・・所変わって、ここはとある、都市の郊外になら、おそらくどこにでも有るであろう、平日のショッピングモールの中の、ちょっとした・・・まあ、良い言葉を用いるならば、シックな、モダンな、しかしながらまあ要するに、地味な・・・しかもお客はたった2人しかいなかった・・・カフェの店内である。
その2人の客・・・まあそれはどこにでもいそうな、ごく普通のカップルなのであったが、女の方は、皿というか、プレートをトレイの上に置いたまま、ガツガツと何やら、まるで獣か何かの行為の如く、しかしながらそこはあくまでも人間である事だけは保っていたので、フォークとナイフを、乱暴気味に使って・・・しかしなぜか、その両手はすっかり汚れてしまっていたのであった・・・そうして、一つのパン、いや、真ん中に穴の空いたあの、ドーナツ、に似てはいるが、非なる物、ベーグルというヤツを、夢中でガッついていたのであった。
そして、男の方はというと・・・両手にナイフとフォークを握りしめたまま、ただただ自分の注文した料理が運ばれて来るのを、じっと、しかしながら女の食べ物にじっと視線だけは注ぎつつ・・・待っていたのであった。
やがてソレは、運ばれて来た。それはなんて事のない、ただの一個のパンケーキであったのだが・・・男はようやく腹が満たされると思い、満足した様子で、シロップを少しだけ垂らしてから・・・しかしなぜなのか、一滴垂らしただけで、まるでためらうかの様に、その手を引っ込めた。・・・大方、甘いものが苦手であったのか、はたまた苦手とまではいかないが、甘くなり過ぎるのを警戒したのか、あるいはただ単に、特に理由などは無く・・・しかしすぐにフォークとナイフをまた手に取ると、そのパンケーキに切り込みを入れ始めたのであった。
一方、女の方はというと・・・もうすっかり自分のベーグルは食べ終えていて・・・口などを拭いつつ、しかしなぜかその目はまるで資本主義の先端を突っ走る野獣の様な・・・まあ、要するに物欲しそうな目で、男のパンケーキを食べようとする様子をただ眺めていたのだが・・・
「・・・ねぇ? ・・・それ、私にも少しちょうだい? ・・・ね? ・・・いいでしょ?」
男は顔を上げると、明らかに不満そうな表情で、
「・・・え? ・・・君はたった今、自分のを食べたばっかじゃん。」
「だってぇ・・・なんだかまだ・・・それに・・・」
「・・・何。」
「・・・私のは・・・穴が空いていたから、その分・・・あなたのよりは少ないっていうか・・・」
「そりゃそうだろう・・・!? 君が食べたのはドーナツじゃあないか・・・!」
「・・・ドーナツじゃないわ・・・! ベーグルよ・・・!」
しかしながら、このカップルにおける2人の力関係、あるいは女性という生き物の、食に対する執念、その他諸々・・・等々が男の方の生命力を上回ったのか、結局のところ、不承不承ながら、男はまだ切り込みしか入れていない、パンケーキの端っこの、ごくごく一部分のみを、女の皿に移そうとしたのだが・・・
「・・・ねぇ。・・・真ん中の部分を貰えない・・・?」
「・・・エ? なんで? ・・・ああまあいいよ。」
男はかなり気分は害しつつも、ただ黙ってそれに従い、真ん中だけをくり抜いて、女の方のプレートの上に、その固まりを運んだのであった。
女の方は、かなり満足した表情で・・・無論の事ではあるが・・・そうしてその、一切れ、をモグモグと頬張っていたのであった。
一方の・・・男の方はというと・・・両手にフォークとナイフは持ったまま、ただその、縦横無尽に切り込みだけ入れられた、パンケーキをしばらくの間見つめていて・・・その中央には、不格好に不器用にかつ、無惨に切り取られた、穴、が空いていて・・・もちろんの事、男の身体自体はそこにそのまま存在していたのであったが、まるで魂だけその、穴、に吸い取られてしまったかの様に、呆然としていたのだが・・・ほんの数十秒ですぐに我へと帰り・・・自分の取り分のパンケーキを・・・女の方はというと、もうとっくに食べ終えていて、飲み物のお代わりを注文する為、店の人間を大声で呼んでいるところなのであった・・・。
おわりに
おそらくなのだが・・・この大地のそこかしこにも、太陽系を漂う無数の隕石にも、それより遥かに大きな宇宙全体のどこか、にも、そしてドーナツやベーグルや服のボタンや、縫い針のような小さな物にさえ、穴、は存在するのである。
・・・そしてそれを覗き込むものは・・・まるで、ソレ、に吸い込まれてしまうかの様に・・・なってしまう危険性があるので・・・例えそれがどんな小さな、穴、であったとしてもだ・・・そうならない様に、私たちは、細心の注意を払わねば・・・ならないのかも知れないのだが・・・。
そして・・・全ての人間が・・・そうならない事を・・・ただただ願って止まないのである。
かつて、古の賢人は、
「・・・深淵を覗く者は、自分もまた・・・ソレに夢中になり過ぎて・・・時が経つのを忘れてしまい、スケジュールに穴を開けてしまうのだ・・・」
・・・などと、言ったとか、言わなかったとか・・・。
・・・とにかく。そういう事なのである。
・・・多分。
終わり
わたしたちの穴 福田 吹太朗 @fukutarro
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