第3話 昼休みには、弁当を作ってくる当番が先輩だそうで






「さあさあ、カナミ君、昼ごはんの時間だ」


「さっきの授業、大丈夫でした?」


「ひ、昼ごはんの時間だ!」


「あっ、はい。無かったことにするんですね」



 今でも少し頰を赤らめているから、よっぽど恥ずかしい思いをしたのだろう。


 そんな墓穴を掘った結果の忌まわしい記憶に蓋をするかのように、ミシロ先輩は極めてハイテンションでカナミに話しかけてくる。



「ここに二人分の昼食がある」


「ですね」



 ミシロ先輩が指さしたのは彩り豊かなおかずが敷き詰められた重箱。


 一週間のうち、一日交代で昼食を交互に作り合うのが二人の取り決めであり、今日はミシロ先輩が作る日であったのだが。


 何やら今日は、ここでも策略を練って来たようだ。



「ふふん、だがそれに対して食事に使える箸は一膳のみ。さあ、ここから導き出される答えはなんだと思う?」


「一本ずつ使いましょうか」


「それは行儀が悪い解答だなっ」



 ツッコミを入れたミシロ先輩はコホンと咳払い一つ、箸を手に取って答え合わせをしようとする。



「つまりはこういうことだよ…………あーん」


「……なるほど、そう来ますか」



 口元に差し出された唐揚げを、カナミは少し気恥ずかしさを感じながら頬張った。



「美味しいか?」


「美味しい、です」


「そうか、なら良かった」



 パァアアアと笑顔になったミシロ先輩は、そのままカナミの口へと昼食を運び続ける。


 そのため、カナミが自分の分を食べ終わるのに十分とかからなかった。



「さてとっ、次は私が自分の分を食べる番だな」



 無造作に卵焼きを掴み、自分の口に運ぼうとするミシロ先輩にカナミは不意に思いついたことを一言。



「間接キスですね。これも策のうちですか?」



 それを聞いたミシロ先輩が、箸を口に咥えたままピシリと固まった。


 そしてーー



「ち、ち、ち、違うもん! そんないやらしいこと、か、考えてなかったもん!」



 紅葉に負けず劣らず真っ赤にした顔で、子供のように反論していた。

 

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