04話 ファンタジー世界における回復のロジック

 現在、俺は目が覚めた泉の近くへと戻っていた。

 水場は活動拠点として凄く便利だからである。

 

 そう。

 俺個人としては、本当にただそれだけのつもりだったのだが、なんと回復効果がある魔法の泉だったらしい。

 

(いや~、驚いたな。確かに魔力反応があるなぁとは思ったけどさ。まさか、よりによって回復の泉とは思わんでしょ。はぁ~、これがLUK500の恩恵か。すげぇ)

《マスター。解析に成功したため、以降は水と何らかの回復スキル、魔法、アイテムなどがあれば同環境を再現可能となりました》

(お~、さすソフィ)

《……申し訳ありません、マスター。さすそふぃとは一体何のことでしょうか?》

(ん? あぁ、流石ソフィアってことさ。単に略しただけだよ)

《そうでしたか。有難う御座います。恐縮です》


 さて、これからどうするか。

 驚愕と歓喜による動揺が落ち着いてきた所で頭を切り替える。

 これが回復の泉である以上、ここは以前にも増して拠点に相応しくなった。

 であるならば多少無茶なことをしても問題はない。

 いや、重傷の身でここまで戻ってくるのは厳しいか。

 携帯出来るようになれば、問題は無くなる訳だが……。


(ソフィア、水と何らかの回復効果があればこの泉を再現出来るって言ったよな)

《YES,正確には魔力を用いた回復効果でなければならないため、肉体に備わる自然治癒効果を素材とするのは不可能ですが》

(そんな発想はしていないさ。ちなみに、回復魔法とこの泉みたいな……まぁ治癒泉って所か? はどう違うんだ。既に何らかの回復効果を所持した状態を前提にしてるのに、わざわざ同じ環境を再現出来るって言ってきたってことは、こっちの方が何かしらメリットがあるんだろう?)

《YES,正確にはそれぞれにメリットがありますが、魔法やスキルをそのまま使うよりも治癒泉の方が低コストで済み、かつ長期間に渡り色々と使用出来ます》


 色々と、か。

 含んだ言い方ではあるが、何となく想像はつく。

 器があれば携帯しポーションとして使えるし、それが出来ればいずれ人里へ行けるようになれば売って金策とすることも可能だ。

 金策って意味なら、他にもパッと思いつくだけで3つはある。

 確かにこのメリットは大きい。

 だが、ソフィアほどの者がわざわざ言うことか? とも思ってしまう。

 まぁ報連相が大事であるということを、言わずとも理解していたということかもしれないな。


(確かにそうだな。それで? デメリットは何だ。あと魔法の説明も頼むぞ)

《YES,デメリットは一度の消費MPがとても多いこと。そして何より、吸血鬼が保有する再生系スキルと違い欠損の再生が不可能なことです》

(……ふむ、完全に不可能なのか?)

《NO,正確には切断された腕や足が切り離されてから5秒以内であれば、接触させた状態で治癒水をかければ再生可能です。しかし、時間制限を超えた場合や既に失なっている場合は、0から器官を創造することになる為不可能です》

(なるほど。それは魔法でもか?)

《YES,そこに差異はありません。0からの再生が可能なのは、吸血鬼のみです》


 吸血鬼、か。

 彼らはどうやって0から再生しているんだ? 時間の巻き戻し、いや違う。

 蜥蜴なんかも出来ているのだから、そんな高度なものではない。

 身体に備わっている機能にヒントがある筈だ。

 ……そうか、遺伝子情報だ! そういった誰に対しても効果を発揮するタイプのものに欠けているとすれば、それは個人的なもの。

 元々ある自然治癒能力を爆発的に高める、これがファンタジー世界における回復魔法や回復アイテムのロジックなのではないか? そして欠損部分は元から無かったものと認識されてしまうから0から再生出来ない。

 接触させた状態であれば再生出来るのは、そこに"ある"からだ。

 通常の切り傷なんかと同じく周りにサンプルとなる組織があれば、再生出来る。

   

(ふふっ……中々良い線行ってるんじゃないか? この予測。なぁソフィア! 治癒する時そいつの欠損部分の情報をお前が魔法とかに書き込めばどうだ?)

《……解析に成功していることが前提となる上、消費MPが激増しますが可能です》

(おおっ! そうかそうか)


 ふっふっふ……この俺様の頭脳も、捨てたもんじゃないかもな。

 まぁ、数学は高1の時からかなりの頻度で赤点だったけども(白目)

 微分積分二次関数? なにそれおいしいの(鼻たれ)

 閑話休題。

 とにかく、一般的に吸血鬼の固有能力であった欠損部分の再生をソフィアを介すことで出来るようになる。

 つまりは世界で唯一のものとなれるわけだ。

 オンリーワンな上に高性能、これ以上価値のあるものはない。

 

(ククク、やはりソフィア……お前を名付けて正解だった。いや、それ以前の問題だな。創造して良かった)

《!!!》


――告。称号スキル『上位者の風格』を獲得しました。


(なんだ? いきなりだな。特に変わったことはしてない筈だが)

《いえ、そんなことは全くありません。マスター! あなたは、私を根底から肯定してくださいました。嬉しいという感情は、このことだったのですね……》


 ソフィアの言葉が、決定的に変わったのが分かる。

 先程までの事務的な雰囲気が消えてなくなった。

 やけに冷静だなと思っていたが、どうやらそうではなく自我には芽生えたものの感情がなかったらしい。

 それが、褒めたりなんだり感情MAXで接している内に心を学んだ訳か。


(ふふっ……なんだろうな。俺も嬉しくなっちまった。初めて自分の子供が言葉を喋った時の父親って、こんな感じなのかな)


 今や遥か遠くの記憶。

 薄ぼんやりとして、ハッキリとはしていない。

 そんな思い出の彼方にいる死んだ父親の笑顔が、なんとなく思い浮かんだ。

 

(あっ?)


 目から何かが溢れているのに気付く。 


(ハハッ……おいおい、マジか。今更だろ)


 ぐしぐしと掌で目を擦る。

 なんとも情けない話だ。

 不幸中の幸いなのが、俺がまだベビーであることか。

 あの超カッコいいドラゴンに、涙なんぞ似合わない。

 

(ふぅ……済まんな、ソフィア。話を中断しちまって)

《いえ、そんなことはありません。……マスター、一つお願いをしても宜しいでしょうか》

(んっ? お前がか。まぁいいが、なんだ)

《お父様とお呼びしても、宜しいでしょうか……?》


 不安と期待の感情。

 これが他人であれば、これ程分かりやすくはないだろう。

 しかしソフィアは俺の魂に同居している。

 感情がダイレクトに伝わってくるのだ。

 これからは、逆もまた然りとなる。

 心を理解したソフィアは俺の感情を知るだろう。

 なんだか少し恥ずかしいような気もするが、感情を殺すなどしたくはない。

 潔く諦めるとしよう。それに、どんな感情を抱いているかは分かっても、何を考えてるかまでは分からんしな。


(っ! あぁ、いいよ。お前は俺の娘だ)


 実際、名付けたのは俺だからな。

 その時のイメージを基にソフィアの人格が形作られたのなら、親のような役割は確かにしているだろう。

 それに何より、嬉しいと思ったのだ。

 ソフィアが俺のことを父と呼んでくれることを。


《ありがとう、ございます……! お父様っ!》


 俺を父と呼べることにこれほど喜んでくれる。

 余計、カッコ悪い所は見せられなくなったな。


 今や遠く彼方の、二度と会うことはない父さんに母さん。

 身体こそ無いけど俺も一児の父親になったよ。

 産まれた瞬間から俺なんかより、よっぽど賢かったけど。


 そして俺は、この瞬間決意した。

 いつか必ずどうにかして俺の血が通った肉体を与え、誰が見ても文句の言いようのない正真正銘の娘にすることを。

 更に意識を移す直前までソフィアには明かさず、サプライズで事態を進めることもまた、心に決めるのであった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る