2日目-1

 今日はお昼に真昼と話す機会があったのでダメもとで緋紙さんについて聞いてみた。


「優里奈ちゃん? 愛莉明ちゃん知り合いだったんだね、意外だ」

「この前話す機会があっただけ。でも真昼が知っているのも意外。クラスも違うのに」


 バスケ部の真昼と放課後喫茶店で働く緋紙さんとの接点は見受けられないのだが。


「ほら、あたしなんやかんやでたまに部活サボってるじゃん? それで喫茶店で偶々――」


 そこまで言って「しまった!」 という顔を真昼はした。どうせ喫茶店で働いてることを口外しないよう言われていたのだろうがそんな顔すればバレバレだ。


「大丈夫、私もそこで会ってるから。それで緋紙さんってどういう人なの?」

「うーん、孤高ってことが似合う女の子かな。愛莉明ちゃんは望まずそうなったって感じだけど優里奈ちゃんは一人でいることを好んでる節がるよ。喫茶店ではうまくかわされるし、学校では陰に徹してるし話しかけようとすると近づくなオーラをひしひし感じるし。それでもあたしは話しかけるけど」


 さすが真昼だ。遠慮というものが一切感じられない。


「だから愛莉明ちゃんのように簡単には陥落させられなくて。よし、今度一緒に優里奈ちゃんのところに遊びに行こう! 2人なら、いや、ふーちゃんも誘って3人がかりなら!」

「それは遠慮しとく。それと人を軽い女みたいに言わないで」


 降瑠だって絶対嫌がるだろうし緋紙さんにとって迷惑以外のなにものでもないだろう。

 ともかく緋紙さんがどういう人間かはある程度わかった。しかし真昼から聞いた緋紙さんの人物像から今井戸先輩が所属していたという組織に協力する姿が思い描けない。弱みでも握られているのか、協力するだけの利点があるのか。


「そういえば珍しくふーちゃんいないけどどうしたの?」

「ああ。降瑠は部の方から呼ばれたみたいでそっちに行ってる」


 今井戸先輩は副会長だった。獅子堂先輩以外の記憶から消えて自覚はないとはいえ副会長が消えたのは事実だ。となると獅子堂先輩としては動くしかないだろう。

 支援局の方に何も言ってこないということはどうにかやってはいけているということなのだろう。


「オカルト研究部か。一年生はふーちゃんだけだったけ。それなら未来の部長さんだね」

「でも降瑠が部長やってる姿は想像できない」


 周りに助けられている姿が目に浮かぶようだ。真昼も同じ意見なのかうんうんとうなずいている。

 そのあと色々話した後私は少し早めに教室に戻ることにして放課後の準備をすることにした。


「昨日聞いた話を元に色々と調べてきたよー」


 放課後局室に行くと早速といった感じで夢鈴先輩が報告を開始する。私はまだ待ち合わせ時間には余裕があるので話を聞く前にお茶を2人分入れて椅子に座る。


「随分落ち着いてるねー」

「まあ。今さら慌てても仕方ないですから。それで何かわかったんですか?」


 私が改めて尋ねると夢鈴先輩は情報をまとめたらしいタブレットを机に置いた。私がタブレットを手に取り閲覧している間に説明してくれる。


「待ち合わせ場所となっている部屋はどうやら園芸部が利用している部室みたいだよー。調べた限りだと園芸部は花壇と倉庫が主な活動場所で普段は部室を使ってないみたいだよー」


 資料によると部室に集まるのは1年を募集する春先を除けば年に数回程度のようだ。

 勝手に利用されているのか、貸しているのか、それとも園芸部が隠れ蓑となっているのか。それによって変わって来るが。


「昼休みににこちゃんが園芸部部長に色々聞いてくれたみたいだけど部室を貸すことはあるかもみたいにはぐらかされたみたいだよー」


 園芸部の部長は有待ありまち桜花おうかという2年生で同じ文化部ということで来射火先輩とは面識があったらしい。

 そういうわけで有待先輩の相手は来射火先輩が担当したそうだがこれ以上の情報は得られなかったようだ。


「一応あの一年生の子のことも聞いたみたいだけと知らないってさー」


 一年生の子って緋紙さんのことだろうか。関係者の名前くらい覚えてもらいたいところだ。

 私はおそらく来射火先輩がまとめたであろう報告書を一通り目を通したが確信をつくような情報は得られなかった。


「リアちゃんは正直な話この秘密結社をどれくらい怪しいと思ってるのー?」


 私が顔をあげるのを待ってから夢鈴先輩が尋ねてくる。この結社について今わかっていることが無さすぎて判断に困るところではある。


「怪しいといったら怪しいですけど今のところは白ではないかと思ってます」

「彼らも例の生徒のことを忘れてるからー?」


 今井戸先輩という怪異の性質上例外はないのではないかと私は考えている。例え結社が今までの件に絡んでいたとしても緋紙さんを結社に入れるために存在していたため消えれば忘却を免れないのではないかと。


「学生の一組織ではできることは限られてきます。今までの件を行えるほどの規模や力があるとは思えません」


 それでもそういった力のある組織とのつながりがないとは言いきれないので会うわけだが。

 その組織の橋渡し役が今井戸先輩だった場合完全につながりが記憶ごと消えてる可能性もあるけれど。


「夢鈴先輩、そろそろ行きましょう」


 約束の時間も近づいて来たし、これ以上話し合えることもなくなって来たので私はそう提案する。


「うーん、ちょっと待ってこれだけは終わらせておきたいからー」


 夢鈴先輩はタブレットを回収すると何やら操作するとそれを伏せて机に置いた。


「……気になっていたんですけどそのタブレットって夢鈴先輩の私物ですか?」

「違うよー。一応局室ここの備品てことになってるから持ち出し禁止なんだー。夢鈴が管理を任されてるから使うときは言ってねー」


 初耳だったが局室外での活動の方が多いし、個人のパソコンがあるので使うことはなかっただろうからまあいいけど。

 依頼者を局室に呼んで説明するのには活用できそうだが私は自ら出向く方なので意味はない。どうして持ち出し禁止なのか。


「はいはい、準備OKだよー。それじゃあ出発しよー」


 私が改めてタブレットに手を伸ばしかけたところで夢鈴先輩が立ち上がった。

 私は夢鈴先輩が何をしていたのか気になるが確かめるのは諦めるしかないだろう。タイミング的に恐らく私に見せたくないということなのだろうから。

 そのタブレットに夢鈴先輩が私の知らない誰かに宛てた書き置きを残していたことを私が知るのは大分後の事だった。


『近いうちに力を借りるかもしれないから以下のURLには目を通しておくように。勝手な介入はしないでねー。以上』

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