1日目-4
同じ一年であるが緋紙さんとは全く面識はなかった。私と降瑠や真昼とはクラスが違うし、4月の呼び出しの際にも彼女はいなかったので接点というものがなかった。
「それでどちらがカルイルカなのかしら」
「カルイルカは私。これが証拠」
私が答える前に来射火先輩がそう答えてスマホの画面を見せる。そこに表示されていたのはカルイルカのアカウントだった。
「まあ、でも勘違いはしないで。私はあくまで協力者で似顔絵の人物を探してるのはこの子だから」
来射火先輩はそう言って緋紙さんの視線を私に向けさせる。私はそれをうけて口を開いたが緋紙さんに手を前に出されて止められた。
「あなたたちは名乗らないで。私は人の名前を覚えるのは苦手なの」
覚えられないから聞かないというのはそもそも覚える気がないと言ってるのと一緒だと思うのだがそこで文句を言っても仕方がないところではある。
「それより私も座ってもいいかしら。立ったまま話すと結構目立つのよね」
そう言われて私は立ち上がり来射火先輩の隣に移動する。それを見て緋紙さんは対面の私が座って居た場所に腰を下ろす。
「ここで話をするつもりですか?」
「そうよ。その為に呼んだんだもの。マスターにも許可はとったから問題ないわ。でもそちらに不都合があるなら場所を変えてもかまわないわ」
こちらの真意でも探るかのように緋紙さんは私の目を覗いてくる。ここで場所を変えれば緋紙さんからの不信感が上昇するのは間違いない。
「いえ。ここで話をしてもかまいません。緋紙さんは何か頼みますか?」
私はそう言ってメニューを差し出したが首を横に振って断られた。
「いつも飲んでるから今は遠慮しておくわ。それよりさっさと本題に入るわよ。私からってことでいいのよね?」
「はい、お願いします」
私がそう促すと緋紙さんは居住いをただすと話し始めた。
「正直に話すと今井戸何て名前の先輩を私は知らないわ。だけどこの似顔絵によく似た顔の男は知っているわ。私の前ではロータス何てふざけた名前を名乗っていたわ」
ロータスか。確か蓮の英名だったか。今井戸先輩と蓮の関連性は全く思い浮かばないが彼女の証言通りなら別人というのはなさそうだ。
「明らかな偽名だけどちゃんと理由はあるのよ。己の身分を明かさないという決まりなのよ」
「決まり?」
決めを名乗るのが決まりだというのならそういう決まりのある団体に今井戸先輩は属していたということだ。
「部の決まりみたいなものよ。私はロータスからその部みたいなところから勧誘されたのよ」
「……ちょっと口を挟ませてもらうけどそれって学校内のものだよね。それって生徒会に届け出は出してるの?」
成り行きを見守っていた来射火先輩がそう言った。
私も以前部活を設立した際に一通り調べたので知っているが学校内で何かしらの活動をする際は生徒会に届け出するのが決まりだ。それが複数人の活動ともなると色々と決まりがついてくる。それをしていないということは非公認組織ということになる。
「さあ、どうかしらね。私はよくは知らないわ。秘密結社を名乗るくらいだから出してないかもね」
適当にそんなことを言って緋紙さんは折れた話をもとの路線に引き戻す。
「まあ、そんな男が数日前から私の前に現れなくなったわ。それだけならどうでもよかったんだげど誰も覚えてないのよね、あの男のことを。見てたはずのクラスメイトに聞いても知らないと言うのよ」
「関わり合いになりたくないから知らない振りをしてるんじゃない? 私ならそうするし」
来射火先輩が緋紙さんの言葉にそうやって茶々を入れる。明らかに相手の認識を試した物言いで恐らく夢鈴先輩の指示だろう。
「確かに親しい相手というわけではないしその可能性は否定できないわね。でも彼が勧誘してきた組織の人も覚えてなかったのよ」
どうやら違和感を覚えて組織の人間に接触を試みたらしい。この様子だと緋紙さんを中心に今井戸先輩が存在していたということで間違いないようだ。となると緋紙さんの言う秘密結社は化異とは無関係なのだろうか。
「緋紙さん、私が調べた限りだと今井戸先輩と深い関りがあった人は同じよな状況になっています。自分だけ彼を覚えていて回りは誰も覚えていない。私はどうして彼がそうなってしまっているのか、彼はいったい何者なのか、私はそれを突き止めたいと思っています。緋紙さん、協力願えませんでしょうか?」
「……私もどういうことなのか知りたいとは思うけれどこれ以上私にできることはないと思うわ。彼のことを知っている人に会ったのはこれが初めてだもの」
緋紙さんは紹介できる人がいないと思っているようだがそんなことはない。私は真実を追求するために踏み込むことにいた。
「緋紙さん、私にその組織の人を紹介して欲しいんです。確認することができたということは連絡手段、または会う方法をご存じなんですよね?」
秘密結社を自称するくらいなのだから緋紙さんに口止めはいていることだろうがここは何としても聞き出すつもりだった。そうしなければこれ以上の進展は望めないだろう。そう思ったのだが……
「そんなことでいいの? 正直何の役にもたつとは思えないけれどひとまず連絡は取ってみるわ」
早速といった感じでスマホをいじり始めた緋紙さんはものの数分で顔を上げた。
「明日の放課後なら会ってもいいそうよ」
何ともあっさりと決まってしまった。そのあと軽く話を詰めて一応緋紙さんと連絡先を交換した後時間も遅くなってきたので解散することになった。
来射火先輩ともカフェの前で別れることになり、一人帰路についてものの数分でスマホが鳴った。夢鈴先輩だった。
『リアちゃんお疲れ様ー。おかげで色々と情報を集められたよー』
「……最初から最後まで話を聞いてましたね?」
来射火先輩が連絡を取ってる素振りは一切なかったのでずっと通話状態にしていたに違いない。
『まあねー。にこちゃんはスマホを複数持ってるタイプの女だからねー。それはそうと明日の招待は罠だと思うよー。多分最初から明日夢鈴たちが招待されることは決まってたんじゃないかなー』
「根拠は?」
夢鈴先輩の言うようなことを考えないでもなかったが残念ながら私には彼女の言動からは確信を得ることはできなかった。
『簡単だよー。彼女はスマホをいじっていただけで誰かに連絡を取っていたわけでもないからー。にこちゃんからの報告だから間違いないよー』
そこには来射火先輩への信頼があった。来射火先輩と私は緋紙さんの向かいに座っていたというのにどうやってそれを察知したのか。私に直接言わなかったということは方法を語るつもりはないということだろう。
『それでリアちゃんはどうするのー?』
「会いますよ。そうしないと何も解明できませんから」
私がそう答えることは夢鈴先輩はわかっていたようで特に反論されることはなかった。ただ夢鈴先輩の同行を断ることはできなかった。
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