1日目-2

 来射火先輩のスケッチは1時間以上の時間を要した。彼女が書いて私が確認し、彼女が調整する。その繰り返しだった。

 その行為の中に何の関係もしない夢鈴先輩は私たちを尻目にパソコンを弄っていた。言いだしっぺの癖にいい御身分なことである。

 来射火先輩はそんな夢鈴先輩は眼中にないようですごい集中力でスケッチブックに向き合っていた。そのおかげで絵は形を成していき、最後には見覚えのある顔が出来上がっていた。


「最終確認だけどこんな感じであってる? 割と自信作なんだけど」

「はい、これでいいと思います。ありがとうございます、来射火先輩」


 何度見ても完璧な出来栄えで、どこからどう見ても今井戸先輩にしか見えない。あとはこの絵をどうするかだが夢鈴先輩はどういう手段を使うつもりなのだろうか。


「にこちゃん、ご苦労様ー。この部屋ってスキャナーとかあったけー?」

「何? データにするつもりだったの? それなら先に言えっての。そしたらタブレットで描いたのに」


 来射火先輩は不満そうにそう言うが夢鈴先輩はにへらと笑って受け流す。


「鉛筆で描いた方が味があって夢鈴はいいと思うけどなー。リアちゃん、スキャナーありがとねー」


 二人のやり取りの間に私が棚から持ってきたスキャナーを受け取ると夢鈴先輩は早速、来射火先輩が描いた絵をパソコンに取り込む。


「今回は学内掲示板を利用しようと思うんだー」


 学内掲示板か。以前の依頼の時にも夢鈴先輩が利用していたもので事件の発端にもなった。

 確かにこれなら情報拡散できるかもしれないがあくまで掲示板利用者にしか目に入らない。


「リアちゃんの言いたいことは分かるよ。だから二次策も用意しているんだよー。にこちゃん、お願いねー」

「……ああ、忘れてたわ」


 来射火先輩はスマホを取り出すと何やら操作する。一体何をしているのかと私が思っていると急な来訪者が現れた。


『呼ばれてやってきたのだ』


 誰かと思えばそれは風花副会長だった。彼女のその言葉から想像するに来射火先輩が先ほどスマホをいじっていたのは風花副会長を呼び出すためだったのだろう。


『それでどうして支援局室なのだ?』


 呼び出された理由までは聞かされていないのか風花副会長は来射火先輩を見てそう聞いた。

 おそらく呼び出させたのは夢鈴先輩だと思うのだが風花副会長はその可能性を全く考えていないらしい。以前は夢鈴先輩が同じクラスの風花副会長のことを認識してすらいなかったようなのでそう思うのも仕方ないのかもしれない。


「支援局から生徒会にお願いがあって来てもらったんだー」


 来射火先輩の代わりに夢鈴先輩がそう答えた。風花副会長は一度夢鈴先輩に視線を向けた後私の方へと向き直った。


『お願いとはどういうことなのだ?』


 提案者は夢鈴先輩なのだが私も夢鈴先輩の考えは大体読めたのである程度の経緯を含めて説明した。夢鈴先輩が横で何やら言っていた気がするが皆スルーした。


『学校掲示板の利用して人探しをするのだ? 聞いて見た限りだと掲示物としては問題なさそうなのだけどこの男は一体誰なのだ?』


 生徒会の人間でもやはり今井戸先輩のことは覚えていないらしい。


「以前生徒会からいただいたぬいぐるみの依頼があったじゃないですか。その首謀者と思われる人です」


 私がそう答えると風花副会長は改めた様子で来射火先輩が描いた似顔絵を見る。


『これは本当にうちの生徒なのだ?』

「恐らくはそうじゃないかと思います。学内に彼の痕跡が残ってるのは確かですから」


 今井戸先輩が関わったと思われる事件の多くはこの学校で起こっているのでこの学校の生徒の可能性が高いのではないかと考えだ。神説局長が用意していた資料にもその旨は書かれている。

 このまま生徒会との話を詰めようかと思ったのだが来射火先輩と一緒になにやらパソコンを弄っていた夢鈴先輩が声をあげた。


「リアちゃん喜んでー。ものの数分で掲示板に反応があったよー」 


 何をしているのかと思ったらどうやら早速掲示板への書き込みをしていたらしい。

 夢鈴先輩がこちらに差し出したディスプレイには掲示板が映っており、確かにコメントの通知が届いていた。

 私に任せるつもりのようでマウスまで差し出してきた。私はその期待に応えて掲示板のコメントを確認する。そのコメントは匿名の物で一言「この人物を知っています」とだけ書かれていた。このコメントは全体に公開されているので控えたのかもしれない。

 私はそのコメントに「個別でお話しませんか? お待ちしています」とだけコメントを残した。それからしばらくするとDMが届いた。それは文章もなく、マップのスクショらしきものだけでピンが一つだけ立っていた。


「ここに来て欲しいということでしょうか?」

「まあ、そうなんじゃないかなー。幸いそう遠いい場所ではなさそうだし向かうには問題ないと思うよー」


 夢鈴先輩は一瞬で場所を特定してそう言った。見せてもらったが確かにそこまで学校から離れた場所ではない喫茶店だった。

 怪しいといえば怪しいがその喫茶店は存外に普通のお店のようだ。


「一つ提案なんだけど、ここに私と安来で行かないか?」


 そう言ったのは来射火先輩だった。今回の件とは無関係な彼女の提案に私も夢鈴先輩も口を挟もうとしたが手で制された。


「まあ、話だけでも聞いて。さっきの掲示板だけど支援局としては書いてないんだ。そうだよね、鈴夢」

「まあねー。この件は依頼されたわけではなくあくまで仲間内の個人的ものだからねー。支援局の名義を使うわけにはいかないんだよねー。学校にバレたら色々面倒だからー」


 確かに確認すると夢鈴先輩が用意したのは捨て垢のようで明らかに名前が適当だった。カルイルカって何だ。


「ここで鈴夢と安来が行ったら支援局が背後にあるのはバレバレでしょ?」

「確かにそうかもしれませんが来射火先輩が来る必要性はないのではないですか?」

「いや、部外者がいるからこそ関係性を外せる。安来が思っている以上に安来は有名だから。さすがに支援局の仕事に部外者を巻き込まんだろうと思わせることができることは大事なんだ」


 思わせるというより実際のところそう思っているのだがどうしたものか。どうあがいても来射火先輩はついてくるつもりらしい。


「リアちゃん、今回はにこちゃんの言う通りにしてよー。夢鈴の代理ということで。にこちゃんが一緒なら情報がスムーズに夢鈴に届くからさー」


 いつの間にやら夢鈴先輩は今回の件に乗り気になっていたようだ。

 仕方なく私は来射火先輩の提案に乗ることにして彼女と共に地図の喫茶店へと向かうことになった。

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