秘密結社

プロローグ

 正直に言えば私は集団というのが苦手だ。だから私は部活に参加はせず、帰宅部を三年間貫き通すつもりだった。

 そんな私の前に一人の男が現れた。ロータスを名乗るよくわからない男だった。さすがにその名前は寒いわ。そう思い最初は無視していたのだが存外に彼はしつこく、私に付きまとった。

 仕方なく話を聞くとこれまたよくわからない組織の勧誘を受けた。部活とはまた違う、非公式な秘密結社だとか何だかで自由な活動を目的とする集まりだそうだ。

 正直乗り気何てものは1ミリもなかったが付きまとわれるのは嫌だったので試しに1度だけ付き合うことになった。

 連れていかれた場所は意外なことに校内の一室だった。秘密結社という割に利用許可はとっているらしい。

 その部屋で待っていたのはメイプルを名乗る秘密結社の総帥だった。

 フードを目深く被り、仮面をつけ、さらには体のラインを隠すようなローブを身につけていて性別を判別するのは難しそうだった。


「てめえがロータスが推薦したい人員のリリーだな?」


 高過ぎず低すぎない中性的な声質でメイプルが言った。

 いや、リリーって誰のことよ。そういう思いを込めてロータスに視線を送ると苦笑いを返された。どうやら私のことだと返したいらしい。


「俺らは匿名性を重要視してんだわ。だから結社内では基本的には与えられた偽名を名乗り呼び合うことになってんだよ。この仮面も個人を隠すための措置というやつだ」


 なるほど。ロータスから入室前に付けさせられたこの仮面にも意味があったらしい。素性を隠しながら自由に活動できる場所を提供する組織のようだ。


「その偽名って変えられないんですか?」

「無理だぜ。素性まで隠してんのに呼び名まで変えられたら誰が誰だかわかんなくなんだろーがよ! 文句があるならそこのロータスに言いやがれ。登録したのはそこのクソだ」


 私は再びロータスに視線を送った。この人は匿名というのを理解しているのだろうか。偽名に実名を捩った名前を使う奴がどこにいる? 


「そんなことより所属するかどうか悩んでいるそうじゃねーか。知りてーことがあるなら聞けよ。なんだって答えてやんよ」


 口調は乱暴であったがこのメイプルという人の所作はとても丁寧だった。そのズレが少し不気味に感じられる。


「この秘密結社の目的は一体何なんですか? それもわからない怪しい組織には所属なんてできません」


 私にとっては何の捻りもないストレートな質問だったがよくぞ聞いてくれたとばかりに深くうなずいた。


「そうだな、俺らの活動の理念それはな――」


 それを聞いてしまった私はもう引き返すことができず、所属する以外に選択肢はなかった。それは今の私にとって一番必要なものだった。

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