後日-2

 私の導き出した答えを聞いた神説局長の行動は迅速だった。

 私の答えを聞くなり誰かに電話をし始めた。その後私にここで待つように言って局室から出ていった。一体何をするつもりなのかと思ったらしばらくして神説局長が戻って来たと思ったら何かが投げ込まれた。


「ちょ、いきなり何なんだよ!」


 乱暴に扱われて文句を口にしたのは渦中の今井戸先輩だった。どうやら神説局長はどこからか彼を拉致って来たらしい。


「すまんな。貴様には早急な用があって招かせてもらった。双、出てきていいぞ」


 神説局長の言葉で日下部さんが物陰から出てきた。いつからそこにいたのか全く気づかなかった。


「最初からだ。それでぼくに一体どうすれと?」

「そこで黙って見ていろ。お前は保険だ。さて、今井戸あきら、今ここで貴様の罪をつまびらかにしてやろう」


 そんな神説局長の宣言に今井戸先輩は困惑した様子を見せる。


「はあ? 罪だってー! 行きなり何を言い出すんだ!」

「言ってるがいい。いつまで余裕でいられるか見物だな」


 今回は私の出番はなさそうだ。日下部さんと一緒に傍観者に徹するとしよう。


「そもそも貴様はいつからオカルト研究部にいる?」

「は? そんなもん創設時からに決まってんじだろ。愛莉明ちゃんが証明してくれるぜ」


 確かに今井戸先輩が言ってることはその通りで私がオカルト研究部創設に関わったときから今井戸先輩はいた。


「それならその前はどうだ? 貴様は合併前は何部に所属していた?」


 私の記憶が正しければ怪談納涼部だったはずだ。しかし、今井戸先輩はすぐには答えられず言い淀む。


「答えられないか? それは当然か。何せ貴様はオカルト研究部が何の部を合併してできたのか知らないのだからな」

「えっ? 今井戸先輩が知らない?」


 私は思わずそう言葉にしていた。確か降瑠以外の部員全員が合併前の部活に所属していたはずで知らないなんてあり得ない。


「貴様は獅子堂健司と同じ部活だった存在としてオカルト研究部に潜り込んだ。だから実際に所属していない貴様はわからない」


 思い出してみると今井戸先輩から直接怪談納涼部だったと聞いたわけではなく、獅子堂先輩が怪談納涼部だったから今井戸先輩もそうなのだろうと私は自然にそう思っていた気がする。


「貴様はオカルト研究部を利用して貴様は学校に化異事件をばら蒔いた」

「待ってくれ! おれが犯人のわけないじゃないか! 同じ支援局のおれを疑うのかよ!」


 確かに今まで一緒に化異事件に立ち向かって来た今井戸先輩が化異事件をばら蒔いた張本人なんてのはおかしな話だ。自作自演して何の特もあるとは思えない。


「愛莉明ちゃんと一緒に事件を解決してきたおれが犯人何て馬鹿げた話を一体誰が……」

「黙れ」


 神説局長の蹴りが今井戸先輩の頬を抉った。今井戸先輩は顔を押さえて床をのたうちまわる。


「その口先三寸は俺には通じねーよ。貴様のそれは価値観までねじ曲げる力はない」


 どうして神説局長が今井戸先輩を蹴り飛ばしたのか、口先三寸とは何のことなのか私には全くわからない。


「しっかり自分の意思を持て安来愛莉明。こいつは俺の基準で支援局に相応しいと思うか? それに事件解決の為にこの男が一体何をした?」


 そう言われて私は改めて今井戸先輩を見る。この先輩が何か支援局にふさわしい力を見せたかと言われたらそんな覚えはないし、事件のとき一体何をしたのかも思い出せない。


「なるほど。存在している存在しない誰かというわけか」


 混乱する私を他所に何かに気づいたように日下部さんが言った。それは確か先程聞いた怪談の話だったか。存在していたと思っていた存在が実は存在していなかったかなという話だったはずだ。


「今井戸昌という男は存在していた存在として他者に紛れ混む能力を持っている。本来怪談に沿えば存在そのものが消えることになるが実体を持つことで他者の記憶から自身の存在を消すことができる。その証拠にこの今井戸という男がどこに属していたか俺は覚えていない」


 つまりは支援局に属していないのに他者の認識を操って属しているかのように思わせているということだろうか。


「俺は貴様をずっと探していた。存在しなくなった貴様を捕まえるのはそれこそ雲を掴むようなものだからな。だからこそ存在している貴様を特定して消える前に捕まえるの必要があった」


 そう言いながら神説局長は今井戸先輩に暴力を加える。その所為で彼は言葉を返すこともできない。

 私は反射的にそれを止めようとしたのを日下部さんに止められた。


「やめておいたほうがいい。あの男は化異に侵され、自ら望んで怪異になっている」


 今井戸先輩への仲間意識は植え付けられたものだとわかっていても彼を助けたいとどうしても思ってしまう。


「しかし、どういうわけか怪談に呑まれず個人としての意識を保っているのはどういうことか」


 日下部さんは不思議そうに今井戸先輩を見ている。日下部さんにも化異についてわからないことがあるらしい。


「さて、何故貴様が化異をばら蒔こうとしているのか話してもらうぞ」


 神説局長は今井戸先輩を引き起こすとその体を蹴り飛ばした。今井戸先輩は床を転がり、壁に激突する。

 それでも今井戸先輩はふらりと立ち上がり神説局長を睨んだ。


「そんなに伊凪が死んだのが許せないかよ! ぼこぼこ殴りやがって。あれが死んだのは自業自得だろうが。せっかく力を与えてやったのに簡単に呑まれながって。愛してるだのなんだの言ってても妹への愛はその程度だったってことだよなー。愛莉明ちゃんは何て可哀想なんだ――」


 私は気づいたら今井戸先輩を殴りつけていた。特に殴るつもりもなかったのだが身体が勝手に動いていた。


「???」


「ああああああああ! 痛い痛い痛い痛い!」


 神説局長に蹴られたときよりも今井戸先輩は苦しんでいるようだった。私は今井戸先輩を手を開いたり閉じたりしてみるが違和感はない。


「そいつから離れろ!」


 その言葉と共に日下部さんに私は手を捕まれ引っ張られた。その次の瞬間今井戸先輩の体から黒い靄が溢れ出す。


「ああああああ! 一体何をしたーー!? 体が力が崩れていくー!!」


 今井戸先輩は苦しそうに叫び声をあげる。その姿は均衡が崩れ急激に蝕まれているかのように見えた。


「祓われろ!」


 日下部さんは瞬時に刀を抜くと今井戸先輩の体を両断した。その体はまるで存在しなかったように空気に溶けるように消えてなくなったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る