章怪談 他所者

 これは私が旅先の宿で聞いた話です。

 この村は以前は閉鎖的で外部との交流というものがほとんど無かったそうです。

 そのためかたまに来る外に来る人間のあたりが厳しかったそうです。

 そんなあるとき村に一人の男がやって来ました。彼は学者かなにかのようでこの村周辺の生態を調べるためにやって来たのだそうで何年か滞在したいとのことでした。

 当然村人たちは他所者よそものを歓迎するはずもなく、村に住むなら村の決まりに従えという条件を出し、面倒ごとを男へと押し付けました。

 こうすれば男も自分から村を出ていくだろうという考えでしたがひと月、ふた月と男は村から出て行く気配もなく、村人たちの要求に従っていました。

 さすがに気の毒に思った村医者は男を見かけると手伝うようにしていましたが男への押し付け行為はエスカレートするばかりでした。

 男がやって来て半年ほど経った頃でしょうか。村の各所で動物の遺体が散見されるようになりました。そのほとんどが小動物だったこともあり、野生動物の仕業ということになったのですがその野生動物の遺体の処理も他所者の男へと回されました。

 日に日にやつれていく様子の男を見て村医者は手伝うだけでなく、もう村から出た方がいいと忠告したのですが自分は大丈夫だと男は聞く耳を持ちませんでした。

 それからさらに半年経った頃でしょうか。村をさらなる事件が襲いました。村人の遺体が発見されたんです。

 獣に襲われたような傷跡があり、件の野生動物が人間を襲い始めたという結論になり、猟師が森には入り獣狩りが行われましたが人を襲ったと思われる獣は見つかりませんでした。

 その後も被害が続き、夜中の見回りを実施されることになったのですがそれもまた他所者の男に御鉢が回って来ました。

 村医者は男が心配だったので診療所を閉じた後に男の家を訪ねるとふらりと男が玄関から出て行くのが見えました。声をかけようかと思いましたが男の様子が変なことに気づき、こっそりと後をついていくことにしました。

 そこで村医者が見たのは男が村人を襲う瞬間でした。村医者はその男の姿を見てあれは鬼だ、と思いました。それくらい男の姿が豹変していました。


 村医者は悩んだ末に村長の家に赴き、先程目にしたものを話したうえで男への仕打ちを止めるよう伝えました。

 村長は思ったより聞き分けよく了承してくれました。これで事件もおさまるだろうと安心して床についた村医者でしたが次の日目にしたのはすっかり焼け落ちた男の家でした。

 夜中の火災があったそうで男も脱出かなわず亡くなったそうです。

 村医者はそれが村長の仕業だと勘繰りましたが証拠はなく、どうしようもありませんでした。

 男を助けることができなかった村医者は後悔とともに村の在り方の改革に動き、今の村ができあがったそうです。

 人への差別が男を殺人鬼に変えたのだと思うと恐ろしく感じました。

 そういえば村を出るとき狐の遺体を見つけたんですが大丈夫ですよね。

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