2日目-1

 私が目を覚ますとそこは薄暗い部屋だった。私は一瞬訳がわからず混乱するが直ぐに意識が途切れる前に何があったか思い出す。

 学校への通学路、朝ということで私は油断していたのかもしれない。今まで犯行が行われたのは夕方から夜にかけてだった。だから私はに遭遇するとは思っていなかった。

 学校へ向かうためいつものバス停に行くと一人だけバス停に立っていた。その人は私より少し背が高いくらいで大男と呼べるような感じではなかった。

 フードを目深く被り、肌を見せないその服装は怪しさを醸し出してはいたが私はそんなに気にしなかった。

 ただ今思えばもっと気にするべきだったのかもしれない。この時間にも関わらずバスを待ってるのが一人だけだったこと。いつもならそれなりに車通りがあるはずなのに車道を走る車がなくなったという事実に私はもっと警戒するべきだった。

 怪異に慣れたつもりでいたがまだ本当の意味で理解していなかった。その理不尽さに。

 最後に見たのはフードの奥からこちらを見る怨嗟の瞳だった。


 全てを思い出した私は改めて自身の状況を顧みる。口には猿轡を噛まされ、両手両足は縛られているようだ。ただ目隠しはされてないので周囲の状況は伺えそうだ。とはいっても薄暗いので細部までとはいかないが。

 見渡すまでもなく身じろぎする気配があり、この部屋に私以外にもいることがわかった。犯人かとも思ったが複数人いるようでどうやら私と同じで連れ去られた人のようだ。

 私はしばらく聞き耳をたてて近くに犯人がいないことを確認すると行動を開始することにした。まずは手足の縄の強度だ。手足を動かして確かめてみたが縄自体の強度は高そうだ。ただ縛り方があまい感じで時間をかければ外せそうではあった。以前縄抜けの練習をしたこともあったので慣れたものではあった。

 私は周囲に意識を向けながらも早速縄抜けに挑戦する。自力で肩を外してなどという離れ業はできないので地道に縄を緩めていく。

 時間をかけて手の縄を外せば後は簡単だ。足の縄を解いて最後に猿ぐつわを外す。これで完全に自由だ。私は音をたてないように移動しながら部屋の中を確認する。捕まっているのは私を含めて6人おり、他の人も手足を縛られて猿ぐつわをされていた。

 私は少しかわいそうであったが解放したらしたでパニックになりそうで私一人ではどうにもできなさそうなのでそのままにしてひとまず脱出を試みることにした。

 部屋には窓はなく、出入りに使えそうなのは入口のドアだけだった。試しにドアノブを回してみると簡単に開いた。鍵はかかっていなかったらしい。

 ドアを開けると長い廊下が続いており、左右にいくつかのドアが見える。私がいた部屋は廊下の突き当りの部屋のようで今正面から誰かが来たら逃げ場はない。

 私はすぐに移動することにして周囲を警戒しながらも廊下を進む。道中開いているドアがいくつかあったので覗いてみたがほとんどが何もない空っぽの部屋で日常的に誰かが使っているという雰囲気はなかった。かといって電気が通っているようなので完全な廃墟というわけではなさそうだが。

 しばらく進むと大きな二枚扉があった。扉の上には非常口マークがあり、どうやらそこがこの空間の出口のようだった。見た感じドアに鍵はついてないようだったが押しても引いても扉は開かなかった。

 隙間から覗いてみるとドアノブを何かでぐるぐる巻きにして開かないようにされているようだった。この感触は鎖か何かのようで簡単には壊せそうにない。

 こうなると外部に助けを求めるか扉を破壊する何かを見つけるしかないだろう。しかし外から閉ざされているなら犯人は今中にいないということになりそれは朗報だった。

 これなら中を調べ放題だ。まずは私の荷物が処分されていないことを信じて私の学校鞄を見つけよう。

 ひとまずドアが開いている部屋は覗いたのでドアが閉まっている部屋を探そう。手始めに私は一番近くの閉まったドアに手を伸ばした。他の部屋と同様に鍵はついておらず簡単に開いた。

 この部屋は今までの部屋とは違い生活感があり、色々と物が置いてあった。おそらくは犯人の私物かと思われるがほとんどは生活用品のようで元からここに住んでいたというわけではなさそうだ。

 私はふと机に広げられたノートが目についた。手に取ってみるとそれはどうやら日記らしいことがわかった。犯人には悪いが何かしら情報を掴むためにも見させてもらおう。

 日記の内容は正直心地いいものではなかった。日記に書かれていることは基本二つで一つは負の感情を書きなぐったかのような内容でもう一つは自らの罪を懺悔するかのような内容だった。

 これはどう捉えるべきだろうか。この内容のちぐはぐさは二重人格を疑ってしまいそうだ。いや、犯人が化異に侵されているというなら二重人格とたいして変わらないのかもしれない。

 私はそっと日記を机に戻して探しものを再開することにした。この部屋には他にめぼしいものはなかったので別の部屋を探しに行くことにした。

 私はそのあと何か所か部屋を見て回ったがどの部屋も鍵はついておらずやはりほとんどの部屋は使われていないようだった。ただ一つだけ後付けで鍵のつけられている部屋があった。

 ただ鍵がついているというだけでなく、その部屋は他と違って嫌な雰囲気だった。よく見るよドアノブにシミがついており、まともな用途の部屋とは思えなかった。

 開くかどうか試してみる気にもならず、私はそのままスルーした。それから何部屋か見て私が閉じ込められていた部屋の近くまで戻って来たとことで倉庫らしき部屋が見つかった。

 雑多にものが詰められていてどうやらそのほとんどが被害者の物のようだった。その中にはちゃんと私の鞄もあった。中を確かめてみるとちゃんとスマホがあり、画面もちゃんとついた。どうやら壊れてもいなければ充電も十分残っているようだ。

 画面をみたことで時間もわかったのだがもうお昼を過ぎているようだった。登校のときからもう数時間も経っているようだ。よく見るとスマホに大量の通知が届いていた。私が登校しないものだから降瑠あたりが心配してメッセージをくれたのだろう。

 これで外部に連絡が取れるだろうと思い電話をかけようとして見覚えのある鞄が荷物に紛れているのに気づいた。私は自然とその鞄を手に取って中身を確認した。


「この鞄にどうしてこの本が?」


 鞄の中にあったの一冊の本だった。それはこの前降瑠が話した怪談の載っている「百聞奇集」という本だった。

 この本が、怪談の本がどうしてここにあるのだろうか。私はさらに鞄の中を調べてみるとさらに色々なものが入っていた。

 そのときドアの外廊下の方から足音が聞こえてきた。どうやら犯人が戻って来たらしい。私は息を殺して犯人がドアの前を通り過ぎるのを待つ。

 そして犯人がドアの前を通り過ぎるということは監禁部屋に向かう可能性が高い。つまりは私が抜け出したことがバレるということだ。

 私は犯人が通り過ぎるのを待って部屋から飛び出して出口に向かう。すぐに後ろから追いかけてくる気配を感じられたが私は構わず出口に向かった。

 思った通り二枚扉の鎖は外されていて開けることができた。そう思った瞬間背後から襟首をつかまれ、私は床に転がされていた。どうにか私は受け身を取ってすぐに立ち上がった。そして私はそれと向き合うことになった。

 2メートルを超える大男、確かに降瑠が話した通りではあったがその姿は人と呼ぶにはあまりにも異様だった。肌の色は赤みを増し、手足は異様に太く、爪はまるで小ぶりのナイフのようだった。

 そして何より目立っていたのは額から伸びる二本の角だった。その姿はそう、まさに鬼と呼ぶにふさわしい姿だった。

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