1日目-2
昼休みに真昼と昼食をとりながら経緯の説明と作戦会議の時間をとった。
「え!? ふーちゃんの愛犬が殺されて愛莉明ちゃんのお兄さんが行方不明になったってー!!」
「ちょ! 真昼、声が大きい!」
私が注意するが幸い内容までは聞き取られてはいなかったようでわずかに視線が向けられただけですぐに興味なさそうに視線を外された。
真昼は改めて声を抑えて喋る。
「愛莉明ちゃんにお兄さん何ていたんだね」
「まあ、そうだけど今の話を聞いた感想がそれ?」
もっと触れるべき点はあったと思うのだかまず出てきたのがそれというのはどうなのだろう。
「いや、ほら。愛莉明ちゃんって自分の話なんてほとんどしないじゃん? この前だってあたしとふーちゃんに入学理由語らせて自分は話してないでしょ?」
確かにその通りではあるのだがあのときはそういった流れではなかった気がするし聞かれなかったのだから仕方なくはないだろうか。
「……兄さんに話を聞いて良さそうと思ったからこの高校に入った。以上」
「ふーん、さては愛莉明ちゃんはブラコンだな?」
「は?」
今の話のどこにその要素があっただろうか。こいついったい何を言ってるんだという視線を向けると真昼はいやいやと首を振る。
「さっきお兄さんの失踪の話してる時辛そうな顔してたし、それにお兄さんの話を聞いただけで進学先決めるなんてそうないと思うよ?」
そう指摘を受けて私は少し考えてみる。確かに真昼の言いたいことはわからなくはないがあくまで興味を持った始まりが兄さんの話であって総合的に考えて選んだつもりだ。
兄さんの失踪だって家族が行方不明となれば誰だって辛いと思うはずだ。
「うん、私は別にブラコンじゃないから。それより今の話を踏まえた上で相談があるんだけど……」
正直あんなことを言った手前中々言いにくいことではあったが夢鈴先輩の協力を得るには必要な通過点だ。
「やっぱり今回の件の調査をしたいからあたしに依頼して欲しい。そういうことだよね?」
私が話す前にしたり顔で言い当てられてしまった。何となくイラっと来たが認めなければ話も進まないので頷いておいた。
「というわけで改めて私に依頼をいて欲しい」
「えー、どうしようかな? あたしを巻き込まないとか言っていたのになー」
こいつはどうしてやろうかと思った。どうせなら真昼ではなく降瑠にお願いしようか。彼女なら断る可能性もあるがこちらからお願いすれば多分受け入れてくれるだろう。
私が別の算段をたてていることに気づいたのかコホンと咳払いをした。
「まあ、愛莉明ちゃんのお願い何て珍しいしあたしに任せてよ」
というわけで無事に真昼から依頼を受けることができた。これでちゃんと捜査を進めることができる。というわけで一応真昼から改めて依頼内容を聴取してメモにまとめておいた。ついでに今回の事件の内容も真昼と私が知っていることをまとめておいた。
後は降瑠から何があったのか話を聞ければいいのだがそこは彼女の精神状態によっては話を保留にするしかないだろう。
そう思っていたのだが降瑠の自宅に行くと意外と降瑠は元気そうだった。
「心配かけたみたいでごめんね。昨日はショックだったんだけど中学の友達が来てくれておかげで落ち着いたんだ。今日はリグの葬儀の準備で忙しくって。今は時間の方が大丈夫だよ」
降瑠の目には涙の跡が残っていたが愛犬の喪失とはちゃんと向き合えているようだった。降瑠の友人に感謝しなければならないだろう。
「降瑠、実は今回の事件を調査することにしたんだ。だから詳しく話を聞いかせて欲しい」
降瑠は驚いた様子で私と真昼の顔を見比べた後諦めたように小さくため息を吐いた。
「わかった。中で話そ。二人ともあがって」
降瑠は押し掛けて来た私と真昼を家にあげてくれる。そのまま自室まで私たちを案内し、飲み物を持ってくるために一度部屋から出ていった。
「ふーちゃんらしい女の子らしい部屋だね」
真昼が一通り部屋を見渡してそう感想を口にした。
「確かに。まあ、ある一角を除いてだけど」
私は他とは雰囲気の違うその場所を見て言う。最近になって増設されたであろうその一角にはオカルト関係の書籍やアイテムが置かれていた。オカルト研究部の先輩たちからもらったであろうことは想像に難くない。
次に私の目に留まったのは壁に飾られた写真だ。降瑠と彼女の中学時代の友人との写真が多いがところどころに愛犬との写真も見受けられる。
先ほどまで眺めていたのであろう愛犬の写真が机に置かれている。どれほど彼女にとって大事な存在だったのかわかる。
珍しく真昼も神妙な面持ちでその写真を眺めていた。
「二人ともお待たせ」
お菓子とお茶を手に部屋に戻って来た降瑠は私たちの視線の先に気付き、いそいそとその写真を手に取ると元の位置に戻した。
「あはは、好きに座っていいよ。写真のことは気にしないで」
私と真昼はうなずき合うと適当なところに腰をおろした。
「降瑠の友だちはどうして会いに来たの?」
気まずい雰囲気を払拭するために本題に入るためにそう尋ねた。愛犬が亡くなったことは私も夢鈴先輩に聞いて初めて知ったことだ。別の学校の彼女たちが知るのはそう簡単ではないはずだ。
「えっと、毎晩すーちゃんと電話してるんだけど昨日はそれもできないくらい私も落ち込んでて。それですーちゃんたちが心配して登校する前に来てくれたんだ」
嬉しそうに降瑠はそう話してくれた。私も真昼も降瑠の友人としてはまだまだ敵わないということなのだろう。
「ごめんね。二人からもメッセージが来ていたことには気づいていたんだけど返せなくて」
「気にしないでいいよ。何事にも優先順位というのはあるんだしさ」
「リグ、家族が亡くなったんだから仕方ないと思うよ」
私の核心を突く言葉に降瑠は目を伏せて小さく肩をすくめた。薄々感づいていたが今の言葉で私が何があったか知っていると確信したのだろう。
「……安来ちゃんが事件に関わろうとしてるのは私のことがあったから、だよね。私のことはいいから、危険なことは、しないで欲しい」
今にも泣きそうな顔で降瑠がそう懇願してくる。大切な友人が傷つくところ何て耐えられないとその目が語っていた。それでも私は、それにおそらく真昼ももう止まることはできない。
「降瑠、私たちはもう決めたんだ。犯人の行動をこれ以上黙ってみることはできないんだ。降瑠が望まないのをわかってて私と真昼はここにいる」
「あたし的にもこれ以上部活動に支障が出るのは嫌だし友達が辛い思いをしたんだ。落とし前はちゃんとつけてもらわないとね」
降瑠は私や真昼にどんなに言葉を尽くしても止めることはできないと悟ったのか小さくため息を吐いた。そうして涙をぬぐった降瑠の目にはある種の決意が宿っていた。
「そこまで言うなら私にも手伝わせて! 2人が無茶しないように私がブレーキになる。それにリグの仇もとりたいもん!」
私的には降瑠にこれ以上関わって欲しくはなかったが一度決めたら簡単には引くような質ではないことはこれまでの付き合いで何となくわかっている。それにこれはお互いさまという奴だろう。降瑠が思いを飲み込んでくれたようにここは私も飲み込むしかない。
「それじゃあ、これで『動物連続怪死事件調査団』結成だー!」
「「おー!」」
声高々にそう宣言する真昼に私と降瑠はのって拳を突き上げるのだった。
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