日常-3
降瑠からの救援依頼は特に身の危険がという話ではなく、飼っている犬がいなくなったという話だった。家族がいなくなったのだから降瑠にとって一大事なのはわかっているが降瑠が無事で少し安堵している自分がいた。
「ごめんなさい、私がどうにかしないと行けないことなのに」
「気にしないで。友人として頼ってくれるのは嬉しいことだから。真昼もそう思うでしょ?」
メッセージを受けてとんできたのは私だけでなく真昼も一緒だった。真昼はもちろんだと強くうなずいた。
「堂々と部活をサボる理由ができてよかった」
「おい!」
私がツッコミをいれると真昼は視線をさっと逸らした。
「ま、冗談はさておいていなくなった子はどんな子?」
「えっと名前はリグで黄色のラブラドールなの。赤い首輪をつけていて――」
真昼に聞かれて降瑠は事細かに説明してくれた。私はそれをパパッとスマホにメモする。ついでに犬の写真を見せてもらって写真に収める。
「さすが手際がいいねー!」
真昼が茶化してくるのを無視して私は犬がいなくなったときの情報を降瑠から聞き出すことにする。
「散歩中に急にリグが走り出して、私が頑張ってリードを引っ張ったら切れちゃってそのままどこかに行っちゃって……」
降瑠は今にも泣きそうな顔でそう言うがもうすでに彼女の目には泣いた跡がある。それほど愛犬が大切なのだろう。
「これってあたし必要か? 愛莉明ちゃん一人で見つけてしまいそうだけど……」
「いや、最後はどうしたって人海戦術になるから真昼の力は必要だよ」
私の役目は降瑠の愛犬がいる範囲を最小限まで絞り出すことだ。それには必要な情報を集める必要がある。というわけで私は先輩に電話する。
『ちょっと、リアちゃん。夢鈴を便利屋か何かと思ってなーい? ここ最近何かあるたびに夢鈴に連絡してきてるよねー!?』
「ただ頼れる先輩に助けを求めてるだけですよ。夢鈴先輩だって支援局なんですから協力する義務があるはずです」
今日の夢鈴先輩はそこまでやる気がなさそうだったが私がそう返すと渋々といった様子でため息交じりに了承した。
『はいはい、それで今回はどんなお仕事ー?』
「今から言う特徴の犬を見つけて欲しいんです」
『はい? 犬?』
先輩は犬と来るとは思っていなかったのか何言ってんだと言う反応を見せる。学校との関連性は見えてこないだろうしそもそも支援局の依頼ですらない。それを言ったら協力は得られなさそうなので言わないが。
「飼い犬がいなくなったって依頼を受けたんです」
「いや、何でそんな依頼受けてるのー? まあいいや。特徴をメールで送って。すぐ取り掛かるからー」
どうでもよくなったのか投げやりにそう言われて電話が切られた。私は夢鈴先輩のメアドに迷子の犬の情報を送り、先輩からの連絡が来るまでの間にさらなる情報を得ておくことにする。
まずはいなくなった場所とその犬の行動範囲だ。散歩ルートの半径100メートルほどを目安にして地図に書き込む。散歩ルート以外で行った事がある場所を降瑠から聞き出す。
私はひとまず散歩ルート周辺を降瑠に、それ以外の場所を私と真昼で探すことにする。
とはいっても正直言って3人では人手が十分とは言えず、すべての範囲を探すには時間がかかりすぎる。私は降瑠の犬を探しながら手を借りられる相手はいないかと考えると一人だけすぐに思い浮かんだ。
それは伊凪兄さんだ。多分私が頼めばすぐに了承してくれそうだがあまり頼りたくはなかった。兄さんにはやらなければならないことがあるし、こうして長時間拘束するのははばかれる。
しかし現状兄さん以外に力を借りられそうな相手はいない。私が迷っていると電話が鳴った。相手は夢鈴先輩だった。
「リアちゃん、見つけたよー。今から3分前に目撃情報があったよー。場所は――」
夢鈴先輩が示した場所は私が今いる場所や真昼や降瑠のいる場所からも離れていた。しかし私の自宅、兄さんのいる場所からはそう離れていなかった。
降瑠の愛犬が同じ場所にそう長くとどまっているとは思えず、私が今向かっても見つけられる可能性は低そうだった。
私は色々と天秤にかけた上に兄さんに電話をかけることにした。
『ん? どうしたんだい? リアが電話をかけて来るなんて珍しいね。何かあったかい?』
「時間が惜しいの。説明は後でするから今から送る場所に向ってほしいの」
「ああ、わかったすぐに準備するよ」
兄さんは二つ返事で了承してくれてすぐに動いてくれた。私は地図と犬の特徴を兄さんにメールで送るとすぐに降瑠と真昼にメッセージを送って私もすぐに目撃情報のあった場所に向かった。
私と降瑠はほぼ同時に目撃現場に到着した。
「リグー!! どこにいるのー!!」
降瑠は大声で愛犬の名前を呼ぶ。するとどこからともなく大型の犬が走って来て降瑠に飛びついた。
「リグ! もう、どこに行ってたの! 心配したんだからね!」
降瑠は再会の喜びで涙を流しながら愛犬に抱き着いた。
「見つかって本当によかったね」
いつの間にか私のそばに兄さんが立っていた。どうやら兄さんが見つけてくれていたようだ。
「見つかったなら連絡を入れてくれればよかったのに」
「ごめんよ。メールの間に目を離したら逃げられそうだったからね」
私が文句を言うと兄さんはそう言って笑った。兄さんの言いたいこともわかるがそれでもと思ってしまう。
「でもありがとう兄さん。とても助かったよ」
「どういたしまして。それじゃあ先に帰ってるよ」
「え、兄さん!」
降瑠に何も言わず歩き出した兄さんを呼び止めたが止まってくれなかった。追いかけようかとも思ったが降瑠を置いて行くわけにもいかなかったので見送るしかなかった。
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