2日目-6

 全てを終え、ひとまずは地下にあるものをそのままにして廃屋から出ると見知らぬ男が待っていた。しかし日下部さんの方はその顔に覚えがあったようで声をかけた。


「相変わらず耳が早いな、早瀬」

「それが私どもの仕事ですので。例の物は中ですね、双さま」

「ああ、よろしく頼む」


 早瀬さん(?)は一礼すると私たちが出てきたドアから中に入っていった。


「今の方は誰ですか?」

「同業者だな。彼の場合は化異事件の後始末が主だけど」


 後始末か。おそらくここに警察がやって来ることはないのだろう。どう見たって地下にあるのは普通の遺体じゃないし、犯人は人形だなんて誰も信じないだろう。

 どう処理されることになったとしても遺体が遺族のもとに届けられるとよいのだが様子を見た限りそれは難しいかもしれない。


「それはそうとさっきのあれは何だったのですか? あれはまるで……」


 現実じゃないような、まるで化異に侵食されているように見えた。現在刀は錫杖に戻り、服装もいつもの物に戻っている。さっき何かしら飲んでいたがそれで元に戻った。


「確かにあの力は化異に由来する力だが一応制御はできている」


 それが事実なのは今の姿を見れば本当なのだろうが少し不安ではある。そんなことは日下部さんもわかっているだろうから言及するのはやめておいた。

 現場の処理は早瀬さんに任せればいいということで帰宅することになった。日下部さんが送っていくというのを断り、私は自転車に乗って学校へ向かう。


「夢鈴先輩、もう喋っていいですよ」

『んん? 正直音声だけじゃ状況はわからなかったのだけど何かあったのー?』


 自転車で走りながらずっと通話状態のままの夢鈴先輩に声をかけた。


「第三者がいたので夢鈴先輩が聞いていないことにした方がいいと思たんです。先輩はどこまで聞こえていました?」

『リアちゃんと祓い屋さんの会話は大体聞こえてたかなー。さすがに地下の状況の把握まではできなかったけど』


 それならば多分問題ないだろう。知らない方がいいことは知らず、知って欲しい所はちゃんと聞いていたことだろう。


「夢鈴先輩は私が帰るまでに報告する内容をまとめておいてください。羽場樹先輩はもう帰ってきましたか?」

『もう片方の先輩が迎えに行ったんでもう帰ったんじゃないかなー』


 それなら香野先輩にメッセージを入れておこう。二人にはまだ一応聞いておきたいことがある。


『もしかして今回のことは夢鈴が報告する感じ?』

「それでもいいですけどやりたいですか?」

『全然!』


 即答だった。元々私が受けた依頼だったので元から報告は私がするつもりだった。それに現場に来ていない先輩ではわからないことも多くあることだろうし。

 正直今回は動いてばかりでまとめる暇はなかったので暇であろう先輩にやってもらおうという考えだった。


「解析家タイプなら情報をまとめるとかそういうの得意ですよね? お願いしますね、先輩」


 夢鈴先輩はまだ何か言おうとしたがその前に電話を切った。長時間の通話でさすがにスマホのバッテリーがやばいので一度自転車を止めてぱぱっと香野先輩にメッセージを送っておくことにした。

 すぐにメッセージが返ってきて明日生徒会役員を交えて話をする約束を取り付けた。

 私はふと思い出してポケットに入れたままだったものを取り出した。それはガーネットの指輪だった。名前を確認するために剥いだときに現れたものだった。

 確かガーネットは絆の石と呼ばれるもので明らかに大切なものというよりは相手に渡したいものだったに違いない。

 私は改めて二人のプレゼントがそれぞれに渡るように努めようと思った。

 時間がもう遅いし急いで帰るとしよう。私が帰らなければ夢鈴先輩も帰れないわけだし。

 自転車を再び走らせてしばらくすると何かが地面に落ちているのが見えた。暗くなり始めているせいかすぐ近くに行くまでそれが何かわからなかった。

 それは犬の遺体だった。首輪がないのでおそらく野良犬だろう。車にでも引かれたのだろうか。一瞬そう思ったが様子がおかしいことにすぐに気づいた。

 犬が倒れているのは車道の端で車に轢かれるような場所ではない。

 私は気になって自転車から下りて確認すると思った通りその犬は車に轢かれたわけではなかった。

 犬の体にはばっくりと切り傷が残ており、そこから暖かい血が流れていた。つまりはそんなに時間は経っていない。

 私は慌てて周囲に視線を送るが人影一つ近くにはない。私と入れ違いで犯人が去って行ったと考えるべきだろう。

 私は少し悩んだ末近くの家のインターホンを鳴らし、連絡先を渡し、警察への連絡をお願いして私は学校へと戻ることにした。家主は私があの高校の支援局に所属していると知ると快く受けてくれた。

 警察への対応を予定に突っ込みながらまだまだ終わらない一日にため息を吐きながら私は残りの道を懸命に自転車こいでいくのだった。

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