2日目-1

 私は生徒会室へ報告に行く前に夢鈴先輩に連絡して局室へと呼び出した。嫌がるかとも思ったが一つ返事で了承をもらうことができた。

 どうやらちょうど授業に出なければならないことがあるそうで学校に来ていたらしい。


「……夢鈴はプロの自宅警備員だけど果たさなきゃいけないことはあるからねー」


 幾分かお疲れの様子の夢鈴先輩はソファーに座ってそう語った。さすがに横になる時間はなかったようで本当に授業に出ていたようだ。


「ねぇ、リアちゃんは夢鈴を何だと思っているのー?」


 夢鈴先輩がどんぐり眼で私を睨んできたので私はスーッと視線を逸らす。さすがに面と向かってダメ人間とは言えない。

 私は話を逸らすついでに自称自宅警備員に香野先輩から得た情報を開示することにする。

 私は絆紡人形の詳細をまとめたものを夢鈴先輩のメアドに送る。

 夢鈴先輩は既に準備されていた私物のパソコンでその内容を確認している。


「うーん、これはまるでひとりかくれんぼみたいだねー。さしずめ代理かくれんぼといったところかなー」

「ひとりかくれんぼ?」


 どこかで聞いたこともあるような気がするが私には覚えのないものだった。


「都市伝説の類いだよー。リアちゃんはそういうの興味なさそうだからURL 送るねー」


 数秒でURL が貼り付けられたメールが送られてきた。最初から用意されていたかのような速度だった。

 私はそのURL を開いてひとりかくれんぼの紹介が書かれたサイトを閲覧する。


「確かに細かい違いはありますが似ていますね。これを元に作られたものかもしれないですね」

「だとしたらお呪いというよりはのろいといった方がいいかもねー」


 呪いか。確かに元となったであろうひとりかくれんぼというものはどこかホラーじみているし絆紡人形にあるメリットらしきものは一切ない。


「でも絆紡人形には問題は起きてないので大丈夫ですよね? 夢鈴先輩は何か新しい情報は得られましたか?」


 昨日何かするようなことを言っていたので聞いてみると夢鈴先輩はわずかに顔をしかめた。


「んー、まあ、わかったことはあるけど今回の依頼には関係ないかなー。だから先に生徒会に報告しちゃおーよ」


 どうにも違和感を覚える言い方だったが追及してもいまは答えてはくれなさそうなので一先ずは生徒会への報告を優先しておこう。

 夢鈴先輩は行かないかと思ったのだが珍しく同行してくれるようだった。


「生徒会全員集合だったら遠慮したけど二人くらいならギリセーフだからねー」


 とのことだった。しかし生徒会に行ってみると二人どころか一人しかいなかった。


『ようこそなのだ』


 ず○だもん、ではなく風花副会長が出迎えてくれた。他に誰もいないから最初からタブレットを搭載していた。


『誰かと思ったら夢鈴も一緒なのだ』


 隣にいる夢鈴先輩を見て風花副会長が驚いた様子でそう言った。どうやらこの二人は知り合いらしい。同じ2年なのでそういうこともあるか。


「え? 誰?」


 本気で困惑気味にそう返す夢鈴先輩に私は思わず冷めた視線を送ってしまった。


『同じクラスの風花なのだ。今日だって顔を合わせているのだ』

「ああー、ほとんど教室に顔出さないから友だちのニコちゃん以外覚えてないんだよねー。ごめんね?」


 全然悪いと思ってなさそうにそんなことを言った。風花副会長はショックを受けた様子もなく小さく頷くと私たちに座るように促してきた。

 私たち二人並んで座り、風花副会長と向かい合う。


『今日は会長は用事があって席を外しているのだ。だからボクだけで勘弁して欲しいのだ』

「大丈夫です。元々風花副会長からの依頼ですから会長がいなくても問題はないですよ」


 というわけで私を中心に時々夢鈴先輩が口を挟みながら今回の件の全貌を説明していった。

 一通り説明を終え、私が用意した資料を目を通すと風花副会長は小さく息を吐いた。


『掲示板から始まったことだったのだ?』

「掲示板とはいっても学内サーバー外の非公式掲示板だよ。だから生徒会で取り締まるのは難しいところだねー」


 Dコードとかいう今流行りのアプリを介したもののようで学校や私たちにどうこうする力はない。夢鈴先輩ならどうにかできるかもしれないがその手段はグレーないしブラックゾーンだ。


『一先ずは学内に向けて絆紡人形関係を禁止する通達をすることにするのだ。ぬいぐるみも告知後に時間をおいて処分することにするのだ』

「待ってください。ぬいぐるみの処分はいいんですけど中に埋め込まれた物は取り出して別々に告知することはできませんか?」


 この方法ならば絆紡人形の決まりごとに抵触することはないし何をいれたのかは特別な人形を作った人にしかわからないので咎められることはないはずだ。


『わかったのだ。そのように取り計らうことにするのだ』


 話は思ったよりもスムーズに進み、風花副会長もこちらの意見を素直に聞いてくれる。

 夢鈴先輩も的確に助言を挟んでくれている。最初の印象があれな分私の中で株が上がっている。


『羽場樹七海から詳しい話を聞きたいところなのだけど無理そうなのだ?』

「そうですね。私が話した様子だと難しそうです。何かきっかけのようなものがあれば変わるかもしれませんが」


 絆紡人形の内容を広めた者の正体も目的もわからない。その足掛かりになる情報が欲しい所だがどうしようもなさそうだ。

 その時私のスマホに通知が届く。後にしても良かったのだがなんとなく気になってスマホの画面を確認するとそこにあったのは香野先輩からのメッセージだった。




 風花副会長に断りを入れて私は夢鈴先輩と一緒に局室へと戻ると香野先輩がソファーに座って待っていた。その様子はいつも余裕ぶった様子はなく、はたから見てもわかるくらいに動揺しているようだった。


「安来さん、七海がいなくなっちゃった。連絡もつかなくて……」

「落ち着いてください、香野先輩。一体何があったのか最初から順番に話してください」


 香野先輩は小さく頷くと羽場樹先輩と何があったのか話してくれた。

 昨日のことがあり、気持ちを切り替えた香野先輩は羽場樹先輩とちゃんと話をする場を設けたそうだ。そこで自分の気持ちを、絆紡人形はもうやめたい旨を話したそうだ。その際にどうしても絆紡人形を行いたい羽場樹先輩と言い合いになり、羽場樹先輩が出て行ってしまったらしい。

 香野先輩は色々と思い当たる場所を回ってみたが見つけることができず、こうして助けを求めてきたということのようだ。


「羽場樹先輩は一体どこに行ったんでしょうか。香野先輩が見つけられない彼女を探すのは中々骨ですよね」


 ひとまず香野先輩には休んでもらって夢鈴先輩と作戦会議を開く。話の流れから絆紡人形関連かとも思ったがどうやら学校には羽場樹先輩はいないらしい。


「一応SNSを利用して探してみてるけどこれといった情報は今のところないねー。というわけでリアちゃんはさっきした話は覚えてるー?」

「さっきっていつの話ですか?」


 色々と話したのでどれのことかわからない。思い出せない私を見て夢鈴先輩は楽しそうに笑った。


「ほら、生徒会に行く前にそれっぽいこと言ったでしょ?」

「それっぽいって、絆紡人形についてわかったことってやつですか?」

「そうそう、それだよー!」


 正直言えばまったくもって期待していなかったが何かの足しになればという思いで私は夢鈴先輩の話を聞いてあげることにした。


「何か夢鈴の扱い悪くないかなー。一応先輩だからね? このなりでもちゃんと先輩だから!」

「はいはい。あまり時間もなさそうなので話してもらってもいいですか?」


 私が適当にあしらうと夢鈴先輩は不満そうにしながらも絆紡人形についての情報とやらを話してくれる。


「気になって学内問わずに色々調べてみたんだけど絆紡人形と似たような感じの話が見つかったんだよねー。その学校では行方不明者も……」

「ちょっと待って、それ本当ですか!」


 予想外に深刻そうな事態に私は思わず私は声をあげる。この学校でもその危機が、と言うより羽場樹先輩ピンチ何じゃないのか?


「うん、まあ、急いだほうがいいと思うから移動しながら説明するねー。向かう場所はメール送っておくねー。ちょっと距離あるから私の自転車使ってよー」


 夢鈴先輩から鍵を投げ渡される。どうして先輩は自転車登校を、と思ったがこの先輩が電車やバスに乗れるわけがなかった。


「夢鈴先輩は?」

「ここから通信でサポートするよー。さすがに自転車二人乗りはもんだいでしょー?」


 確かにその通りだし夢鈴先輩に向ってもらうのは現実的ではないので私が向かうしかなさそうだ。というわけで私は送られてきた住所を頼りに夢鈴先輩から自転車を借りて羽場樹先輩を探しに向かうこととになった。



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