1日目-5
最初は体育館に向かっていたのだがその途中で返信があり、急遽学校を出ることになった。
そういえばさっき体育館に行ったときは彼女の姿を見かけなかったことを思い出す。どうやら席を外していただけではなかったらしい。
彼女から指定された場所は学園から少し離れた場所にある神社だった。長い階段には少し辟易したが上から見た景色は中々綺麗だった。
とはいってもそこまで時間があるわけではないのですぐに鳥居を抜けて敷地内に足を踏み入れる。
「ようこそ、安来さん。わざわざこんなところまで来てもらってごめんね。本来なら私が出向くべきだったんだけど今は学校に顔を出しずらくて」
社の近くのベンチに座っていた香野先輩はそう言って気まずそうに笑って私を出迎えた。
「いいえ。気にしないでください。お話があるのは私の方なのでこちらから出向くのは当然のことですから」
「……ありがとね。そうだ、安来さんもお団子食べない? この神社の名物よ。そこの売店に売っているから勝手来るわね」
私が答える前に香野先輩は立ち上がると売店の方に行って私の分のお団子を買ってきた。こうなると断るわけにもいかず、私はありがたく御馳走になることにした。
立って食べるのも行儀が悪いので私は香野先輩の隣に座って団子をいただく。勧めてくるだけあって中々美味しい。
「先輩はどうして部活をサボってまでここに来たんですか?」
本題にに入る前に雑談感覚でそう尋ねてみた。すると私の予想に反して香野先輩は表情を暗くした。
「……昨日試合で安来さんたちに負けちゃったでしょ? それでちょっと色々考えたくなっちゃって」
昨日は平気そうに見えたのだが内心ではそうでもなかったらしい。
「あ、あれは偶々私たちに軍配が上がっただけで先輩たちが勝ってもおかしくなかったです」
これはお世辞とかそう言うのではなく本心だ。それくらいあの時の試合はギリギリの戦いだった。
私の思いが伝わったのか香野先輩は笑ってくれた。
「確かにそれくらい拮抗した試合だったけど多分何回やっても結果は変わらないと思うわ。最近七海との連携がうまくいってないのよ。安来さんは気づかなかったと思うけど真昼あたりは気づいてたんじゃないかな」
いや、普通に先輩たちのこと誉めてたし、周りのこと見てるようで見えてない真昼のことだから気づいてないと思う。
それはそうと香野先輩はそのことを深く思い悩んでいるらしい。
「それで神社にお参りですか?」
「………」
残念ながら私の予想はハズレだったようで返ってきたのは沈黙だった。
「……実を言うと私はお参りとか神頼みの類いはそんなに好きじゃないの。夢が叶ったり試合に勝ったりするのはその人の日頃の努力や頑張りのおかげでしょ? それが神のおかげみたいなって踏みにじられてるように感じられて嫌なのよ」
その話を神社でするのは何やら罰当たりのような気もするが彼女は気にしていない、と言うより神なんか信じていないといった感じだ。
「それならどうして神社に?」
「ここが好きなのよ。七海は私と違って信心深いから結構な回数付き合わされて来てるのよ。だからこの場所には多くの思い出があるの」
香野先輩はここでの出来事を思い出しているのか笑みを浮かべている。
「とっと、ごめんね。私の悩みを聞きに来たわけでもないのになんか聞かせちゃって。私に聞きたいことがあるんでしょ?」
この流れでどう切り出そうかと悩んでいたので香野先輩の方から切り出してくれたのはとてもありがたかった。
「先輩にまずは見ておらいたいものがあるんです。これに見覚えはありませんか?」
私は羽場樹先輩が反応を見せたというバスケアニメのキャラクターのぬいぐるみの写真を香野先輩に見せる。
それを目にした香野先輩は驚いたように息を吞み、苦笑いを浮かべた。
「……安来さん、これはどこに?」
「生徒会に拾得物として届けられてました。他のぬいぐるみと同じように」
香野先輩は複雑な表情でその写真をしばらく眺め、最後にため息を吐いた。
「この人形は処分していいわ。そのことを確認しに来たんでしょ?」
「いいえ、違います。それに処分するかは今は保留中です」
私が否定すると香野先輩はきょとんとした顔で首を傾げる。
「てっきり生徒会からの依頼で持ち主を探しているのかと思っていたのに違うのね」
「生徒会からの依頼に間違いはないですけど私が調べているのは絆紡人形の内容なんです。知っていることがあれば教えてもらえませんか?」
絆紡人形は特別な人形を隠して探してもらうというものだ。そして人形を探していたのは羽場樹先輩だったということはそれを隠した人がいる。その隠した人が香野先輩だと私は思っている。
そして隠した人ならその特別な人形の意味を知っていてもおかしくない。
私の口から絆紡人形という単語が出てくるとは思っていなかったのか驚いたように香野先輩は私の顔をまじまじと見つめる。
「安来さんはどこまで知ってるのかしら?」
「掲示板に書いてある程度です。この掲示板の主と連絡をとったのは羽場樹先輩なんですね」
香野先輩は先ほどの話からこういったお呪いの類はあまり信じていないだろうことがうかがえる。となると信心深いという羽場樹先輩の方が可能性が高いと見た。
「そうよ。私はあまり掲示板は使ってないんだけど七海はたまに見てるみたいでどこからか見つけてきたのよ」
香野先輩は一体何があったのか静かに語り始めた。
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