1日目-4

 夢鈴先輩は鞄を机に置くと中から私物と思われるノートPCを取り出し、さらに鞄から私がよく知らない機材を取り出して並べていく。鞄に勉強道具が入っているとは思えない大きさと数だった。

 全てを取り出した鞄を覗いてみると案の定空だった。筆箱すらないのではなから授業を受ける気がなかったことがうかがえる。


「ちょっと、乙女の鞄の中身を勝手に覗かないでよねー」


 夢鈴先輩は取り出した機材を組み合わせていき、一つの箱ができた。それを有線でノートPCにつないだ。


「夢鈴の得意分野は情報収集とその解析なんだよ。ちなみにこの箱はどんなPCでもスペックを数段上げる魔法の箱だよ。リアちゃんは夢鈴が出す質問に仮説でもいいから答えてってよ」

「わかりました」


 夢鈴先輩に何かしら考えがありそうなのでひとまず従っておくことにする。

 夢鈴先輩はノートPCの前に座ると起動してしばらく何やら操作していたかと思うと急に顔を上げた。


「まずは今回依頼の本質から探っていこうかー。リアちゃんはこの件は単独によるものだと思う? それとも複数?」

「これは間違いなく複数だと思います。羽場樹先輩が反応した写真は一つだけでしたから」

「ちなみに先輩が反応を見せたのは3枚目の写真だよー。あるバスケアニメのキャラの人形だね」


 夢鈴先輩は羽場樹先輩が写真を確認しているときに背後から盗み見ていたらしい。私はタブレットを操作して夢鈴先輩が指摘した写真を確認する。バスケ部らしいと言えばそうだけどなんというか羽場樹先輩のイメージとは少し違う気がする。先輩のことをよく知っているわけではないので気のせいかもしれないが。


「複数だとしたらどうして誰もぬいぐるみを取りに来ないんだろうねー。学校にまで持て来るなら大切なものだと思うんだけどなー」


 取りに来ないなら大切なものでもなかった、なんていう簡単な答えではない。そうじゃなければ羽場樹先輩の行動に説明がつかない。少なくとも無くなったぬいぐるみを探しているのだから。


「……後になって取り戻すわけにもいかなくなった?」


 そう考えれば羽場樹先輩が後で回収しようとしなかった理由は説明がつく。だけど……。


「先輩の行動は最初からそれがわかっていたみたいだよねー」


 その通りだ。失くし物の届け出をださなかったのだからそう考えるのが妥当だ。ならどうしてそんな矛盾するような行動をしたのか。それを解明することが今回の依頼の解決につながるはずだ。


「答えが出ないなら別の視点から考えてみようかー。今回のことは複数人が引き起こしているとなると他の人も先輩と同じ考えで動いているとなるとどうしてなんだろうねー」


 別の人間が同じような行動をとる場合はいくつかの例がある。例えばそれが一つの組織に属している場合だ。宗教や企業といったある程度足並みをそろえて行動することとなる場合だ。

 今回はそれには当てはまらない気がする。羽場樹先輩の行動は他の人たちとは違っているので足並みがそろっているとは言えない。


「何かの決まり事によって結果的に同じ行動になっているだけ?」

「流行のお呪いか何かと考えるのがだとうかなー。学内で流行っていることを考えれば学内掲示板を調べれば何かわかるかもねー。リアちゃんは学内掲示板を見たりする?」

「いいえ。ほとんど利用しませんね。ですが掲示板から特定の情報を引き出したりなんてできるんですか?」


 私自身全くパソコンの知識がないわけではないが専門的知識があるわけでもないのでそこはよくわからない。ただ夢鈴先輩がそちらの面に私通しているのは何となくわかった。


「外部ツールを使えば可能だよー。いくつかワードがあればだけどね。大体はもう絞り込めてるけどねー」


 ぬいぐるみ・人形秘密、お呪い、探す、夢鈴先輩は検索ボックスにそれらの言葉を打ち込んでいく。


「よし、ビンゴだねー。リアちゃんのメアドに見つけた内容を送るねー」


ほどなくして私のアドレスにテキストファイルが送られてきた。わざわざデータに変換してくれたらしい。私はテキストファイルを開いて確認する。

 掲示板のタイトルは「絆紡人形って知ってる?」となっている。


絆紡はんぼう人形にんぎょう?」

「違うよ。それで絆紡きぼう人形にんぎょうと読むみたいだよー」


 絆紡か。恐らく希望とかけているのだろうが内容を見る限りは希望なんてものには思えなかった。



≫皆さんは仲のいい友達とかいる?

≫そんな皆さんにとっておきのお呪いがあるんだけど聞きたくないかい?

≫乗り気じゃない人もいるみたいだけど話させてもらうよ

≫その名も絆紡人形って言うんだけどどうやら二人の友情を永遠のものにしてくれるんだってさ

≫まあまあ、お呪いだから話半分に聞いてよ

≫お呪いが成功すれば離れてもまた巡り合えるらしいよ

≫そうだね、失敗する可能性もあるけど失敗のデメリットはないよ

≫ほんとほんと、お呪いの失敗は効果がないってことだけだって

≫方法は簡単だよ。特別な人形を隠してお相手に探してもらうだけ

≫ごめんね、特別な人形については秘密なんだ。人形については他言できないことになっているんだ

≫何を言ったってここには書かないから。どうしても知りたいなら個別に連絡してきて

≫荳也阜縺ッ蟶梧悍縺ォ貅?縺。縺ヲ縺?∪縺吶?ゅ◆縺?縺礼オカ譛帙↓蜷代°縺?∪縺

≫こちらにお願いするね。いたずらとかあると思うから一定期間後に使えなくする予定だからそれじゃ



 話題の提供者以外は割愛されているが大体の内容はわかった。ただ一部文字化けして読めなくなっている。


「この文字化けだけど一応修復を試みたけど意味もない文字列だったよー」


 私が読み終わったのを見て夢鈴先輩がそう言った。連絡先か何かかと思ったが違ったらしい。それとも何かしらの手段で書き換えたのだろうか。


「羽場樹先輩はこの掲示板の人に連絡を取って教えてもらったってことでしょうか」

「たぶんねー。この人が何者かわかればよかったんだけどちょっと特定は難しそーだねー。残念だけど次につながる情報は得られなかったねー」


 残念そうに夢鈴先輩がそう言ったが本当にそうだろうか。このテキストデータの中に大事な情報がある気がする。

 私は改めて掲示板の内容を読む。この中にたくさんの情報があるはずだ。


「……夢鈴先輩、ありましたよ。次は誰から話を聞けばいいのか」


 この絆紡人形のことを知っているのは羽場樹先輩だけじゃない。それが誰かなのかは私はすぐに分かった。


「夢鈴先輩、私はちょっと出てきます。先輩は……」

「夢鈴は拠点に戻るよー。学校ここじゃできないこともあるからね。安心してよー。もうサボる気はないからさー」


 パソコンと装置を鞄に詰め込み、一足先に局室から出ていく夢鈴先輩を私は止めなかった。

 集団恐怖症の先輩を連れてくのは申し訳ないと思ったのもあるが信頼してもいいかもと感じたのだ。

 私はある人に連絡を入れ、色々と準備をしたのち局室を後にする。今日はもう戻ってこないと思ったのでちゃんと施錠をして私は目的の場所に向かった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る