1日目-2
すぐに話が始まると思いきや風花副会長は座らずに部屋の隅に置かれていた段ボールを抱えて持ってくると机の上、ランチボックスの隣に置いた。
『まずはこれを確認してほしいのだ』
私は段ボールを引き寄せると開けて中を覗き込んでみる。これはぬいぐるみだろうか。見た感じ一つ二つという感じではなく、結構な数のぬいぐるみが詰められているようだ。
私は何個か取り出して確認してみるが大小様々で動物だったり、アニキャラだったりとぬいぐるみだということ以外に共通点もなさそうだ。
「このぬいぐるみは一体?」
『これは全部生徒会に届けられたものなのだ』
「正確に言えば落とし物として私たち生徒会が受理し預かったものですわ。全部がここ最近の物ですわね」
補足するように横から弓崎会長が説明してくれる。正直風花副会長の言葉だけでは気が抜けそうになるのでとてもありがたい。
『ぬいぐるみが落とし物として届くようになったのは2ヶ月程くらい前からなのだ。それ以来週に2、3は落とし物として届けられるようになったのだ』
風花副会長はさらに一冊のフォルダを机の上に置く。表紙には拾得物記録表と書かれていた。
「拝見します」
ファイルを手に取り中を見てみるとここ2ヶ月分くらいの記録のほとんどがぬいぐるみの文字で埋まっていた。しかもどれも持ち主が現れていないようだ。
私は許可を得てファイルの内容を写真におさめておく。
「……これらのぬいぐるみの持ち主を見つけて欲しいという話ですか?」
「いえ。そうではありませんわ。可能ならそうしていただけるとありがたいですけれそれは難しいことだと思いますわ」
確かにぬいぐるみだけでは持ち主の手がかりなどないし、この様子だと持ち主もいらないものと考えていそうで名乗り出る人はいなさそうだ。
「それではどういった話なのでしょうか? 持ち主が出てこないならば相応の手続きをして終わりとなると私にできることなんてなさそうですが」
金品云々ではないので警察に届けるということにはならなそうなので告知して処分というのが妥当な流れでそこに支援局が介入できるところはなさそうだ。
『確かに決まりに則って処理するなら支援局の助けは不要なのだ。だけどそれで終わりというのは良くない気がするのだ。これはボクの我が儘なのだ。どうかこのぬいぐるみたちの背景を調べて欲しいのだ』
風花副会長はそう言って頭を下げた。
風花副会長の我が儘ということは今回の件は生徒会の総意ということではなく、彼女個人からの依頼とそう変わらないということだ。
他の役員がいないのも生徒会の活動時間ではない昼休みだったのもそれが理由だったわけだ。
「風花自身で調べられたらよかったのですが立場がそれを許さないのですわ。というわけでお願いいたしますわ」
弓崎会長もその言葉と共に頭を下げる。この二人には会長と副会長以上の関係性があるのかもしれない。
こうして頭を下げられてしまっては断るわけにもいかなかった。まあ、そもそも支援局として来ている私に断るなんて選択肢はそもそもないのだが。
「はい、任せてください。できる限りのことはさせていただきます」
『……ありがとうなのだ』
風花副会長の声は合成音なのだが心なしか情感がこもっているように聞こえる。私は時間も限られているので早速パソコンを開いて聞き取る準備をする。
「早速ですが心当たりや気になることは何かありませんか? このままでは手がかりがなさ過ぎてどう手をつければいいかわからないので」
私の問いかけに二人は顔を見合わせる。その表情から苦悩が読み取れ、あまり期待はできないかもしれない。そう思ったのだが風花副会長が何か思い出したように顔を上げた。
『ほとんどぬいぐるみのことを聞いてくる生徒はいないかったけど一人だけいたのだ』
「それは本当ですの? ファイルには何も書かれていなかったはずですわよ?」
拾得物記録表には拾得物だけでなく失くし物についても記録されているようだが確かに風花副会長が言っているような記録はなかった。
『そうなのだ。届けではしないでくれと言われたから書かなかったのだ』
「その人って誰なんですか?」
私は唯一ともいえるだろう手掛かりに少し前のめりになりながらも尋ねる。そしてその人物とは偶然にも最近知り合ったばかりの相手だった。
『その人は3年生の羽場樹七海なのだ。名前は名乗らなかったけど女バスのエースの顔を見間違うなんてことはないのだ』
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