前日-1

 オカルト研究部の依頼を終えてから1週間ほど経過し、私は体育館でバスケをしていた。

 これは授業だとか遊びだとかそういうのではなく、局の活動の一環である。この前は局の活動について詳しく話すこともなかったのでいい機会などで軽く説明しておこうと思う。

 ご存知の通り私は生徒お助け隊とも言える支援局に所属している。依頼が届いてそれを解決するという基本的には受け身で能動的に動くということはほとんどない。

 その依頼を受け付ける窓口は3つある。一つは前回のオカルト研究部のときのように個人管理のアドレスへ届く「指名」。2つ目は支援局が管理する学内掲示板へと書き込み等の「目安箱」。3つ目が直接局室へとやって来る「駆け込み」がある。

 今回のはこの「駆け込み」だった。現在この局室を利用しているのは私だけなので私が対応することになるのだが今回の依頼者は知っている顔だった。

 隣のクラスの蝶野ちょうの真昼まひるさんで一年生ながら女子バスケ部の次期エースと噂される彼女からの依頼だった。

 とある一件から同学年の女子と比べるとクラスは違えど仲が良く、現在緊急性のある依頼もなかったので応じることになった。



「愛莉明ちゃん、本当に何でもできちゃうね! 普通にレギュラーの子より上手いもん」


 蝶野さんは試合が終わると私の肩を叩きながらそんなことを言ってくる。遠慮のない言葉に鋭い視線が飛んでくるが彼女は気にしていないようだ。


「……一時期毎日のようにバスケに打ち込んでいましたから」


 本気で取り組んでいたのはだいたい2ヶ月ほどくらいだっただろうか。その頃は空いている時間はずっとバスケットボールに触っていたはずだ。今では腕が落ちない程度に月に1、2回プレイすらくらいだが。


「よかったらバスケ部に転向――」

「しませんよ」


 私は間髪いれずに断る。それには蝶野さんも苦笑いを浮かべる。


「それは残念。愛莉明ちゃんと一緒だったら大会も勝てると思ったのにな」


 本当に残念そうにそう言う蝶野さんに再び鋭い視線が集まるがやはり彼女は奇にした様子はない。

 依頼の内容というのはご覧の通り試合への参加で今日は休みが多く、チームを2つに分けるのに一人足りないという理由からだった。

 私は人数合わせのつもりだったのだが依頼者である蝶野さんと女子バスケ部の部長からのお願いということで私は本気で挑むこととなった。

 その結果が私と蝶野さんのチームの勝利だった。といっても僅差の辛勝ではあったが。


「本当に凄かったわね。どう? バスケ部に入らないかしら?」

「入りません!」


 反射的にそう返しながら振り返ると2人の先輩が立っていた。バスケ部の部長であり、試合その際に私を苦しめた先輩コンビだった。


「改めまして私は部長の香野こうの沙夜さよよ。そしてこっちが我が部のエース、羽場樹はばぎ七海なみよ」

「私は安来愛莉明です。よろしくお願いします」


 私はさっと名刺を取り出して香野先輩に差し出した。


「これまたご丁寧にありがとね。でも私は名刺はないのよね。そうだ、七海、紙はある?」


 そう尋ねられた羽場樹先輩はどこからともなく紙とペンを取り出すと香野先輩に渡した。

 それを受け取った香野先輩は紙に何かをささっと書いて差し出してきた。


「私のメッセのID だからよかったら登録お願いするわね。それじゃーみんな集合! あ、真昼は安来さんの相手をしていていいわよ」


 香野先輩の声に各々休んでいた部員たちが集まってくる。私と蝶野さんは少し離れたところに取り残された。


「……もっと部員と仲良くした方がいいんじゃないですか。私とよりも」

「え? 十分仲良くしてるつもりだけど?」


 それならもっとオブラートに包んで発言をしろよ。私はそう思ったが無駄と思ったのでやめておいた。

 正直なところが彼女のいいところだが悪いところでもあるのでどうしようもない。


「ところでですけどあの先輩2人は凄かったですね。蝶野さんがいなかったら私何かでは相手にならなかったと思います」

「ナミサヨ先輩はこの部の要だからね。正直先輩が引退したらこの部は終わりなんじゃないかって思うくらいには。ほら、 あたし、リーダーとか司令塔とか無理だし」


 笑って言うことでもないだろうに蝶野さんは満面の笑顔でそんなことを言う。確かにさっきの試合は私がボール回しの役をしていたのでよくわかる。


「だから――」

「入りませんよ?」


 私は蝶野さんが何か言う前にきっぱりと否定する。蝶野さんは悔しそうに舌打ちすると床に転がっていたボールを拾い上げる。


「それはそうとハブられて暇だしワンオンワンしよう!」

「え? 私の役目はもう終わったんじゃ……」


 依頼内容はチーム内の試合への参加でそれ以外は聞いてない。私はそう伝えるのだが蝶野さんは止まらない。


「いいんじゃん。どうせ愛莉明ちゃんも暇でしょ?」

「いや、することがないわけでは――」


 蝶野さんは私の言葉の途中でボールを投げて寄越した。反射的に受け止めると蝶野さんはもうすでにやる気満々だった。

 これはもうとことん付き合ってあげるしかないか。

 私はこれ以上の活動は諦めることにして蝶野さんの練習に付き合うことにしたのだった。

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