2日目-4

 私はカフェを出ると獅子堂先輩に連絡を取ってこの後屋敷に伺う許可をもらった。

 獅子堂先輩も先に行って待っているそうだ。私は振り返って日下部さんの方を見て問題ないことを伝える。獅子堂先輩には彼のことは伝えていない。色々と説明が面倒というのもあるがそういう約束だった。

 カフェの話し合いの結果日下部さんと協力関係を結ぶことになった。その際に日下部さんのことも含めて怪異については獅子堂先輩には知られないようにということになった。

 獅子堂先輩もやって来るのにどうしろと言う話だがそこはうまくやるしかないだろう。

 日下部さんとは後で合流することにして私は屋敷へと向かうことにした。玄関で獅子堂先輩が迎えてくれて現場へと向かった。


「今日はどういった用で来たんだい? 昨日あらかた調べたんじゃなかい?」

「今日の調査で新たに分かったことがありまして。もう一度ここを調べる必要が出てきたんです。獅子堂先輩、一つ相談なのですがしばらくの間人払いをお願いできませんか?」

「人払い?」


 獅子堂先輩は私のお願いに訝し気に首を傾げた。それは当然の反応で人のお家でいったい何をするつもりだという話だ。だからこそ私は言葉を選んで獅子堂先輩を説得する。


「そうです。先輩は家主の方に今回の件は話していないのですよね。今回の調査は見られたら明らかに不審と思われる調査します。安心してください。物を壊したり家探しをしようというわけではありませんから」


 私が頭を下げてお願いすると獅子堂先輩は納得したわけではなさそうだったが最後には了承してくれた。わたしへの信頼を利用した形になってしまったが割り切るしかないだろう。

 獅子堂先輩がいなくなると日下部さんにワンコールだけして合図を送る。これでほどなくして日下部さんもやって来るだろう。

 それまでの間に私は最低限の調査はしておくことにしよう。

 私が聞いた怪談では絵画が話の核となっていたので探して見たが意外とすぐに見つかった。親睦会当日は怪談場所となっていた部屋ではなく、火鉢の置かれていた部屋にそれはあった。


「これが怪異化した怪談の核……」

 

 日下部さんと協力することになった際に今回の件の現況についてある程度の説明を受けた。



「今回君が受けた依頼には化異が関わってる」

「カイ? 怪異ではなくですか?」

「化異というのはモノを怪異化するウィルスみたいなものだな。その際に化異は怪談を媒介に侵食する。今回で言えば君が聞いたという怪談だろう」


 化異は怪談を媒介にする故に怪異化したモノも怪談に準ずるのだそうだ。そして私の聞いた怪談で怪異として登場したのは絵画だった。だからこそこの絵画こそが元凶ということになるが。


「特に変わった様子はないよね」


 先ほどの怪談を聞いた際の事象を除けばそう言った事にはあったことがなかったので実感がわかない。今までの情報から考えるに間違いないとは思うのだがどうも馴染みがない所為か受け入れられないと感じてしまう。

 そんな風に考えていた私は無意識的に絵画に手を伸ばしていたらしい。私の手が触れるか触れないかの位置で急に周囲の温度が下がったように感じた。

 そして気づけば私は見られていた。絵画か充血した複数の目が現れて一斉にこちらを睨んでいた。これはやばいと頭で理解していても蛇に睨まれた蛙のごとく私の体は動かなかった。


「まったく、待つということを知らないお嬢さんだな」


 何が起きたかわからなかったが気づいたら私は日下部さんに抱えられ、絵画から距離を取らされていた。日下部さんは私を下すと錫杖を構えた。


「……ありがとうございます?」

「礼は後でいいから下がっていてくれ。ここからはぼくの仕事だ。幸い完全に怪異化はしていないようだからそうかからないだろう。多少厄介ではあるがな」


 私は言われたとおりに邪魔にならないように部屋の隅に移動し、逆に日下部さんは絵画に向って一歩踏み出す。その瞬間絵画の目から複数の触手のようなものが伸び、日下部さんを拘束しようと襲いかかる。

 日下部さんはその触手を手にした錫杖で薙ぎ払う。薙ぎ払われた触手は煙をあげて溶けるように消えていく。


「抵抗せず大人しく祓われろ!」


 日下部さんは絵画との距離を詰めると錫杖を突きつけた。そして何やら唱え始めた。それはお経の用だがよく聞くと違っていて、それはまるで呪詛のようだった。

 その効果は如実に現れ、絵画に浮かび上がっていた眼球が剥ぎ取られて塵へと変わっていく。

 怪異は断末魔の悲鳴をあげる口もなく、代わりに目を見開きながら消えていった。そして最後には絵画だけが残った。

 日下部さんはそれを確認すると口を閉じて錫杖をおろした。


「……終わったんですか?」


 私がこちらを振り返った日下部さんに確認すると彼は笑みを浮かべてうなずいた。


「ああ。完全に化異の気配は消えてなくなった。祓いには成功したよ」


 私はそれを聞いて何事もなかったかのように飾られている絵画に近づきてを伸ばす。先ほどとは違い絵画に変化はなく、それは普通の風景画でしかないようだった。


 私は日下部さんが去った後に獅子堂先輩を呼びに行き、調査が終わったことを告げて屋敷を後にした。

 獅子堂先輩への報告は後日また改めることにした。正直今日はどっと疲れてさっさと家に帰って休みたい気分だった。

 こうして今回の依頼の解決を迎えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る