2日目-1

 次の日の放課後、私は相変わらず誰もいない局室に寄って色々と準備をしてからオカルト研究部の部室へとやって来た。

 昨日の調査報告と他の部員から話を聞く機会を作ってくれたということでやって来たわけだった。


「失礼します」


 部員には別室で待機をしてもらうという話だったのでてっきり獅子堂先輩しかいないと思っていたのだが部室にはもう一人いた。


「愛莉明ちゃん、久し振り。元気ににしてたー?」


 軽い感じでそう声をかけてきたのはオカルト研究部の副部長で2年生の今井戸先輩だった。


「あ、はい。お久しぶりです。私は元気ですけど今井戸先輩も相変わらずみたいですね」


 真面目な部長とで丁度って真剣ではあるのだがこういったのりの今井戸先輩は少し苦手だ。


「すまないな。どうしても同席したいと聞かなくてな」


 獅子堂先輩は苦笑いを浮かべてそう謝罪する。私が彼のことを苦手としていることを気づかれていたらしい。


「私は大丈夫ですけど獅子堂先輩の方は大丈夫ですか? 大事な話もあるので」


 最初に他の部員に聞かせないようにしていたのでそう確認しないわけにもいかない。

 今井戸先輩は一見口が軽そうだが意外と分別があるので吹聴するような真似はしないと思うけど犯人じゃないとも言い切れないのだ。


「……大丈夫だ。今回部員への声かけも手伝ってもらったし。だから今井戸のことは気にしないでいい」

「愛莉明ちゃん、俺は黙ってるから進めちゃっていいよ」


 獅子堂先輩は気にしてないようだし、今井戸先輩もそう言うのでひとまずは昨日の報告をすることにして私はプロジェクターを使ってパソコンの画面を部室の壁に映し出す。


「結論から言いますと原因の究明には至りませんでした。ただあの懇親会が無関係とは思えないので会場の情報をまとめてきました」


 実際に撮った写真を元に製作した立体図面を画面に映し出す。

 懇親会の会場となったのは襖によって4つの部屋として分割できる大部屋だ。当時は襖は閉まっていて部屋は4つに分割されていて一つが怪談をする部屋、一つが火鉢が置かれていた部屋、一つが怪談部屋と火鉢部屋の通路として利用されていて、残る1つは物置として利用されていたようだ。


「当時の部屋の配置はこれで問題ありませんか?」

「ああ。間違いはないと思う。だよな?」


 獅子堂先輩は自身がないというわけではなさそうだったが一応といった感じで今井度先輩に確認を取る。


「ああ、それであってると思うよ」

「そうですか。それは良かったです」


 細かい違いはあると思うが主催した二人が言うのだから大筋では問題はなさそうだ。細かい点は部員の話を聞いてからでも直せばいい。


「誰がどこに座るとかは決まっていたんですか?」


 図面を作る際にわからなくて困った部分を私は尋ねた。一応人形は10人配置しておいたので名前を足すだけで済む。


「ああ。顧問から決めるように言われたからな。これがそのときの配置図だ」


 方角と人の名前が書かれた手書きの図面を獅子堂先輩から受け取り、その名前を立体図面に打ち込む。

 この図面を見る限り真北の人から時計回りに話をしていったらしく、1番手は獅子堂先輩で次が今井度先輩……という感じになっているらしい。

 私は図面とは別にそのことをメモとして取っていくことにする。 ちょうどいいし、話した順に話を聞いて行くのが良いだろう。


「今井度先輩、すみませんが席を外してもらえますか? 最初は獅子堂先輩から話を聞きたいので」

「部長からも話を聞くのかい? 最初に話したんじゃなかったっけ?」

「はい。この前聞けなかったこともありますし、質問は皆同じにしたいので。先入観をなくしたいのでお願いします」


 私が頭を下げると今井度先輩はバツ悪そうにしながらも席を外してくれた。私は今井度先輩が部室を出ると一応鍵をかけてドアから離れた場所で聴取を開始することにした。


「以前尋ねたことをもう一度聞くこともあるかもしれませんがご協力お願いします」

「あ、ああ。こちらが頼んでることだから構わないが警戒し過ぎじゃないか? カーテンまで閉めてるし」


 カーテンだけではなく実は現在隣の部室も無人状態にしてもらっている。局の特権という奴であるがそれを今言う必要もないだろう。


「犯人がわからない今情報漏洩は悪手ですから」

「それもそうだが……」


 獅子堂先輩は多少引いている感はあったが私は話を進めることにした。

 私が今回用意した質問は5つだ。その内3つは裏付けのようなものだ。もちろんプライバシーに関するものはなく、あくまで親睦会当日に関することだけだ。それ以外のことは後日個別に聞こうと思っている。


「席順について教えてください。北側から時計回りにお願いします」

「当日は欠席者もなく、遅刻早退はなく開催されたのは間違いありませんか」

「当日話した怪談の内容をおおまかでいいので教えてください」

「親睦会のとき何か印象的な出来事はありましたか。気の所為かもと思うことでも構いません」

「その日の中で1番怖いと思った怪談を聞かせてくれませんか」


 それらの質問に訝しげにしながらも獅子堂先輩は真面目に答えてくれた。

 私はその後残る9人にも同じ質問を繰り返した。皆色々と考えがあるようだがちゃんと答えてくれた。

 全員から一通り話を聞いた後最後に再び獅子堂先輩と話をすることにした。


「今日はありがとうございました。それで話を聞いた中で一つ気になったことがあるのですが顧問の先生もあの場所にいたのではありませんか?」


 ああいった集まりに、合宿と銘打っているものに教師が立ち会わないなんてありえない。だが話の中で一度も誰からも顧問の話は出てこなかった。だからといってその場に教師がいなかったと考えるのは早計だ。

 百奇夜談に参加してなくても邪魔になることなく教師がいられる場所が一つだけある。


「顧問の先生は未使用の4つ目の部屋にいたのではありませんか? あそこなら隣の部屋の声は聞こえますし何かあれば怪談部屋と火鉢部屋の両方に行けますから」


 私が確信をもってそう指摘すると獅子堂先輩は黙って首肯したのだった。

 

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