1日目-4

 獅子堂先輩の祖父母の屋敷の場所は事前にメールで地図を送ってもらっているのでそれを頼りに向かう。距離は少しあるけれど軽いランニングだと思えば苦はない。

 私は普段通らない道なので知らなかったのだがそこには立派な和風の屋敷があった。

 獅子堂先輩が祖父母には話を通してあると言っていたので呼び鈴を鳴らす。

 すると優しげな雰囲気の老婆が出て来た。あの先輩とは似ても似つかないな。


「はじめまして。獅子堂健司先輩のお祖母様ですね。私は一年の安来愛莉明といいます」


 私が挨拶をして頭を下げると獅子堂先輩の祖母は声をあげた。


「まあまあ、若いのに礼儀正しいわね〜。うちの屋敷に興味があるだったしら?」

「はい! 先輩から実家が結構広く歴史のあるものと聞きました」


 獅子堂先輩はどうやらそんな風に説明したようなので話を合わせておく。

 幽霊だろうがストーカーだろうが説明しにくいことだろうし仕方のないことだとは思うけど。


「ですが今日は先輩は留守のようですし迷惑でしたらまた後の機会にってことでもよろしいのですが」


 こうして下手に出たほうが相手はのってきやすいし、これで断られたら仕方ないことでまたで直せばいい。


「別に遠慮なんかいらないわ! どうぞ好きに見てってちょうだい!」

「ありがとうございます! 写真を撮ったりしても大丈夫ですか?」


 鞄からデジカメを取り出して見せる。これも支給品でスマホより雰囲気が出るということで一人1台用意されている。


「構わないわ。それじゃあ、居間にいると思うから終わったら声をかけてくださいね」


 そう言うと獅子堂先輩の祖母はスタコラサッサとどこかに行ってしまった。

 今日あったばかりの相手を自由に家の中を歩かせるのはどうかと思うがそのほうが都合がいいのでそのまま見て回ることにした。


 カモフラージュ半分興味半分で屋敷の中を撮りながら目的の部屋を探す。

 獅子堂先輩から大体の間取りは聞いていたので思い出しながら歩く。

 それにしても立派な屋敷だ。昔は立派な名家だったのかもしれない。その証拠に色々と高そうな物が飾られたりしている。

 そうして色々と眺めている間に目的地へと到着する。

 色々な条件が揃っているのでここで百奇夜談が行なわれたのは間違いないだろう。

 色々なものが足りないので当時の再現はできないので代わりに写真を撮っていく。

 後で加工して360℃見れるようにするので余すことなく写真におさめていく。

 だけど今のところ気になるようなものもなく、霊がどうとかいうのはわからない。ひとまずは資料作成の材料が手に入ったことを良しとしておくかな。


 必要なところを撮影し終わったので獅子堂先輩の祖母がいると言っていた居間に向かうと他に来客が来ていた。

 邪魔してはいけないと思い離れようとしたのだがその前に獅子堂先輩の祖母と話をしていた来客の男に気づかれてしまった。


「気遣いはいらないよ。私はちょうど帰るところだからね。それではお祖母様、お暇させていただきます」


 男は軽く一礼すると私とすれ違う形で居間を出てそのまま帰って行ってしまった。


「あら安来さん、もういいのかしら?」


 獅子堂先輩の祖母が私に気付いてそう尋ねてくる。私はそれに頷き頭を下げる。


「はい。今日はありがとうございました。色々見ることができて勉強になりました」

「別にいいのよ。うちの孫が以前お世話になったようだから」


 獅子堂先輩はオカルト研究部での一件を祖母に話していたらしい。


「それこそ気にしなくてもいいです。仕事の一貫ですから。さっきの方はよろしかったですか? 私が邪魔をしてしまったのではないかと……」


 そう聞くと獅子堂先輩の祖母は笑って否定した。どうやら本当に話が終わったタイミングだったらしい。

 それはそれとして今の男が何者なのか少し気になったがあくまで自分は客人で孫の後輩という立場なので深く尋ねるのはやめておいて大人しく帰ることにした。

 しかし屋敷を出たところでばったりと先ほどの男に会ってしまった。いや、この感じは待ち伏せされていたといった方がいいかもしれない。


「そう睨まないでくれるかな。取って食おうなんてわけじゃない」

「……あなたは何者ですか?」


 こうして相対して彼がただものではない気配が漂ってくる。法衣らしきものを着ているので僧侶なのかと思ったがもっと荒事に関係しているのではないかと思える。


「御覧の通りぼくは僧だよ。坊主じゃないのはどこかの寺に属したりしているわけじゃないからさ。規律とかそういうのはないんだよ。まあ、信じてませんって目だな」

「……そうですね。でもそういうことにしておきます。それで私に何か用でしょうか?」


 警戒は解いたりせず、いつでも逃げられるように考えながらそう尋ねると男は私から視線を外して屋敷の方を見た。私はそれにつられることなく男から視線は切らない。


「収穫はなかったようだね」

「……? 屋敷の中を見るのに収穫も何もないと思いますが?」


 こちらの事情を何か知っているのだろうか。そんな風に思ったがそんな疑問を感じていることはおくびにも出さずに私はそう返した。


「それもそうか。ま、得た情報を大切にするんだね。それと帰りは注意するといい。最近ここら辺は物騒だからね」


 もういうことは言ったという風に男は背を向けて歩き出した。私は呼び止める気にもならなかったのでその背中を黙って見送った。

 最近物騒だと男が言っていたがそれはその通りだ。最近この町では動物の死骸が多く発見されており、またペットの行方不明の届けも届いているそうだ。

 人的被害はないが人へ被害が及ぶのも時間の問題ではないかと一部で言われている。人によるものなのか動物によるものなのかも今のところは不明だ。


「学校ではそう問題にはなっていないみたいだけど」


 今はそのことは気にしても仕方ないので私はそのまま家に帰ることにした。

 残りの時間は今日得た情報を整理いて過ごした。

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