1日目-3

 獅子堂先輩はそこで言葉を切ったので私はヒアリングした内容をパソコンで軽く見直しながら獅子堂先輩に気になったところを聞いてみた。


「聞いた限りだと大きな問題もなく終わったみたいですね。先ほど問題はその後だと話してましたけど何があったのですか?」


 私は早速核心について尋ねてみる。獅子堂先輩が話した内容に気になる点はあるにはあったが相談内容がいまいちピンとこないので聞かなければならない部分だ。

 獅子堂先輩は話すことに躊躇いがあるのかすぐには口を開かず悩む様子を見せる。


「安心してください。ここで聞いた話は口外しません。お望みでしたら記録もしませんよ」


 相談者からうまく話を引き出すのも局員に必要なスキルだ。記録できないのは少し痛いが頭に叩き込めば問題ないだろう。


「……いや、記録はしてくれても大丈夫。安来さんのことは信頼してるからね」

「ありがとうございます。それでは改めて話を伺っても?」

「……そうだね。実は最近やたらと見られているような気がするんだ。家にいるとき、登校しているとき、学食で昼飯をとっているときとか場所や時間帯に関係なく何かの視線を感じることが多いんだ」


 私は獅子堂先輩の話を文字に起こしながら考えてみる。四六時中視線を感じるというのなら思いつくのはストーカーだろうか。しかし獅子堂先輩は学校内でも視線を感じているという。となるとストーカーは学校の関係者ということになるだろうか。


「今はその視線というのを感じますか?」

「いや。今は特に感じないよ。どちらかというと放課後に視線を感じることは少ないんだ」


 少ないということは全く感じないというわけではないのだろう。ストーカーが学生となるとそういうこともあるかもしれない。話を聞く限りストーカーと考えるのが妥当という気がしてくるがそう考えるのは早計かもしれない。


「獅子堂先輩、私には先ほどのオカルト研究部の懇親会の話と今の話が繋がってこないのですが」

「ああ、そうだろうね。ぼくもこれが心霊現象だなんて本気で思っているわけではないんだ。どちらかと言うと誰かの悪戯なんじゃないかって言う思いの方が強い。安来さんにはこの視線の正体を突き止めて欲しいんだ。頼む!」


 頭を下げる獅子堂先輩を見て私は彼が相当堪えているのだということは何となくわかった。支援局に助けを求めるくらいにはまいっているということだ。


「頭を上げてください。もとより断るなんてありえませんから。生徒のために動くのが私たち支援局ですから」


 私はその後知らなければならない情報を獅子堂先輩から順番に聞き出していった。この話の中で分かったことは以下の通りだ。


 視線を感じるようになったのは懇親会の翌日から。そのことから依頼者は部員のことを疑っている。

 神社でお祓いをうけたが効果はなかった。だから霊現象とは違うのではと依頼者は考えている。

 一番視線を感じるのは自宅にいるとき。逆に下校時には全く視線は感じない。

 依頼者にはストーカーされるような覚えはなく、男女関係のトラブルは特にはない。


 そこら辺のことを聞いて私はひとまずその日は獅子堂先輩を帰すことにした。その代わり懇親会の舞台となった屋敷というのを見せてもらう約束をした。用事があって獅子堂先輩は立ち会えないそうで代わりに祖父母には話を通してくれるそうだ。

 私は目立つのを避けるために着替えてから向かうことにしてひとまず帰宅することにした。私はバス通学で10分ぐらい行ったところにある一軒家が私の家だ。


「ただいまー」

「ああ、おかえり、リア」


 声が返ってくると思っていなかった私は少し驚いてしまった。リビングを覗くと兄の伊凪いなぎがいた。

 伊凪は私の3つ上で受験生だ。一年かけてでも上の大学を目指そうとしている尊敬できる兄だ。どうやら休憩しているタイミングで運よく私が帰ってきたようだ。


「ちょうどコーヒーを淹れようと思っていたんだ。リアも飲むかい?」

「あ、うん。お願い」


 私はそう返して自室に向かう。コーヒーを飲むくらいの時間は獅子堂先輩も許してくれるだろう。今回の依頼のことで兄さんに聞いてみたいことがあった。

 私がリビングに戻ると丁度コーヒーを淹れ終わったタイミングで兄さんはコーヒーカップとお菓子を机に並べる。

 私は椅子に座ってお菓子を食べてコーヒーを飲んで一息つく。自分の淹れるコーヒーより兄さんの淹れるコーヒーの方が美味しい気がするのはどうしてだろう。使っている豆も道具も同じなのに。

 私は受け皿にカップを置いて私は兄さんに声をかける。もちろんコーヒーのことではなく今日受けた依頼に関してだ。


「兄さんが支援局にいたときって心霊系の依頼とかって受けたことある?」

「ん? そうだな。あるにはあったよ。大抵は気の所為だったり動物や生きた人間の仕業だったけどね。もしかして今回はそういう依頼かい?」


 兄さんも椅子に座って聞いてきた。兄さんも在学中は支援局に在席していた。今の支援局の状況を聞いたら驚くことだろうけど心配はかけたくないので話していない。

 そういえばあの局長は兄さんの後輩に当たるんだっけ。


「うーん、今のところは何とも言えないかな。依頼者は人間の仕業と考えているみたいだけどね」


 私も霊がどうとか思っているわけではないけれど多角的視点で物事を考えることが重要なので一見ありえない可能性も検討するようにしている。


「これから色々調べて可能性を絞っていこうかなって思ってる。というわけだからこれからまた直ぐに出かけるから」


 私は菓子をもう一つ口に入れてコーヒーで一気に胃に流し込む。エネルギー補充を完了してことだしそろそろ向かう事にしよう。


「お菓子とコーヒーごちそうさま。兄さんも勉強頑張ってね」


 私は兄さんからの返事を聞かずに自室へと戻り、用意していた調査アイテム一式の入ったカバンを手に取り玄関に向かう。


「あまり遅くなるなよー!」


 リビングの前を通るとそう声が聞こえてきたので私は軽く手を上げて応えてぱぱっと靴を履いて玄関を出た。

 

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