1日目-1
学校それぞれに伝統というものがあると私は思う。卒業生は卒業式で「旅立ちの日に」を必ず歌うとか学祭では決まって「ロミオとジュリエット」をやる学級があるとか、まあ、これを読んでいるあなたも思い当たる節はあると思う。
その伝統というものが私の通う学校にももちろんある。ただ、それはよく聞くようなものではなく、「そんなことしてるの他にないよ」と言われても私は不思議には思わない。
そして私はその伝統とやらに大きく関係している。というより所属している。
「おはようございます!!」
私はドアを開けて元気よく挨拶をしてみたが誰からも挨拶が返ってくることはなかった。
それもそのはず。なにせ広い部屋には誰も姿もないのだから。
「………」
うん、誰もいないことは知ってた。ただでさえ少ないメンバーは今休学やら留学やらで学校にいないので実質この部屋を利用するのは私だけだ。
「えっ、1人でいったい何をしてるの?」なんて思うかもしれないがこれを見ればわかってくれると思う。
6つ並ぶロッカーのうち自分のロッカーを開けて私はノートパソコンを取り出す。このハイスペックかつ最新のこのPCがいくらするかわからないがこれは支給品だ。
その支給品を使って私はメールを開く。今日は新着メールはなし。でも見せたいのは昨日きたメールだ。内容は以下の通り。
先日はどうもお世話になりました。貴女のおかげで無事苦難を乗り越えることができました。そのことに感謝申し上げます。
さて、ここからが本題なのですが現在大変困った状況に陥っております。文章での説明は難しいのでできればお会いして説明したいと思います。なので明日の放課後に部室の方までお越しいただけないでしょうか。どうかよろしくお願いします。
オカルト研究部部長 獅子堂健司
》》了解しました。明日の放課後お伺いさせていただきます。伺う前に連絡します。
私は今から伺いますとメールを送ってパソコンを閉じてパソコン片手に部屋を出る。
私が行ってるのは相談に乗って問題を解決することだ。伝統というのは各クラス最大男女ともに1人ずつ選出し、学生支援局を構成するというものだ。学生による学生のための団体だ。ちなみに生徒会は別にあり、支援局は主に学生の生活を支援し、学生間の問題の解決をすることを業務としている。
今動けるのが新米の一年である私だけというのは心もとないのか依頼の数が減っているのが現状だ。私的には忙殺されなくて丁度いい感じではあるけれど。
私はオカルト研究部の部室の前まで来るとノックをしてドアを開けた。中を覗くと1人の男子生徒が椅子に座って待っていた。
彼が私に依頼をくれた獅子堂先輩だ。私はドアを閉めるとその場で一礼する。
「獅子堂先輩、お久しぶりです」
「ああ。合併の件以来だから1ヶ月振りくらいか。今日は来てくれて感謝するよ。とりあえず座ってくれ」
私は獅子堂先輩に勧められるまま椅子に腰を下ろした。
「他の方たちはどうしたんですか?」
部屋の中には私と獅子堂先輩だけで他の部員の姿がなかった。てっきり部単位での相談かと思ったが違うのかもしれない。
「今日は部活を休みにしたんだ。他の部員がいると話がややこしくなりそうでな」
「他の部員に聞かれたくない部分もあると言うことですね。わかりました」
「……そうだな。部員と大体の話は共有しているがしてない部分もあるにはある。だからここでの話は他言無用で頼む」
私はうなずいて了承して、話を聞く準備としてノートパソコンを開く。ボイスレコーダーを使う人もいるが私は話の内容を文章にする方が好きだ。見直したいとき見直しやすい。
「準備できました。どうぞ話してください。いったい何があったんですか?」
私が話を促すと獅子堂先輩は少しの間の後口を開いた。
「安来さんは百物語は知っているか?」
「……ええ、まあ。世間一般の知識程度ですが知ってます。蠟燭を立てて怪談話をするものですよね?」
私はどうしてそんなことを聞くのかと不思議に思いながらも話を合わせる。話の触りにするのかもしれないからだ。
「そうだな。蝋燭を使うのは簡易的なもので正式には行灯を使うんだ。その百物語を俺たちオカルト研究部は先週末に集まってやったんだ。懇親会の一環としてな」
懇親会ね。オカルト研究部が発足してから約一ヶ月くらいかな。懇親会をやるにはちょうどいい時期かもしれない。懇親会が百物語だというのは実にオカルト研究部らしいと言えるだろう。
「もしかしてその懇親会でなにかあったんですか?」
やっと話が見えてきた私はそう聞いてみたが獅子堂先輩は首を横に振った。
「懇親会中というより問題はその後で……」
「その後?」
「いや、順に話していこう。その方がわかるかもしれない」
獅子堂先輩はそう言うと改めて何があったか順をおって説明し始めた。
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