第73話 記念日
未羽君と一緒に暮らし始めて数ヶ月が経過した。この数ヶ月は本当に幸せだった。毎日、一番最初に未羽君におはよう。って言えて、未羽君におやすみなさい。って言ってもらえて、優しく抱きしめられながら眠れて、2人で家具を揃えたり、料理をしたり、徹夜で映画を観たり、ちょっと大人なことをしたり、毎日一緒に通勤して、毎日一緒に仕事して、毎日一緒に家で過ごして、ずっと、未羽君と一緒にいられる。
本当に幸せだった。幸せすぎて、死にそう。って本気で思うくらい幸せだった。
「みな先生、今日はすごくご機嫌ですね」
授業が終わり、部活が終わった後、帰宅する生徒たちを見送っていると隣にいたりんちゃんに声をかけられる。りんちゃんの実習はだいぶ前に無事終わったのだが、りんちゃんは部活のコーチ役としてたまに学校に来てくれている。もう少ししたらりんちゃんも就活や教採で忙しくなるにも関わらず、楽しいから。と言ってわざわざ足を運んでくれることは本当に嬉しい。
「うん。今日はね。未羽君と付き合い始めた記念日なの」
「そうなんですね…おめでとうございます。じゃあ、今日は2人でゆっくり過ごしてくださいね。邪魔者はさっさと帰るので〜」
りんちゃんは笑顔でそう言ってりんちゃんがコーチをしてくれている部活の生徒を捕まえて一緒に帰って行った。いつもなら、未羽君と一緒に車で駅まで送るのだが、2人の記念日だと知って気を遣ってくれたのだろう。
「あれ、二瓶さんは?」
「部活の子たちと一緒に帰っちゃいましたよ」
付き合って、一緒に暮らしているとは言え、職場では言葉遣いに気をつける。周りも、私と未羽君が一緒に暮らし始めたことを知っていて、なんかよそよそしくない?と言われたりするが、これだけはきっちりしておきたい。
「そっか、じゃあ、帰ろっか」
「はい」
学校から出ると、私はプライベートモードに移行する。車に乗って、未羽君が運転を始めてしばらくするとちょっとした違和感を感じた。
「あれ、道間違えてない?」
「間違えてないよ。今日はさ、付き合い始めた記念日だし…その、ちょっといいお店予約しておいたから……」
「えー。そういうことは早く言ってよ。今日の夕食分の材料買ってあるんだからね」
「ご、ごめん…」
「いいよ。明日の夕食で使うから」
素直に喜びたかったけど、ちょっと照れ臭くて捻くれた返事をしてしまってちょっと後悔する。いっつもこんな感じなのに未羽君は私に嫌な顔一つしない。そんな優しい未羽君が私は大好きだ。
「本当にごめんね」
「気にしないで、明日で大丈夫だし、嬉しかったよ。未羽君がその…記念日を大切にしてくれてさ…」
本当はこうなるってわかっていた。未羽君は毎年、この日を大切にしてくれていたから。去年なんてプロポーズもされたしね。だから、今年もきっと何かあるかな。と思って日持ちする食材をこの前買っておいたのは正解だった。
同居を始めてから、私は夕食担当で未羽君は朝ごはんとお弁当を作ってくれている。朝が苦手な私には本当に助かる役割分担だ…(未羽君は夕食作り手伝ってくれるのに私は未羽君が朝食とお弁当を作っている間、ぐっすり眠っているだけだから申し訳ない気持ちもある)そんなダメな私を、未羽君は優しく受け入れてくれる…本当に、この人を好きになれてよかった。この人に好きになってもらえてよかった。
私は本当に幸せ者だ。
改めて、そう思いながら私は未羽君の肩に少しだけ頭を載せる。未羽君は運転しながら笑顔で、そっと片手を私の頭に乗せて頭を撫でてくれる。本当に幸せだった。
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