第72話 数年後






「みな先生、お疲れ様です。先程の授業の記録確認お願いします」

「はーい。お疲れ様。初めての授業、すごくよかったと思うよ…私の初めての授業、受けてたから分かると思うけど中々に酷かったからさ…」

「そんなことないですよ。ですよね?未羽先生」

「うん。みな先生もりん先生もすごくいい授業だったと思うよ。僕に比べれば……」


初回授業で少しやらかした過去を持つ未羽先生の言葉にはちょっとした説得力があった。


私の実習が終わってから数年が経過した。私は未羽君と同じ高校に配属され、未羽先生の隣に立つ目標を…夢を叶えた。そして、私の後を追うように、二瓶さん…りんちゃんもこの高校に実習生としてやって来た。りんちゃんは現在、私と未羽先生の師匠のような存在であるゼミの先生の元で学んでいる。


「みな先生、その指輪…すごく似合ってますね」

「え、あ、うん。ありがとう」


りん先生の実習担当を務めることになった私が、りん先生から授業の記録を受け取った際に、私の左手の薬指につけられた指輪を見てりん先生が呟く。


つい先日、誕生日に未羽君からもらった大切な指輪だ。婚約指輪を私が受け取るまで、代わりに付けていて欲しい。と言って渡されたものだ。


未羽先生の隣に立つという夢は叶えた。なのに、私はまだ未羽君が用意してくれた婚約指輪を受け取っていない。


すぐに受け取りたかった。去年、付き合って数年の記念日に結婚しよう。って言われて指輪を渡されそうになった時はめちゃくちゃ泣いたよ。めちゃくちゃ幸せだったよ。


でも、教師になって1年目の私には余裕がなくて…未羽君と結婚して、一緒に暮らすことになったら…仕事のストレスを未羽君にぶつけたり、未羽君に家事を任せちゃったり、仕事の準備で未羽君の相手をしてあげられなかったり、いろいろな不安要素があったから、もう少しだけ待って欲しいとお願いした。


教師生活2年目を迎えて、仕事もだいぶ余裕を持ってこなせるようになり、時間も作れるようになり、落ち着いてきた頃を見計らい、未羽君は誕生日プレゼントに結婚予約用の指輪と…もう1つ…私にプレゼントを送ってくれた。


「じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」


やることを終えて、未羽先生が私とりん先生に言う。私たちは帰る準備をして職員室を出た。


「未羽先生、みな先生、わざわざ送ってくださってありがとうございます」

「うん。気をつけて帰ってね。また明日も頑張ろうね」

「はい!みな先生、はしゃぎすぎて未羽先生に迷惑かけないでくださいね」

「わ、わかってるよ。じゃあね」

「はーい。また、明日もよろしくお願いします」


りんちゃんの返事を聞いて、未羽君は車を運転し始める。隣の助手席に座る私はたまにチラチラと未羽君の表情を見たりしている。


未羽君が私にくれたもう1つのプレゼント…それは、今日から始まる同棲用の部屋………










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る