第67話 将来の目標





「二瓶さん、今日、授業終わってから時間ある?」

「え、あ、はい。あります…けど…」

「じゃあ、一緒に勉強しよっか。実習の1日の記録書きながらになるけど、一緒に勉強しよ。それで、次、いい点数取って未羽先生を安心させてあげようよ」

「みな先生……」


なんとなく、放っておけなかった。りんちゃんなら、放っておいても、自分で勉強して成績を元に戻すことはできると思う。でも、りんちゃんはすごくいい子だから、きっと、できない自分に嫌気がさしたり、焦って変な方法で勉強してよりできなくなってしまう可能性があって怖かった。だから、しっかり、教えてあげたかった。


「がんばっていい点数取って、未羽先生に褒めてもらおうね」

「みな先生に言われなくてもそのつもりです…わ、私、1人でだってなんとか…なります……で、でも…みな先生に教えてもらった方が1人で勉強するよりも捗りそうですし…お、お願いします」

「うん。いいよ。一緒に頑張ろう」


りんちゃんと授業後に一緒に勉強する約束をして、私は職員室に戻る。そして、授業後、みんなが帰るのを見送って未羽先生を部活に行かせて、私とりんちゃんは教室に残って勉強をする。


「どうして、私なんかのためにここまでしてくださるんですか?」

「なんか、前にも聞かれた気がするね…」


以前、りんちゃんの家に行った時も聞かれた気がする。


「二瓶さんは私の大切な生徒だから…それにね。なんか放っておけないんだ。数学が出来なくて苦しんだ子を知ってるからさ…せっかく優秀なのに二瓶さんにはその子みたいになって欲しくないんだ。どうしようもなくて…1人じゃ何も出来なかった癖に…夢だけは一人前に持っているようなどうしようもない子にはなって欲しくない」

「その子、どうなったんですか?」


シャープペンをゆっくり動かして、教科書を見つめながらりんちゃんは私に尋ねる。


「努力してたよ。すごーく努力してた。本当に大変そうだったよ。自分一人じゃ何もできないから、できる人に教わりながら必死に頑張って、夢まであともう少しのところまで行った」

「そうなんですね。じゃあ、どうしようもない子なんかじゃないと思います。自分の目標を決めて、その目標に向かって努力して、目標に手が届くところまで行けているのなら、尊敬します。少なくとも…スペックが良くても目標もなく、ただ適当に日常を過ごして、なんとなく勉強してるような私なんかに比べたら…遥かにすごい人だと思いますよ」


私の話だと言うことにりんちゃんが気づいているのかはわからない。でも、りんちゃんは私の眼を見て、そう言ってくれた。


「二瓶さんは将来の夢とかないの?」

「ないですね…何がしたいのかもよくわからないまま、毎日適当に生きてます」


私にそう言うりんちゃんはすごく、悲しそうな表情で私に言う。まるで、目標がある私を羨み、目標がない自分を軽蔑するような雰囲気すら感じられた。


「ゆっくりでいいと思うよ。目標なんて、無理して探すものでもないよ。二瓶さんが目標を持つ時は、ある時、必ず、来るはずだからその時を待てばいい…ただ、その時が来て後悔しないように、今は、勉強をしていればいいと思う。二瓶さん、まだ若いんだから。焦らないでゆっくり自分の目標を探せばいいと思うよ」

「そうですね…」


りんちゃんは短く答えて黙々と教科書を見ながらシャープペンを動かし始める。余計なことを言っていないか、ちょっと不安になったが、りんちゃが、焦らないようにはします。と言ってくれたので安心した。





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