第53話 言われたいこと
「なんで、私なんかのためにわざわざ…」
「大切な生徒だから…今日は行けそう?」
「行きます。みな先生に負けてられませんから…それに、未羽先生に謝らないといけないですから…嘘をついてしまったことや、逃げてしまったこと、ちゃんと謝りたいです」
「うん。じゃあ、一緒に行こう」
「みな先生…ありがとうございます」
私が行くとりんちゃんはすでに制服に着替えて学校に行く準備ができていた。どうだろう。私、余計なことしたかな…でも、未羽君は絶対に私を裏切ったりしない。
「二瓶さんには負けないからね」
「絶対奪ってみせます」
朝から堂々と怖いことを言われて私とりんちゃんは学校に向かう。
「よく来てくれたね。二瓶さん」
「未羽先生、職員室で待っててくださればよかったのに」
「二瓶さんが来てくれるってみな先生から報告受けて嬉しくて…二瓶さん、よく来てくれたね。ありがとう」
学校の正門の前でソワソワした様子で未羽先生は私とりんちゃんを出迎えてくれた。
「未羽先生…ごめんなさい……」
「こうして学校来てくれたんだから謝らなくていいよ。僕の方こそ、二瓶さんを傷つけてごめんね」
未羽先生はそう言いながら、りんちゃんの頭を撫でる。昔、私がしてもらっていたみたいにそっと頭を撫でていた。
「未羽先生、嘘ついててごめんなさい…未羽先生から逃げてごめんなさい…私のわがままで困らせてごめんなさい…」
りんちゃんは泣きそうな表情で未羽先生にたくさん謝る。
「大丈夫だよ。謝らなくて…こうして来てくれたから許す。明日からもちゃんと来てね。あと、次の試験は本気出してね」
「明日からもちゃんと来ます。試験も満点取ります」
「頼もしいねぇ。期待してるよ。数日間学校来てなかったし、わからないことあったら何でも聞いてね」
「はい。ありがとうございます」
少しだけ、羨ましかった。あんなに堂々と満点取ります。と宣言できることが…そして、客観的に見て、本当に取ってしまいそう。と思ってしまう。いくら頑張っても昔の自分にはなかった余裕だから…
ずっとずっと、後ろばかり見ていた私はりんちゃんのように結果を出すことができなかった。私は優秀なんかじゃなかったから…
「みなちゃんもちゃんと優秀だったよ。だから、今、ここにいられるんだからね」
教室に向かうりんちゃんを見送って未羽先生と職員室に向かっていると、小さな声で未羽先生にそう言われて嬉しかった。私が今、一番言って欲しいことを未羽先生はすぐに言ってくれて嬉しかった。
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