第51話 特別な生徒





りんちゃんの家はごく普通の一軒家と言う感じだった。ご両親は共働きで今は仕事に出ているみたいだが、りんちゃんは家にいると言って訪問を許可してくれていた。


私と未羽先生はりんちゃんの家の前に到着して、りんちゃんの家のインターホンを鳴らす。


「本当に…来てくださったんですね。みな先生も…わざわざありがとうございます」


すぐに家の扉が開いてりんちゃんが姿を見せてくれる。私と未羽先生はりんちゃんに案内されてリビングに通される。りんちゃんにお茶を出されて私と未羽先生は並んで、りんちゃんと向かい合うように座った。


「二瓶さん、ちゃんとご飯とか食べれてる?」

「食べれてますよ。大丈夫です。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」


未羽先生はりんちゃんを見て心配そうにしていた。元々細くて大人しい子なのだが、いつもより明らかに元気がない様子だったから…


「二瓶さん、学校に来られないのは何でか、よかったらでいいから聞かせてもらえないかな?」

「行きたくないから…です。だって、未羽先生にフラれたり、私がわざと赤点取る悪い子だってことがバレたりして気まずいですし…自分で撒いた種で、先生たちにご迷惑をおかけして申し訳ないですけど、私のことはもう放っておいてください」


予想通りの解答だったが、この答えになんて返せばいいのか、私も未羽先生もわからない。


「二瓶さん、二瓶さんが来たくない理由はわかった。ごめんなさい。二瓶さんを傷つけてしまって…」

「謝らないでください」


未羽先生が頭を下げるとりんちゃんは慌てて未羽先生に言う。未羽先生は何も悪くないから…と…


「二瓶さん、とりあえず今日はこれだけ渡して失礼するね」


未羽先生はそう言ってカバンからプリントやノートの束を取り出して机に置く。


「これは?」

「休んでた分の各科目の授業プリントを各科目担当の先生から貰ってまとめておいたのと、僕が作った解説ノートだよ。二瓶さんが学校に戻った時に授業についていけるようにね。二瓶さんはできる子なのに、学校に来られなくて本当に赤点取っちゃったらもったいないからさ」

「そんな…わざわざこんなこと…」

「大丈夫大丈夫。クラスの子が誰か休んだり、早退したりした時のために毎日欠かさずやってる日課みたいなものだから」


未羽先生はサラッとそう言ってりんちゃんにプリントとノートを渡す。私は知っている。未羽先生が毎日、授業後に部活の指導と掛け持ちで自分のクラスのその日の授業のプリントなどを科目担当の先生にもらって、授業記録などからまとめを作っていることを…それが、どれだけ大変なことかは言うまでもないが、未羽先生はそれを毎日欠かさずに行っていた。


「安心して、いつ、どれだけ休んでも、僕は必ず二瓶さんの力になる。生徒は必ず見捨てない。二瓶さんのことはここだけの話にしてある。安心して、戻ってきてくれていいからね」


未羽先生はそう言った後、立ち上がり私を連れてりんちゃんの家を出る。未羽先生は偉大だ。生徒思いだ。でも、それが生徒を苦しめることもある。ごく一部の特別な生徒にとって、未羽先生の優しさに苦しむことがある。ごく一部の未羽先生のことが大好きな生徒だった私には、りんちゃんが心配だった。




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