第49話 複雑な心





「二瓶さん、申し訳ないけど、二瓶さんの気持ちには応えられないよ。僕は二瓶さんの教師で二瓶さんは僕の生徒だから…それに、僕には将来を共にしたい。って思う相手がいるから…」


未羽先生がりんちゃんにそう言うのを聞いて嬉しさと罪悪感が入り混じる。すごく、複雑な気持ちになり、早くこの空間から逃げ出したかった。


「みな先生のことですか?」

「それはプライベートのことだから答えられないよ」

「みな先生だって、元々は未羽先生の生徒なんでしょう?なら、私だって…いつか……」

「ごめんなさい」


未羽先生はりんちゃんに頭を下げる。りんちゃんとは特別な関係にはなれないと伝えるために…


「何で、私じゃダメなんですか…私、一目見て未羽先生に一目惚れして、未羽先生にいっぱい優しくしていただいて、できないフリをしていただけの私にも優しい言葉をかけて、めんどくさいはずの補習だって何回もしていただいて…未羽先生にいっぱいいっぱい優しくしていただいて、その度に心が痛んだり嬉しさを感じたり複雑な気持ちになって、それでも、未羽先生が大好きなんです。だから、未羽先生にいっぱい恩返ししたいです。だから、私を側にいさせてください」


今まで、一度も聞いたことがないような、りんちゃんの大きな声が私の頭にズキンと響く。りんちゃんの泣き顔を見て目が痛み、私も辛くなった。りんちゃんの気持ち、少しは私もわかるから…りんちゃんがどれだけ辛いかも、少しは理解してあげられるから…だから、辛かった。


「二瓶さんにはきっと、二瓶さんに相応しい人がいると思う。だからさ、周りを見てごらん。きっと、見つかるはずだよ…」


昔、お姉ちゃんが未羽君に言ったような言葉を未羽先生はりんちゃんに言う。


「そんな人、いませんよ。私には未羽先生しかいないんです」


未羽先生の言葉を聞いたりんちゃんは泣きながらそう言って、机の横に置いてあったカバンを持って走って教室を出て行く。


「難しいなぁ…僕もまだまだだね…どう、こたえてあげればよかったんだろう。どうしたら、二瓶さんを傷つけることがなかったんだろう…」


りんちゃんが出て行った後、未羽先生はボソッと呟いた。たぶん、そんな選択肢はなかった。あの場で、りんちゃんを傷つけない選択肢はなかったと思う。きっと、それは未羽先生もわかっている。でも、それでも、理想を探してしまうのだ。辛い時、ありもしない理想を探してしまうのは仕方ないことだと思う。きっと、そこから、まだマシだった選択肢を見つけたり、いろいろなことを考えて、人は成長する。難しい問題に直面した時に、人は成長する。辛い時に、人は成長する。ただし、その現実から逃げなければ。の話だ。


翌日から、りんちゃんは学校に来なくなった。まるで、逃げるように居なくなってしまった。





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