第46話 はじめて。






「ねぇ、未羽君…大好きだよ………」


未羽君に背後から優しく、温かく抱きしめられた私は無意識のうちに未羽君にそう言っていた。未羽君は何も反応してくれない。


「未羽君、大好き………」


何も反応してくれないことが寂しくて私は再び未羽君に想いを伝えるが未羽君は何も返事をしてくれない。


「未羽君、大好き……大好き……私、未羽君のこと、本当に……」


答えて。と未羽君に催促するように私が大好き。と何度も何度も泣きながら繰り返すと、未羽君は私を抱きしめてくれていた手を片方だけ離して私の口へ移動させて私の口を塞いだ。私の口を塞いだ未羽君の手は、やはり、すごく温かいものだった。私を抱きしめている片方の手はとても優しく、私が大好き。と言うのを拒絶したのではなく、今はまだ言わないで。と言うように感じた。


今はまだ、聞きたくない。と未羽君は態度で示した。でも、それと同時に私を温かく包み込んでくれた未羽君は無言で私の大好き。への返事をしてくれていたように感じる。


「未羽君、ごめんなさい…」


未羽君に口を塞がれて冷静になり、未羽君に謝ると、未羽君は私から離れて私と向き合った。未羽君の顔を見ると、私の顔と同じように涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「みなちゃん、嫌だったら抵抗して…」


そう言った後、未羽君は私の顎にそっと手を当てる。そして未羽君の顔がだんだんと近づいて来て、あっという間に私の唇は未羽君の唇と重なっていた。初めての感覚に戸惑いながらもすごく幸せだった。数十秒間、未羽君と唇を重ね続けると未羽君の顔が私から離れて行く。寂しさを感じたが、真っ赤に染まる未羽君の表情を見て少し笑ってしまう。


「これが、今の僕にできる最大限の返事…続きはみなちゃんの夢が叶ってからね。それまでずっと、待ってるからさ」

「私の夢が叶わなかったらどうするの?」

「大丈夫。みなちゃんなら絶対できるよ」


一切、私のことを疑う素振りも見せずに未羽君は私にそう言いきった。何度も何度も、私を励ましてくれた未羽君の大丈夫。はいつのまにか、私にとっては成功を導いてくれる魔法のようになっていた。


でも、実際は、大好きな未羽君の期待に応えたいから、よりいっそう必死に努力するように私が私を追い込む引き金となる言葉でもある。大好きな未羽君に大丈夫。と言われて、いよいよ寄り道は出来なくなった。私の夢が叶う最短ルートを突っ走る。


「すぐに、未羽君の隣にいられるようになるね」


私が笑顔で言うと、未羽君は笑顔で「ずっと待ってる」と返事をしてくれた。





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