第41話 授業後の補習




初めての授業が終わった日の授業後の時間、私は未羽先生と一緒に授業後の教室にいた。


教室には私と未羽先生と、りんちゃんの3人だけだ。以前、りんちゃんに宣戦布告をされてから、私はりんちゃんと話す機会がなかったので、こうしていきなり3人で教室にいるのはちょっと気まずい…りんちゃんもちょっとだけ気まずそうにしている気がするが、未羽先生は何とも思ってないんだろうなぁ。私が数年間想い続けても何も気づかない超鈍感野郎だから、きっとこの状況も理解していないだろう。


「二瓶さん、今日も補習だけど…」

「はい。えっと、その…未羽先生と一緒にいられるので…」


りんちゃん、大人しそうな顔して攻めるなぁ…と思いながら2人の様子を見ていると未羽先生は少し呆れた表情をする。未羽先生がこんな表情するなんて珍しい…


「二瓶さん、冗談はいいからさ…頑張ろうか。二瓶さんならきっとできるからさ…」

「何も変わりませんよ」


未羽先生の言葉にりんちゃんは先程とは違う冷たい声で答えた。未羽先生がそんなことはないよ。と言うと、ちょうど校内放送で未羽先生が呼び出される。


「ちょっとごめん。少し抜けるからみな先生、少しだけお願いしていいかな?」

「わかりました」


私の返事を聞くと未羽先生は教室から出て行き教室には私とりんちゃん2人きりになる。今日、ここに3人が集まっていた理由はりんちゃんの赤点補習だ。高校1年生の中間試験で赤点を取ってしまったりんちゃんに、期末試験に向けて定期的に未羽先生が補習をしていたみたいだが…


「数学、嫌いなの?」

「嫌いです」


即答した。数学が嫌い。とりんちゃんは答えたが、きっとそんなことはない。だって、未羽先生の授業を楽しそうに受けていたりんちゃんを私は覚えているから。


「昔、何かあったの?」


私が尋ねるとりんちゃんは一瞬、ちょっとだけ暗い表情をした。聞いてはいけないことだったかな。と私は反省して話題を変えようとする。


「私、どれだけ頑張っても数学できないんです。中学生の時はめちゃくちゃ苦戦しても頑張ろう。って思えましたけど、結果が出なくて…それなら、頑張ってもできない数学は諦めて他の科目の点数をあげた方が効率的だって思って…だから、私は数学は捨てるって決めてるんです」

「未羽先生には話したの?」

「話しましたよ」

「何て言ってた?」

「その前に、みな先生は、私のことどう思ったか聞かせてください」


答えに迷う。何て答えればいいのだろう。


「大抵の先生は、真面目そうなのに勿体ないとか、まるで私の努力が足りなかったみたいに言うんですよ。でも、未羽先生は違いました。未羽先生、私の話を聞いて、二瓶さんは真面目だね。って笑顔で言ってくれたんですよ。頑張ってたどり着いた答えが、他の教科で勝負する。そして、実際に他の教科で成績を残してる。すごいと思う。自分の向き不向きをよく理解していてすごいと思うよ。って言ってくれました。みな先生はどっちですか?前者ですか?後者ですか?」


りんちゃんの話を聞いて、私はどちらかと言うと前者のような意見だったと思う。赤点を取ったから努力が足りてない。と言う考えだった気がする。昔の私がそうだったから。昔の私は、自分の努力が足りていなくて赤点を取った。だから、もっと努力した。だけど、りんちゃんは別のところで精一杯努力していた。私の過去が全てではない。人それぞれに異なった努力がある。そんな当たり前のことを忘れていた。りんちゃんは、私とは違う形で努力をして結果を残していた。数学で赤点を取っても全体では学年5位という実績がりんちゃんの努力を証明していた。そんなに頑張っている子に一瞬でも、もっと頑張らないと。と思った私は、まだまだ教師として未熟者で、未羽先生には程遠いと感じてしまう。


せっかく、一歩近づいた気がするのに、再び、かなり遠くへ突き飛ばされた気分に私はなった。






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