第39話 遠くない未来に





「久しぶりだね。みなちゃんとこの道歩くの…」

「うん。そうだね…」


食事を終えた帰り道、イタリアンのレストランから私の家まで私を送ってくれるために手を繋いで歩いている途中、未羽君は懐かしそうに言う。以前は、未羽君と出かけたり図書館で勉強した後とかはこうやって手を繋いで家まで送ってもらうことが当たり前だった。でも、いつの間にか当たり前は当たり前ではなくなり、日常ではなく昔のこととして記憶の中だけの存在となってしまう。


「そう言えば、みなちゃんと約束してたよね」

「え…」

「みなちゃんが立派な先生になったらみなちゃんのお願いを聞く約束!どうする?今、言う?それとも授業とかやってみてから言う?」


一瞬だけ、私が暗い表情をしてしまったのを、未羽君は見逃さなかったのだろう。相変わらず、未羽君は私を慰めてくれるのが上手い。約束を覚えていてくれたこと、今、こうして約束を果たすかを聞いてくれたことは、私にとってすごく嬉しいことで、嬉しい評価だった。


未羽君の問いに対する私の答えは決まっている。


「まだ、保留で…」


きっと、私がこう答えると未羽君はわかっていたのだろう。未羽君は笑顔で、わかった。と言ってくれた。


「でも、いつか遠くない未来に、お願いするから」

「わかった。待ってるよ」


私の言葉を聞いて未羽君は嬉しそうな表情をする。いつか遠くない未来に、私が未羽先生の隣に立つ姿を想像してくれたのだろうか。でも、私は未羽先生だけじゃなくて、未羽君の隣にもいたい。私、欲張りだから。


「未羽君、今日はありがとう」

「こちらこそありがとう。みなちゃんと久しぶりにゆっくり話せて楽しかったよ。また、今度食事に行こうね」

「是非!」


私は家の前で未羽君と別れる。私は家の前から小さくなっていく未羽君の後ろ姿をじっと見つめていた。私の眼に映る未羽君の隣には、私の姿がうっすらとあり、私は無意識のうちに遠くない未来をイメージしてしまっていた。


いつか、遠くない未来に、私は、私の望みを叶える。未羽君との約束を果たして、想いを伝えて、こんな私でも未羽君の側においてもらえるように頑張る。


そのためにも、私の夢を叶えるためにも、今は必死に頑張ろうと決めた。まずは、1回目の授業を成功させて、未羽先生にまた一歩近づくところから始めよう。そう思い、私は家の中に入り月曜日の授業の準備に取り掛かる。土曜日と日曜日もいっぱい準備して、日曜日は明日の自分をゆっくりイメージしながら早い時間にお布団に入る。本番前はゆっくり休むように、未羽先生に教えてもらったから。





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