第36話 生徒の告白





「みな先生って絶対、未羽先生のこと好きだよね」


教育実習が始まり数日が経ち、授業後の教室で数人の女子生徒とお話をしていたらそう言われた。噂されている未羽先生は現在、部活に顔を出していて後で私も未羽先生が顧問をしているバレーボール部の練習を見学させてもらう予定だった。


未羽先生はいろんな人から慕われていた。生徒だけでなく、教師陣からも慕われていて、教師生活数年目なのにも関わらず、校長先生が私の実習担当を未羽先生に任せることに太鼓判を押してくれた。未羽先生の元でいろいろなことを学べる。高校時代の私ならはしゃいだだろうけど、今は実習中、恋愛に割く余裕はない。と自分をコントロールしていたつもりだったのだが……


「どーなの?みな先生?」

「そんなにわかりやすい?」


先程とは別の女子生徒から返事を急かされて私がそう返事をすると私を囲んでいた女子生徒たちはやっぱり!とはしゃぎだす。恥ずかしいからやめてください。


「未羽先生のどんなところに惚れたんですか?」

「え、どんなところって…え、えっと、未羽く…じゃなくて、未羽先生はね。昔、私の家庭教師をしていてくれて、私のこと、一生懸命応援してくれて、私と一緒に頑張り続けてくれて、私なら大丈夫って信じてくれて、私を支えてくれたの…好きにならないわけなかったかなぁ…」


私がそう答えると話を聞いていた女子生徒たちはキャーキャーはしゃぎだす。万が一にも未羽先生が来たらやばいからあまりはしゃがないで!


「未羽先生がお人好しだったのは昔からなんですねー」

「うん」

「告ったこととかないんですか?」

「な、ないよ。あ、でもね。私が、未羽先生に胸を張れる教師になったら、私のお願いを聞いてもらう約束をしてるの。もし、その時が来たら、告白するつもり」

「うひゃーいいなぁ」


話を聞いていた女子生徒は発狂、私は恥ずかしくて顔が真っ赤…ていうか、なんで私バカ正直に聞かれたこと全部に答えてんだろう。私のばか…


私の話を女子生徒たちがキャーキャー言いながら聞いてる時、女子生徒グループの中ですごく大人しそうな印象の二瓶凛さんがなんとなく暗い感じの表情をしているのが気になった。


「はぁ…疲れた……」


女子高生は教育実習生の恋バナが大好き。昔、未羽君が教育実習に行った後の家庭教師で話してくれたことを思い出す。それは事実だった。でも、ゼミの先生曰く、小学校でも中学校でも高校でも、生徒は教育実習生の恋バナが大好きらしい。


「あの、みな先生…」


声をかけられて振り返ると、先程、私の話を聞いていたりんちゃんがいた。


「二瓶さん、どうしたの?」


私の脳内では二瓶さんではなく、りんちゃんで認識されていて、本当はりんちゃん。と呼びたいが、りんちゃん。と呼ぶと他の子たちの呼び方も調整しないといけないので名字にさん付けで統一することにした。教師ってかなり肩身狭い…これも些細なことで文句を言うPTAのせいだ…と思いながら、私は笑顔でりんちゃんに向き合う。


「あの、えっと…」


りんちゃんは大人しそうな子で一人で話しかけてくるとは思ってなかったのでちょっとびっくりしたが、かなり嬉しい。長い黒髪をポニーテールに纏めたかわいらしい女の子はタイツに包まれた細い脚が伸びるスカートをぎゅっと握りながら言葉を選んでいるように見えた。私はゆっくりでいいよ。と言って、りんちゃんの言葉を待つ。


「え、えっと、私、みな先生に負けませんから…」

「え?」

「みな先生が、昔から未羽先生と親しくても、私、負けませんから」


え、えぇ…


衝撃的すぎる告白に私は何も言えなかった。私に負けません宣言をしたりんちゃんは顔を真っ赤にしてぺこりと一礼して慌ててその場を去って行った。






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