第34話 約束の時間





私が未羽先生の生徒を卒業してからしばらくして、私の元に大学の合格通知が届いた。大丈夫。とは言われていたけど、念のために続けておいた1人での勉強とも今日でお別れだ。明日からは毎日のルーティーンにしているそろばん計算だけ続けるようにしよう。私の受験はこれで終わった。


両親に合格の報告をした後、未羽君に合格したことを連絡する。すぐに返事が来ておめでとう。と言ってくれた。


私が未羽先生の生徒を卒業した日以来、私は一度も未羽君に会っていない。今、思い返すと我ながらやばいことをしていた気がする。泣きながら1時間以上抱きしめてずっと離さなかったって完全にやばいやつだよ…未羽君割と困ってたし……


合格をしたこと、やはり、未羽君には…未羽先生には直接伝えたかった。直接、会って、無事合格しました。今まで、ありがとうございました。って…直接言いたい。でも、未羽君は忙しい。去年、お姉ちゃんが大学卒業して、働き始めるまでの期間、めちゃくちゃ忙しそうにしていたことを思い出すと、私のためにこれ以上時間を割いて欲しいなんてわがままは言えるわけがなかった。


「今度、予定空いてる日あるかな?会って直接お祝いしたいな。僕が、就職決まった時、お祝いしてくれたからそのお礼も兼ねてきちんとお祝いしたいんだ。あと、みなちゃんのご両親に一言、挨拶しておきたいんだ」


未羽君からそう連絡をもらって私は家の中で発狂してお母さんにうるさい。と怒られた。お母さんに未羽君が会いたい。と言っていることを伝え、未羽君の空いてる日との兼ね合いの結果、明後日の金曜日、未羽先生が家庭教師に来てくれていた時間に会うことになった。


久しぶりに未羽君に会える。それが本当に嬉しくて、楽しみで、早く明後日になって欲しい。とずっと思っていた。


翌日と、金曜日の約束の時間まで、私はずっとそわそわしていた。未羽君に会いたい。とずっと思っていたのと同時に、私の中である言葉がずっと脳内リピートされていた。


「いつまでも進展しないなら、未羽、私がもらうからね」


以前、お姉ちゃんに言われた言葉を思い出すと、苦しさを感じる。きっと、明後日が過ぎたら、未羽君とは本当に会えなくなる。きっと、私が望めば未羽君は私に会ってくれる。だけど、未羽君に迷惑をかけたくない。未羽君の優しさを利用するようなことはしたくない。


私は、どうすればいいのだろう。この想いは、どうすればいいのだろう。未羽君と会った私は、この想いを伝えてしまうのだろうか…自分でも、どうなるかわからない。そんな不安を感じながら、未羽君との約束の時間を迎えた。





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