第33話 卒業
「おめでとう」
その一言を聞いて、私の涙の勢いは増した。未羽君は嬉しくて泣いている。と思っているのかな。嬉しいよ。嬉しい。すごく嬉しいよ。でもね、違うの。嬉しくて泣いてるんじゃない。寂しくて、悲しくて、辛くて、名残惜しくて、泣いてるんだよ。私はもっと、未羽君の…未羽先生の生徒でいたかったんだよ。
「卒業…かな……」
泣きながら私がそう言うと、未羽君も悲しそうな表情をしてくれる。あぁ…余計なこと言ったかな。未羽君には笑顔でお祝いして欲しかったのに……
「この結果なら、落ちることは絶対ないと思うよ。お疲れ様。今まで、よく、頑張って来れたね」
未羽君にそう言われて私は泣きながら未羽君に抱きつく。まだ、卒業したくない。まだ、未羽先生の生徒でいたい。と必死にアピールするように未羽君を抱きしめて離さなかった。
「みなちゃん、今日までありがとう。僕を信じてついてきてくれて…必死に頑張るみなちゃんを見て、僕も負けられないなって思って頑張れたよ。みなちゃん、これからも大変なことはいっぱいあると思う。でも、みなちゃんなら大丈夫。大丈夫。絶対大丈夫。だから、自分を信じてこれからも頑張ってね。みなちゃんは、僕の誇りだよ。僕の1番の教え子で、すごく真面目で頑張り屋さんな優等生だよ。僕が教えないといけないことはもうないかな。これからはみなちゃん1人で努力を続けること…そしていつか、夢を叶えるんだよ。その途中にはきっとさまざまな困難がある。もし、壁にぶつかったら、必死で努力したこの数年間を思い出しなさい。もし、1人だとどうしようもできない壁があったら、いつでも頼ってくれていい。1人で努力しろって言ったけど、頼るなとは言ってない。頑張って、頑張って、どうしようもなくなったら、僕でも、僕じゃない誰かでもいい。頼れる人を頼りなさい。本当におめでとう。いつか、夢を叶えたみなちゃんと会える日を楽しみにしてるよ」
未羽君を抱きしめて離さない私の頭を優しく撫でながら未羽先生は最後の言葉を私に伝えた。聞きたくない。聞きたくないよ。まだ、卒業したくないよ。まだ、未羽先生の生徒でいたい。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ…
未羽君が再び口を開く前、この数年間の記憶が走馬灯のように蘇る。この数年間、私の横にはずっと未羽君がいてくれた。これからは…私1人で進まなければならない。嫌だ。怖い。無理だよ。ずっとわかっていたけど、改めて思い知る。未羽君と言う存在のありがたさを…
「卒業おめでとう」
未羽先生は、笑顔で私にそう伝えた。この数年間の私の努力を讃える言葉を…未羽先生としての最後の言葉を、未羽先生は私に贈ってくれた。
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