第32話 終わりの時間






翌日、朝、私が家を出ると未羽君が待ってくれていた。昨日のように未羽君と手を繋いで駅まで歩き電車に乗る。


もう少ししたら私は高校を卒業する。そうしたら、未羽君はもう、私と手を繋いでくれなくなるのかな…とか考えると少し寂しさを感じる。


受験会場に到着して昨日のようにメッセージ入りのチョコレートをもらう。


「頑張ってね」

「今日で、卒業するから…」


私は、どんな表情で言ったのだろうか、笑顔で言ったつもりだけど、実際はどんな表情をしていたのだろう。私の言葉を聞いた未羽君は嬉しそうな、寂しそうな、複雑な表情をしていた。


「今まで頑張った成果、ちゃんと出して来てね。みなちゃんなら大丈夫」


何度、支えられたらかわからない、未羽君の大丈夫。を聞き、出来る気がしてきた。出来ない未来が見えない。大丈夫。その一言で、私は自信を持てる。


「ありがとう。頑張る」


未羽君に見送られて受験会場に入る。それからの時間は長いけどあっという間だった。理科系科目が終わり、いよいよ本番の数学、数学の問題を解いていると、今まで未羽君と頑張ってきた記憶を思い返す。あっという間だったなぁ。この気持ちは消えることがなく寂しさを感じながら問題を解いた。以前なら、解けなかった問題、時間がかかった問題も、今では普通以上に解けている自信があった…嬉しいけど、寂しい。そんな感じがした。


「お疲れ様」


受験会場を出ると真っ先に未羽君が声をかけてくれた。


「頑張れたよ」

「お疲れ様。よく頑張った」


勢いで未羽君に抱きついたら未羽君は私の頭を撫でて私を労ってくれた。最高のご褒美をもらった。この、ご褒美に見合う結果を出せているといいのだが……


「未羽君、一人で自己採点怖いから…一緒にいて…」

「わかった」


家まで私を送ってくれた未羽君にそう言い、私と未羽君は私の部屋に入る。ずっとずっと、未羽君と頑張ってきたこの部屋で、こうして2人きりになるのはこれが最後かもしれない。名残惜しい、寂しい、でも、未羽君が安心して教師になるために、私は今日、未羽君の生徒を卒業したい。


手が震えていた。震える手でスマホで模範解答を検索して、自己採点をする。間違いがないように確認しながら、丁寧に、ゆっくり…


間違いがないように。と言いながら、私は、時間稼ぎをしていたのかもしれない。この、幸せな時間を終わらせたくなかったのだろう。もっと、未羽君と勉強したかったなぁ。もっと、未羽君にいろいろ教えてもらいたかったなぁ。


そう思うと、私は泣いてしまっていた。私の顔を見て未羽君は「おめでとう」と優しく声をかけてくれた。





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