第29話 金曜日の告白
「そ、そういえばゆき先輩は…その、彼氏とかできたんですか?」
未羽君とお姉ちゃんが話している最中に未羽君がお姉ちゃんに尋ねたことが気になり私は耳を澄ます。
「忙しくて彼氏探す余裕もないよ…」
「じゃ、じゃあ、えっと、その、僕とか、どうですか?」
未羽君は声を震わせながらお姉ちゃんに告白する。ふと未羽君の表情を見ると未羽君の表情は真っ赤になっていたが、お姉ちゃんの顔をしっかりと見つめていた。
お姉ちゃんの表情はちょっと驚いていたが、すぐに表情を真剣な表情に切り替えて未羽君を見つめた。私は、ここにいていいのだろうか…ちょっとお手洗いに行くフリをしていなくなった方がいいかな。と思ったが、やっぱり、気になってしまう。
「未羽、ごめんね。私は未羽とは付き合えないよ」
「そう…ですか……ごめんなさい……」
「ありがとう。未羽の気持ちは嬉しいよ。でもね。私じゃ未羽は幸せにできないんだ。未羽は私よりもいい人を探しなよ。今はまだ、目に入っていないだけで、未羽にお似合いの人は意外と側にいるかもしれないからね」
お姉ちゃんはチラッと私を見て言う。未羽君はお姉ちゃん以上の人なんていない。と言うような目をお姉ちゃんに向けていたが、お姉ちゃんは笑って「ゆっくり時間をかけて自分の周りを見つめてみな」と未羽君に言っていた。
お姉ちゃんには、私が未羽君のことを好きだとバレているみたいだった。正直、お姉ちゃんのことはちょっと苦手だった。私の家ではお母さんとお姉ちゃんが一緒にいてお父さんと私はそれぞれ1人でいる構図が多い。当然、お母さんはお姉ちゃんを贔屓していたし、お姉ちゃんはお母さんの意見に基本賛成だから、私の進路にも反対していた。だから、お姉ちゃんはちょっと苦手だったのに、こう言ってもらえて、単純だが、ちょっと嬉しかった。
「ゆき先輩、今日はありがとうございました」
「いえいえ、これから大変だと思うけど頑張ってね。あと、みなのこともよろしくね。未羽がいないと何もできない子だからさ最後まで面倒見てあげて」
お姉ちゃんが言う最後はいつまでなのだろうか。単純に、今年限りなのか、それとも、私か未羽君、どちらかが最後を迎えるまでなのだろうか。もし、後者だったら、どれほど幸せなのだろうか。未羽君はお姉ちゃんの言葉にもちろんです。と頷く。
「みなちゃん、これからも一緒に頑張ろうね。今日はお祝いしてくれてありがとう」
「うん…またね。あと、本当におめでとう」
「ありがとう。またね」
そう言って未羽君は駅に入って行く。私とお姉ちゃんは未羽君を見送ってから家に帰る。
「いつまでも進展しないなら、未羽、私がもらうからね」
帰り道、お姉ちゃんは意地の悪い顔で私に言う。
「絶対、渡さないもん…未羽君だけは…絶対渡さない…」
「あまり口出ししたくないけど、告白するなら早めにしなよ。後悔しないようにね…」
「うん」
それ以上はお互い何も話さなかった。今頃、未羽君は何を思っているのだろう。お姉ちゃんにフラれてショックを受けているのだろうか。それとも、お姉ちゃんから言われたことを気にしていてくれてるだろうか。わからない。けど、もし、後者のことを考えていて、一瞬でも、未羽君の脳裏に私の姿が映っていたら…私は幸せだ。
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