第28話 金曜日のお祝い
未羽君の進路が確定した。非常に喜ばしいことで私も未羽君に続きたい。未羽君に置いていかれないように精一杯、未羽君が進んできた道から離れないように努力しなければならない。だけど、今日、この少しの時間だけは、それを忘れよう。
「未羽、進路確定おめでとう」
「未羽君、おめでとう」
金曜日、未羽君の家庭教師の授業が終わり、私は未羽君とお姉ちゃんと一緒に未羽君の進路確定のお祝いをするために3人で外食していた。未羽君が進路を確定させたことを知ったお姉ちゃんが日程を合わせて帰って来てくれて未羽君がすごく嬉しそうにしていたのが、ちょっとだけ、悔しかったけど…
「ありがとうございます」
「未羽、今日は私の奢りだからいっぱい食べちゃって」
ちょっとお洒落な感じのお店で私たちはいろいろな料理を注文する。あの日、未羽君がお姉ちゃんに告白した日から未羽君とお姉ちゃんは会っていなかった。久しぶりの再会でお姉ちゃんも未羽君も以前より少しよそよそしくしているような気がした。
「未羽は、最近、大学の方はどうなの?サークルのみんなは元気?」
「最近は教採で忙しくてサークル行けてなかったんですよねぇ…でも、前に行った時はみんな元気でしたよ」
「そっかそっか、ならよかった」
そんな当たり障りのない会話をしているのを見て私はもどかしく感じる。
「ゆき先輩は最近、どうですか?すごくお忙しいみたいですけど…」
「あはは、毎日大変だよ〜いくら子どもたちがかわいいとはいえ子どもの相手は疲れる…」
お姉ちゃんは現在、保育士として働いている。毎日毎日、保育の指導計画やら準備やらで忙しいみたいだ。
「大変そうですね…」
「未羽も来年からそうなるんじゃない?」
「あはは…そうかもしれないです。僕、パソコン苦手なので指導案作るのめっちゃ時間かかるんですよね…」
へー、ちょっと意外。未羽君には弱点なんてないと思っていたのに意外なところで弱点発見。と思いちょっと新鮮な気持ちを感じていたら、ふと、未羽君が以前、私に用意してくれたプリントとかを思い出す。未羽君が私に用意してくれる問題などは手書きがほとんどだった。未羽君の字はすごく綺麗なので、手書きでもすごく読みやすかったのだが、パソコンが苦手だったからなのか…でも、未羽君は必要な時はパソコンで作成した資料をくれたりしていた。私のために、苦手なことでもやってくれる未羽君に、私はまた魅力を感じてしまう。これが、生徒思いじゃなくて、私だから…だったらどれほど嬉しいことか……
そんなことを考えながら私はピザを食べる。美味しい。よそよそしい。と思っていた未羽君とお姉ちゃんの会話は時間が経つにつれて2人だけの世界で盛り上がっていた。私は2人の世界に入れずにただ、料理を食べるだけだった。
やっぱり、未羽君はお姉ちゃんのこと、まだ好きなんだろうなぁ…1人で黙々と料理を食べながら2人を見ていた。
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