第27話 私の憧れの道





「未羽君、その…頑張って…ね」


オープンキャンパスから月日は流れ、私は未羽君に言う。この言葉が正しいのかはわからない。でも、これ以外未羽君にかける言葉が見つからなかった。


「ありがとう。頑張るよ。みなちゃんよりも先に進路決めちゃうから」


今日は金曜日、そして、来週いっぱいは未羽君の家庭教師はお休み。来週は未羽君の第一志望である近隣の自治体の教採がある。いろいろ悩んでいたみたいだが、未羽君は高校の数学を選択していた。


「これ、お守り…よかったら、持って行って…」


未羽君のために用意した合格祈願のお守り。お守りの種類とかよくわからないので、合格祈願のお守りを選んだのだけど、合ってる。よね?


「ありがとう。より一層頑張れるよ」


未羽君はそう言いながら玄関で靴を履いて私に背を向けた。


「みなちゃん、今まで本当にありがとう。みなちゃんが僕なんかを慕ってくれて、ずっと僕について来てくれて、一緒に努力してくれて、結果も残してくれて、すごく自信がついたんだ。みなちゃんって言う僕なんかにはもったいないくらい優秀で努力家な生徒の存在が、僕が他の人に勝ってると思えることなんだ。今日まで、僕を信じて僕の生徒でいてくれてありがとう」


突然、未羽君にそう言われて私は泣きそうなくらい嬉しかった。私なんて、全然ダメな生徒なのに…バカだし子どもだし、未羽君がいないと何もできないし、本当にどうしようもないくらいダメな生徒なのに、未羽君が、私にそう言ってくれたことが嬉しかった。


「未羽君、頑張って。未羽君は私にとって最高の先生だから。今まで会ってきた先生の中で、未羽君が1番、私にとって理想の先生だから。だから、未羽君は絶対先生になれる。先生になって…お願いだから。未羽君は私の憧れで目標だから。私の道の先にいて…未羽先生、応援してます。頑張ってください」

「ありがとう」


未羽君は今にも泣き出しそうな表情で私の方を振り返り私にお礼を言い家を出た。


それからしばらくの間、私は1人で勉強を頑張った。未羽君がいなくても、1人で頑張った。私が、いつまでも未羽君を必要としていたら、未羽君はきっと、安心して私の先生をやめられないから。未羽君は、来年から、私の先生じゃなくてみんなの先生になる人だから…私は、未羽君の足枷になりたくない。だから、1人でも全力で頑張った。


そして、しばらくして未羽君は1次試験合格の報告を私にしてくれた。そして、勉強だらけの夏休みも明けた9月に、未羽君は2次試験も合格し、私よりも先に進路を確定させた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る