第25話 私にはわからない。
「ねー、未羽君、服装って制服でいいんだよね?」
「うん。私服の人もいるけど大半は制服だと思うよ」
未羽君と電車に揺られて未羽君が通っている大学のオープンキャンパスに向かう。
「そういえばさ、ゆき先輩は元気……?」
電車の中で、恐る恐るというかもじもじした様子というか照れた様子というか、よくわからないような表情で、私のとなりに座っていた未羽君は私に尋ねる。
あの日、未羽君がお姉ちゃんに告白した日以降、未羽君とお姉ちゃんは一度も会っていない。というか、私も2・3回しか会っていない。就職して、始めての一人暮らしで慣れないこともあったり疲れが溜まっていたりして中々帰って来れないのが現状らしい。私としては、どちらかと言うとそちらの方が助かるのかもしれない。このまま、2人の距離が離れて未羽君の意識がお姉ちゃんから逸れてくれれば…と思ってしまう自分が情け無く感じる。
私はどうしたいのだろう。大好きで、憧れで、私にとって1番大切な未羽君には幸せになって欲しい。前も言ったが、その隣には私がいたい。そう思うのはおかしいことなのだろうか。いくら考えても答えはでない。でも、私は、未羽君に大切なことで嘘をつく人にはなりたくない。電車の窓から外の景色を少し眺めて気持ちをリセットするために深呼吸をする。
「やっぱりまだ慣れてないみたいで大変そうだよ。でも、夏に休暇もらってゆっくり帰ってくるって言ってた。その時、未羽君に久しぶりに会えたらなぁ…って言ってたよ。お姉ちゃん、未羽君のことお気に入りの後輩って言って気にかけてたからさ。なんだかんだで未羽君のこと心配していると思うよ」
私は、笑顔でお姉ちゃんが言っていたことを未羽君に伝える。お姉ちゃんが言っていたことを正直に言ったはずなのに心が痛い。何かに締め付けられているように辛い…なんでだろう。なんでこんなに辛いんだろう。
「そっか、嬉しいな…」
未羽君は嬉しさを抑え込むような表情で言う。未羽君の表情を見て、私は、まだ未羽君の心はお姉ちゃんの方を向いていることを悟る。お姉ちゃんが本当に羨ましい。こんなにも未羽君に特別に思ってもらえて…
「未羽君はさ、まだ、お姉ちゃんのこと好きなの?」
答えは分かりきっている。その答えを未羽君の口から聞かされたら、私はきっと傷つく。そんなことは分かりきっている。でも、それなのに、私は聞かずにはいられなかった。自分でも訳がわからない。なんで、自分から、傷つこうとしているのだろう…
「うん。まだ、好きだと思う。諦められないよね。そう簡単には…しつこい…かな……」
未羽君は複雑な表情で答えてくれる。未羽君の答えを聞いて案の定、私の心は抉られたように痛む。
「しつこい。とか、お姉ちゃんはそうは思わないと思うよ。誰かに好きでいてもらえるってすごく幸せなことだと思う。ただ、その気持ちに応えられるかどうかは別だと思うけどね…」
「そういうものかな…」
「そういうものだよ」
「そっか…」
きっと、私は、未羽君に答えたのではない。私の心に答えた。私の心を誤魔化すために、未羽君に言った。それを、未羽君に肯定してもらい、私はまだ、未羽君を好きでいていい。と言う言い訳を作った。私はずるい…
私はそっと手を未羽君の手に重ねる。未羽君は少し驚いた表情をするが何も言わない。私も何も言わずに、電車の窓から外の景色を眺めた。外の景色はすごく綺麗な緑が広がっていて、すごく広大に感じた。今、私や未羽君が抱いている感情はきっとこの景色よりも広大で果てのないものだと思う。そんな感情と私はどう向き合えばいいのか。
私にはわからない。
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