第23話 金曜日の問題






「時間が足りなかったかな……」


私の赤点のテストの答案を数分間眺めて未羽君が呟く。


「うん……」

「このテストの模範解答貸して」

「あ、はい。これ…」


悔しくて、まだ見ていない綺麗な模範解答を未羽君に渡すと未羽君はクスリと笑った。


「よほど悔しかったんだね」


模範解答を受け取り未羽君は笑いながら私に言う。


「何で?」

「何でって、みなちゃんいつもならマーカーだらけの模範解答渡してくるじゃん。見た形跡すらないってことはよっぽど悔しかったんだなぁって…で、見せてくれる?」

「何を?」

「模範解答見ずに問題、解いたんじゃない?」


未羽君は何でもお見通しだった。私が悔しくて模範解答を見ていないことも、時間があれば…って、私がテストの問題を時間制限なしで解きなおそうとしていたことも、未羽君はお見通しだった。


「まだ、終わってない」

「あとどれくらいで終わりそう?」

「あと、最後の一問だけ…」

「そっかそっか、ちなみに、そこまで何時間かかった?」

「240分くらい?」

「素直に4時間って言おうか」


何時間もかかった。と答えるのが悔しくて私は分に直して未羽君に伝えると未羽君は笑いながら言う。


「じゃあ、最後の一問、解いてみて」

「うん」




「赤点ラインよゆーで超えてるね。平均的も余裕で超えてる」


問題が終わり、一通り未羽君は答え合わせをして、結果を私に伝えてくれた。嬉しいけど、悔しかった。


「うん。追試は30点以上だよね?」

「う、うん。それが最低ライン…」

「テスト始まったら各大問の最初の問題を全部解きな。それから、計算する前のところまで全ての問題を立式する。そうすれば、各大問の最初の問題の点数とそれ以降の立式で得られる部分点で余裕で30点は超える。大丈夫だよ。みなちゃんはできる子だ」


追試への策略を告げて未羽君はテストを机の隅に置く。


「はい。これ、解いてみて」

「これは?」

「みなちゃんが問題解いてる間に作った問題。テストと同じくらいの難しさで同じくらいの量、テストの時間内で全部解いてね。ただし、これの使用を認めます」


未羽君はそう言い、電卓を机に置く。未羽君に言われた通り、私は問題を解いた。


「うん。高得点だね。よし、やっぱり、追試までやることは基礎力だね。みなちゃん、解き方の勉強はちゃんとしてるのは偉い」

「えへへ」

「みなちゃん、厳しいこと言うよ。みなちゃんが特別だからって、試験に電卓は持ち込めないからね。今回のテストで、わかったでしょう?今からみなちゃんに必要なこと…」

「うん…」


わかってる。私は、数的処理の知的障害を理由に、計算から逃げていた。計算と問題の関係性の理解、それが、私の苦手なこと、私が背負ったハンデ…計算はそのまま。計算速度が遅い。問題の関係性の理解、は例えば同じ解き方で解ける簡単な方程式の問題が2つ並んでいたとしよう。普通の人は1つ目の問題を解ければ、同じことをすれば2つ目の問題も時間をあまりかけずに解ける。でも、私は1つ目の問題を解くと脳がリセットされる。1つ目の問題と同じことをすれば2つ目も簡単に、あっという間にできるのに、私は、この問題をどう解くか。を1から考える。そのため、普通の人と比べて圧倒的に遅い。自覚しても、直すことができない。それが、困ったところだ。


「今日から、嫌と言うほど、弱点克服のために頑張るよ」

「うん」


出来るわけない。普通の人なら諦めろ。と言う。知的障害なんて、どうしようもならないから、最初から詰んでいた。と言う。お母さんもお姉ちゃんも、お父さんも、担任の先生も、諦めろ。と言った。でも、未羽君だけは、私ができる。と信じてくれている。私が諦めるまで、未羽君は私を信じてくれる。だから、私は頑張れる。大好きな未羽君に支えられているから…









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