第22話 金曜日の報告
「ま、まじか……」
あれからまた、数ヶ月が経ち、私は高校3年生、未羽君は大学4年生になった。そして、高校の1学期が終わる少し前、夏の暑い日の金曜日に、未羽君は私の家庭教師になって初めて、私の成績を見て動揺した。
「僕の力量不足だ…ごめん……」
「いやいや、未羽君は悪くないよ。未羽君はいっぱい教えてくれたもん。私の努力が足りなかっただけ…」
1学期の期末テスト、数3の科目で、私は高校に入って初めて赤点を取ってしまった。テストが終わった時から嫌な予感はしていて、覚悟していた。明らかにできた感じがしなかったから…
その、嫌な予感が的中し、赤点の答案が返されて、今、それを未羽君に見せたわけだが…未羽君の反応を見て、未羽君に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。未羽君も卒業論文とか、教採への準備で忙しいのに週に3回も(そのうちの1回は私の自習に付き合ってくれているだけ)私の面倒を見てくれていたのにこの結果だ。
初めて、未羽君が私の成績を見て動揺するのを見て、私は自分が情けなくて、悔しくて、泣きそうだった。未羽君の期待に応えられずに、今、この場所にいることが、辛かった。
「じゃあ、勉強しようか、追試、あるんだよね?厳しいかもしれないけど、落ち込んでる時間はないよ。泣いてる時間もないからね。まだ、みなちゃんは頑張れるよね?」
私のテストの答案を見てからまだ1分も経過していないのに、未羽君は表情を整えて私に言う。未羽君に何て言われるのかわからなくて、勝手に怖がっていた私は、未羽君にそう言ってもらえて、まだ、未羽君に見放されていない。と知って、つい、泣いてしまう。
「頑張れる…頑張る…だから、お願いします。教えてください」
「じゃあ、まず泣き止もう。本当なら慰めてあげたいけど、今は、泣いてる時間も惜しいから…」
優しいけど、厳しい声で未羽君は私に言う。女の子としての私は、未羽君に優しく慰めて欲しい。って本心では思っている。でも、未羽君の生徒としての私は、未羽君に厳しい言葉を投げかけてもらえたことが嬉しかった。今、この瞬間、私の中でどちらの私が優先されたかは言うまでもないだろう。
「お願いします」
私は服の袖で涙を拭う。女の子としてはアウトな気もするが、今は、女の子としてのプライドを気にしてハンカチを取ったりする時間すら惜しかった。
「うん。大丈夫、みなちゃんならできる。今まで以上に一緒に頑張ろう」
一緒に頑張ろう。と、迷うことなく私に言ってくれる未羽君に私は憧れる。一瞬でも、もしかしたら未羽君に見放されるかも…と怯えていた自分が、本当にバカだと思う。私の憧れの先生は、生徒が諦めない限り、ずっと応援してくれて、側で一緒に頑張ってくれる人だと、私は知っているはずだったのに……
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