第19話 一生の約束
「どうだった?」
セミナーが終わった後、未羽君は私に尋ねる。
「楽しかった!あと、未羽君やっぱりすごいなって思った」
「そんなことないよ…ありがとう」
「未羽君に教えてもらってる私は幸せ者だなって…思うよ」
帰り道、未羽君と手を繋ぎながら大学の最寄りの駅まで歩いている途中、私がそう言うと未羽君は顔を真っ赤にして照れていた。
「未羽君、6個のお願い、覚えてる?」
「うん。来週から水曜日はお出かけするってやつだよね」
「うん。少し、変更していい?」
「いいよ」
「水曜日も私に勉強を教えてください」
私は未羽君に頭を下げてお願いした。今日のセミナーで、未羽君からもっといろいろなことを学びたい。と思った。そして、もっと頑張らないといけないとも感じた。
「いいよ。じゃあ、みなちゃんの家の近くの図書館とかで勉強しようか」
本来なら、未羽君はここまでしてくれる義務はない。ただ、一緒に頑張ろう。と言ってくれたことを実践してくれているだけだ。そんな未羽君の優しさと期待に、私は必ず応えてみせる。私は特別…他の人と比べて劣っている。今の私に、大好きな未羽君と遊んでる余裕はない。
大好きな未羽君と遊びに行きたい。当然、そう思うよ。でも、今の私は、未羽君の生徒でいたかった。未羽君の生徒として、未羽君からいっぱい学んで成長したかった。
「うん。私、絶対、未羽君みたいになる」
「ありがとう。嬉しいなぁ」
本当に嬉しそうな未羽君の横顔を見て、私はドキドキしてしまう。でも、今は、この感情をしまっておこう。この感情はいつか、先の未来で、成長した私に託すことにしよう。
「未羽君」
「ん?」
「私が、未羽君みたいになれたら、私のお願い1つだけ聞いてくれないかな?」
「僕を目指してくれるのは嬉しいけど、みなちゃんは僕じゃない。みなちゃんがさ、教師になりたい。って言ってくれた日に、僕がみなちゃんに言ったこと、覚えてる?」
「う、うん…」
忘れるはずがない。今の私を作った大切な記憶だから…
「僕を目指して努力してくれるのは嬉しい。でも、ゴールが僕じゃダメだ。みなちゃんはこれから、僕よりもっと努力すると思う。その経験を活かして、僕を超える教師になるといい。僕は、ずっと算数とか数学が好きだったし得意だった。苦手な子の気持ちは、あまりわからない。みなちゃんは僕とは違って苦手な子の気持ちもわかってあげられる。みなちゃんは、僕を超える教師になるんだよ。大丈夫、みなちゃんなら絶対出来るから。今まで僕がみなちゃんにみなちゃんが出来ないことを求めたこと、ないでしょう?」
未羽君は、本気で言っていた。どれくらい頑張っても、夢を叶えることができない可能性があるほどのハンデを抱えている私が、教師になり、未羽君ではない教師に私はなっている。と、本気で思ってくれていた。
「なれるかなぁ?」
「大丈夫」
迷いのない即答だった。それを聞いて、私がどれだけ自信を持てたか、未羽君はきっと気づいていないんだろうなぁ。
この日、私は、未羽君と約束をした。いつか、私が、未羽君に胸を張れる教師になったら、未羽君に私のお願いを聞いてもらう。と……
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