第18話 水曜日の授業
あっという間にセミナーの時間は進んでいった。私と未羽君はすごく集中してセミナーを聞いていた。普段、未羽君はこういうことを学んでいるんだ。とか、こういう学び方もあるのか。という発見もあったりしてすごく楽しい時間だった。3部構成のセミナーのうち、2部が終わり、最後の3部は、学生代表として未羽君が模擬授業を行う。科目は小学校の算数。未羽君の専門は数学だが、当然、算数の授業もゼミで研究しているらしい。楽しく学ぶをテーマに行われているセミナーで、1番楽しい授業をできるのは算数だと未羽君は判断したらしい。
「緊張するなぁ…」
2部と3部の休憩の間、未羽君はずっとそう言っていた。このセミナーには大学の学生だけでなく、大学の教員、そして、近隣の小中高大の先生も来ているみたいだ。それだけでなく、他大学で数学の教員を目指す学生も参加していてかなり広い講義室はかなりの席が埋まっていた。緊張しないはずがない。
「頑張ってね」
「頑張る」
そう言って未羽君は教壇に立つ。ちょっと足が震えていてぎこちないところがかわいい。私は未羽君に用意された目の前の特等席に座らされる。周りは未羽君の知り合いの学生や同じゼミ生みたいで、未羽君が行う模擬授業の生徒役をするみたいだ。その中に私も入れられた。
そして、未羽君の模擬授業が始まった。始まる直前まで震えていたりしたのに、いざ始まると人が変わったように集中して授業を行っていた。集中する。と言っても真面目に教科書の問題を解くのではない。小学生を相手と想定して、わかりやすく、子どもが入り込める、楽しい授業を未羽君は明るい雰囲気で進めていた。
「じゃあ、これを…みなちゃん。やってみようか」
「え、えぇっ」
何の予告もなしに、活動後のまとめの発表と、問題の解答を要求されつい声を出してしまった。私の後ろに座っていた未羽君のゼミの先生が小声で「未羽君を助けてきてあげな」と言ってきた。その言葉を聞いて私は笑いながら前に立ち問題と向き合う…が……
緊張しすぎて何も考えられない。どうしよう。やばい。恥かく……
「大丈夫。楽しい数学の基礎だよ」
未羽君が小声で私に言う。私が普段、落ち込んだりして勉強に集中できない時、未羽君は毎回、楽しい数学。という授業をしてくれる。それを思い出したら、何故か落ち着けて答えることができた。
「はい。よくできました。拍手!」
未羽君がそう言うと見ていた人たちが私に拍手を送ってくれて、私は気分が良くなる。私が教壇から降りる時、周りの景色が見えた。これが、未羽君がいつも見ている景色なんだ。と思った。
席に戻ってから、先程、未羽君にかけられた、大丈夫。と言う言葉が何度も脳内リピートされる。力強くて優しい大丈夫。ああやって一言で生徒を安心させられる未羽君に私は強い憧れを再び抱いた。
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