第17話 水曜日の出会い
「先生、今日はよろしくお願いします」
「お、未羽君お疲れ様。今日はありがとうね」
「いえいえ、こちらこそ、こちらの要望に応えていただいて感謝してます」
大学に到着して大きな建物の大きな教室に入り、未羽君は中年くらいの男性の大人と話していた。その姿を見て、私と4歳しか離れていないのに、未羽君をとても大人だと感じた。
「ゼミ生の生徒は私の生徒みたいなものだから気にしないで、その子が未羽君の生徒さんかな?」
「あ、はい。みなちゃん、ご挨拶して」
「あ、えっと、未羽君の生徒をさせていただいている田中みなと申します。今日は参加させていただき感謝してます」
未羽君みたいに大人な対応をしようと頑張ったが途中で噛んでしまったりして未羽君みたいに上手くはできなかった。
「いえいえ、来てくれてありがとうね。それにしても未羽君の生徒さんかぁ…未羽君はどんな先生なのかな?」
興味本位、と言う感じで先生が尋ねると未羽君がやめてください。と言うように咳払いを始める。かわいいなぁ。
「えっと、すごくいい先生です。私に一生懸命教えてくれて、私のことすごく大切にしてくれて、私のこと応援してくれて、何より、私と一緒に頑張ってくれる、私の理想の先生です。本当に大好きな先生です」
私は途中から顔を真っ赤にしながらそう言っていた。未羽君も恥ずかしさからか顔を真っ赤にしていた。
「うんうん。未羽君、ちゃんと好かれているみたいだね。それに、生徒の前じゃちゃんと先生できてるみたいで安心したよ」
「え…」
「未羽君ねぇ。事あるごとに僕にいろいろ相談して来てねぇ。あ、君の個性についてじゃないよ。君のためにどうしてあげればいいか。どうすれば君の親御さんに理解を示してもらえるか。って相当悩んでたから」
「そう、なんですね」
私の前ではそんな素振りは一度も見せずに、堂々と私のお母さんと話をしているように見えた。未羽君も悩むんだ。私のために悩んでくれたんだ。って思うと嬉しくて泣きそうだった。
「先生、それくらいに…」
「あはは。意地悪しすぎたかな。みなちゃん。だっけ?未羽君はいい先生だからね。いろいろ教えてもらい、いろいろ学ぶといい。そして、未羽君みたいになるといい」
「はい。ありがとうございます」
顔を真っ赤にしながら未羽君が先生を止めると先生は私にそう言った。先生の言葉に対して、今日、先生と出会って初めて笑顔を崩したかもしれない。私が、未羽君みたいになれるのかな。と一瞬思い、笑顔が崩れたことを先生は見逃さなかった。
「君がここにいること。それが、君が他の人より優れていることだ。今日、少しでも学ぶといい。そう言った学びを少しずつ重ねて努力しなさい。君はそれが出来る子だと言うことは未羽君から聞いている。それは誰にでも出来ることじゃない。誇っていい君の長所だ。いずれ、成長して夢を叶えた君とどこかの研究会で話せることを願うよ。その時は未羽君も交えていろいろ学び合おう。では、時間だから話はここら辺にしようか」
先生が、セミナーを始める前に私に言い残してくれた一言を、私は一生忘れない。そう思うくらいその言葉は私の心に響いた。
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