第11話 あの日、教えられたこと。
「いいよ。お出かけしよっか……」
未羽君は優しい、私を安心させてくれるような声でそう言った。嬉しい。そう言う気持ちは当然あったが、未羽君に無理をさせてしまっているのではないか。と不安に感じたりもした。
「本当に…いいの?」
「うん。いいよ。ちゃんとお母さんとお姉ちゃんに内緒にすることが条件だけど…」
「うん。約束する!」
今、私は未羽君にどう思われているのだろう。未羽君にとって今の私は、ただの生徒なのか、それとも妹みたいな扱いなのだろうか、それとも友達?それとも……
「好き…」
「え?」
今、告白して想いを伝えたら未羽君はどう思ってくれるのかな。と思ってしまった。そうしたら、無意識のうちに私は呟いていた。
私の呟きを聞いた未羽君は驚いた表情で私を見つめる。
「きょ、今日の夜ご飯すき焼きなんだ〜」
「あ、そうなのね。びっくりした〜」
私が誤魔化すような笑顔で言うと未羽君は安心したような表情をして笑った。その反応から、咄嗟に誤魔化したことは正解だったと悟り…安心したけど、複雑な気持ちになる。
きっと、あのまま好き。と言っていれば私はフラれていた。もしかしたら、もう、未羽君は家庭教師に来てくれなくなるかもしれない。そうなったら、私は耐えられなかった。でも、今の反応を見ると、未羽君にとって私は対象外なのだろう……それなのに、私は私に必死に大丈夫。と嘘をついてこのまま未羽君を諦めないようにしている。いつまで、私は夢を見ていればいいのだろう。現実から逃げ続けるのだろう。私は、未羽君が誰を好きなのか知っているのに…
「みなちゃん、どうしたの?」
「な、なんでもない。ちょっとお腹すいちゃっただけ」
「もう夜だもんね。遅くなりすぎてもいけないから今日はもう帰ろうか」
「うん…」
私の心は荒れていた。抗うか諦めるか、ひたすらに悩み続けていた。だが、私の手は自然と未羽君の手に伸びていた。可能性なんていらない。私はただ、この人を好きでいたい。と言うことなのだろうか…辛いだけかもしれないのになぁ…
でも、今、諦めるよりは辛くない。自然とそう思えた。未羽君の温かくてたくましい手が、私に諦めない勇気と諦めたくない想いをくれた気がした。
他の人と比べてみなちゃんは劣っている。その事実を受け止めよう。受け止めて、向かい合って、並大抵じゃない努力をしよう。
なんでだろう。あの日、未羽君に言われたことを思い出した。私が、今までの人生で、1番ずきん。と来た言葉を私は思い出した。
私は、お姉ちゃんに負けている。そんなことわかってる。それを受け止めて仕方ないことと向き合う。ただし、「今は」と言う言葉を忘れない。これから努力すれば良い。並大抵じゃない努力を…
「未羽君が私に教えてくれたんだからね」
「え?何を?」
「なんでもない」
今は無理でもいつか、諦めない限り可能性は0ではない。
あの日、未羽君が私に教えてくれたこと、だからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます