第3話 家庭教師の後





「未羽君、今日は夜ご飯食べて行ってくれる?」


家庭教師の日は月曜日と金曜日、月曜日はすぐに帰ってしまうが金曜日は家庭教師が終わった後に家族とご飯を一緒に食べてから帰ることが多い。今日は金曜日、たぶん一緒に夜ご飯食べてくれるはずだ。


「じゃあ、せっかくだしいただいて帰ろうかな」

「やった!」


私は笑顔で未羽君と一緒にリビングに向かう。リビングではお母さんとお姉ちゃんが夜ご飯の支度をしている最中だった。お母さんとお姉ちゃんに言われて私も夜ご飯の準備を手伝う。


「未羽、悪いけど冷蔵庫から醤油出してきてくれない?」

「あ、はい。わかりました」


お姉ちゃんに言われて未羽君が席を立ち冷蔵庫に向かう。お姉ちゃん(田中由希)は未羽君のサークルの先輩でありお姉ちゃん経由で未羽君に私の家庭教師をお母さんが依頼した経緯がある。


そして、未羽君は…明らかにお姉ちゃんに特別な感情を抱いている。それは未羽君のお姉ちゃんへの接し方からよくわかった。私はそれが羨ましい……


「ゆき先輩、持ってきました」

「ありがと。助かったよ」

「いえいえ」


いつのまにか未羽君はうちの日常に割と馴染むようになっていた。私としては嬉しい話だが、未羽君がお姉ちゃんに特別な感情を抱いていると気づいてからは複雑な気持ちだ。


「最近…みなはどう?」


未羽君に強く言われてから、お母さんは未羽君と私に、私が数学を諦めるように言わなくなった。だからこそ、心配が積もっているのかもしれない。いや、それはないか。お母さんは私のことをそこまで大切に思っていないから。


「頑張ってますよ。苦手を克服しようと一生懸命なことがちゃんと伝わってきてます」

「担任と話したけど、やっぱりもう推薦は無理みたい」

「そうですか…1年生のうちから推薦が無理だとわかってよかったです」


と未羽君はお母さんの言葉を聞いて暗くなった私を見て私に大丈夫。と言うようにお母さんに答えてくれた。


「みなちゃん、頑張ろうね」

「う、うん」


未羽君は私にいろいろ気を遣ってくれる。家族との食事は嫌いだ。出来損ないの私を家族はあまりよく思っていないから。だけど未羽君は私を見捨ててくれない。未羽君は私をきちんと見てくれている。だから、未羽君がいる日は落ち着ける。未羽君と一緒にいると落ち着ける。未羽君のおかげで、私はまともでいられる。


「じゃあ、みなちゃん、また今度ね」

「うん。月曜日……」


未羽君をお姉ちゃんと一緒に最寄り駅まで見送って私は未羽君と次に会う日を確認する。そしてお別れを言ってから私は毎回泣きそうになる。


今の私の支えは未羽君だけだから…

早く…月曜日にならないかなぁ。






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