第5話 師匠登場

 そろそろ陸またナマコと対峙しなくてはいけない。俺はおびえる心を奮い立たせてなんとか陸ナマコと対戦する日取りを決めた。カレンダーに丸を付け、そしてその下に赤い文字で「必勝!陸ナマコ!」と書いた。

 そのための作戦も考えている。奴らは集団で襲い掛かる。だから奴らの出る草原に木でできた塀を立てて奴らの動きを分断する。そして塀の下には小さな穴をあけておく。すると奴さんは一匹ずつしか出てこられなくなる。そこを叩くのだ。やった! 完璧な作戦だ。


 俺は草原に行って塀を立てるために材木を地面に打ち付けた。するとさっそく10匹の陸ナマコがまとわりついてきた。「早い、早すぎる! そんなの予定になかったぞ」

と叫んでる途中で陸ナマコは全身にへばりついてきてぬるぬるして気持ちが悪かった。俺は持っていた木づちで陸ナマコを叩いたのだが、手元が滑って自分のすねを思いっきり叩いてしまった。痛いのなんの!


 ほうほうのていで自宅に戻り、粘液でずるずるになった身体で寂しい反省会を開く。涙と粘液のブレンドは甘じょっぱい。陰気な気分に拍車をかける悲しい夜だった。

「そうだ。やっぱり俺には師匠が必要なんだ。よし、お師匠さんを探すぞ」

そう思った俺はなけなしの金をかき集めようとしたが、ジュース代にもならなかった。つまり素寒貧すぎたのだ。仕事もすぐ首になるし、体力もない俺には、お金で師匠から習おうなんて無理な話だったのだ。


「どこかにただで戦闘を教えてくれる師匠はいないかな」

 俺はあてもなく街をうろついた。すると、妙な張り紙を見つけた。

「求む弟子。金ならいくらでも出す」

 普段の俺ならこんな怪しい案件などスルーする流れだが、度重なる連敗で気がめいっていた俺は心の迷いか飛びついてしまった。


「たのもう! 」

と言ってから気づいたのだがこれじゃあ道場破りの掛け声である。そして、奥の部屋から出てきたのはがりがりに痩せたご老体だった。ご老体は畳敷きの広間に俺を案内すると手足を知恵の輪のように組み合わせて座っていた。ぐらぐらして今にも倒れそうだ。

「ワシが名の知れた武道家、ヌキラボーナ・ウッシャである」

「ひとつお手合わせ願いたい」

 こいつなら勝てると思って俺は柄にもなく勝負を申し込んだ。本来の目的はすでに頭から消し飛んでいた。


 老人は奇妙な構えで一本足で立ち呪文を唱え始めた。聞くのが面倒くさい俺はその足を払いのけると老人は派手に転んだ。

「やるな。こわっぱ」

 俺はもう付き合うのが面倒くさくなってしまった。老人は無理やり組んだ自分の体がほどけないまま寝転んで膠着している。時間の無駄だと感じた俺は玄関から外に出ようとした。

「まて、金なら出す」

 それなら話は別だと、俺は老人の体に駆け寄って組み合わさった腕や足をほどいてやった。そして金に釣られて弟子になった。

「アナットバカ、お主を弟子にいたす」

 名前が間違えていてかなり気になるが、ここは眼をつむろう。そして俺はお金をもらってヌキラーボーナ流棒術を教えてもらう事にした。師匠のヌキラーボーナは自分の棒を派手にぶん回していたが、手元から抜けて自分の脳天にぶつかり倒れてしまった。俺は自分が師匠を雇うための資金を得るためにこのトンチキな道場に通うことにした。

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